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データ消失事故から2年!ファーストサーバ、再生への第一歩 第3回

再生のために最後に挑んだのは「人」の変革

ファーストサーバを救った顧客の声とコミュニケーションのパワー

2014年07月28日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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一番効果の高かったかもしれない施策

 半ば強制的とも言えるコミュニケーション施策の導入だが、部門を越えたコミュニケーションの機会を創出し、気になったことを率直に言い合える関係を作り出した。社内では「実は一番効果が高かったかもしれない施策」と言われている。

運用担当松本:やってよかったのは、メンバーとの1 on 1のインタビュー。普段、仕事の指示、連絡、報告以外にあまりやりとりがないメンバーもいますので、仕事の課題や会社への思いみたいことを話す機会を、会社が制度として作ってくれてよかった。仕事でも突っ込んだコミュニケーションができるようになった。

「1 on 1のインタビューを会社の制度として作ってくれたおかげで、仕事でも突っ込んだコミュニケーションができるようになった」(松本氏)

サポート部大西:今まで技術用語のやりとりはテキストメッセージが多く、名前は知っているけど、顔は知らないという人は多かった。でも、営業とサポートも同じフロアになり、全社研修の中で、顔が一致してはじめましてという人も増えた。それ以降、廊下で会って話したり、プライベートで呑みに行ったりという人も増えています。

 普段話さない人とコミュニケーションが促進されると、業務がスムーズに流れるようになる。なんか問題が起こった時にも、メンバーが快く集まり、解決策を出してくれるようになる。無駄な時間がなくなり、生産的な作業に時間が割けるようになる。

管理部小川:部長レベルの連携もあまりよくなかったんですが、今は仲がいいんです。昔は、「相談にのってやる」みたいな雰囲気があったのですが、今は部長同士で積極的に話し合っています。現場でも、以前は部門間でのプロジェクトにあまり人は集まらなかったのですが、今では与えられた仕事以外でも関わろうという意識をひしひしと感じます。

「部長レベルの連携もあまりよくなかったんですが、今は仲がいいんです」(小川氏)

開発担当藤原:コミュニケーションが増えると、人に対する評価軸が網の目のように増えてくる。実際にコミュニケーションをとらなくても、どんな人なのかという組織としての暗黙知が増える。そうなると、モノを頼みやすくなる。

 面白いのは、事故を機に顧客とのコミュニケーションが増えたこと。同社の顧客の多くは、Webサイトから申し込んでくるホームページの制作会社。いわゆるホームページの発注元(エンドユーザー)との間に立つパートナーという位置づけでもあるため、今まではビジネス面でのコミッション関係がメインで、きちんとコミュニケーションがとれていなかったという。

営業部小島:今回の事故では、こうしたパートナーの皆様がエンドユーザーとの間に入って対応や復旧まで取り持ってくれました。こうしたパートナーとのコミュニケーションは見直さなければならないと感じており、電話や訪問回数を増やしたり、パートナー会をスタートさせています。

「パートナーの皆様がエンドユーザーとの間に入って対応や復旧まで取り持ってくれました」(小島氏)

運用担当松本:お客様と直接接する機会がない運用は、今までシステム観点で物事を考えがちでした。でも、やはり運用もお客様ありきなわけで、サービスを使ってくれるお客様が本当に喜んでくれるのかという視点で、メンバー間で話ができるようになりました。

笑顔が増えた サービス開発が進んだ

 事故から2年が経ち、事故への対応、再発防止策、そしてさまざまな品質改善の施策の結果として、現在のファーストサーバは事故直後だけではなく、事故前に比べても、大きく変わったという。一言でいえば、ポジティブな機運だ。

広報阪井:私はもともと企画部だったので、企画をサービス化する段階で各部プロフェッショナルの知恵と経験が必要でした。ですが、自分の範囲を決めて仕事をするので、ボールが真ん中に落ちてしまう。そして誰も拾わないという状況でした。でも、自分の担当外でも、気づいたことを声かけられる雰囲気に変わりました。

「自分の担当外でも気づいたことを、声かけられる雰囲気に変わりました」(阪井氏)

社長室村竹:事故によって、よくも悪くも会社は大きく変わりました。今では、日本のどのホスティング会社よりも、全メンバーが事故やセキュリティへの高い意識を持っています。

運用担当松本:事故直後は、新しいサービスの話とかできませんでしたが、今ではようやく新しいサービスを開発するという段階に移ってきています。やはり新しいものを生み出すというのは、気分が前向きになります。

取締役狩野:昔は全社集会も経営陣から言いたいことを話すという感じだったのですが、今の全社集会は、現場のリーダーたちが課題や取りくまなければならないことを説明するようになりました。そんな内容は、みんな笑顔で聞いています。発言もポジティブになっていて、「事故で解約した人がまた戻ってきた」というコメントをとてもうれしそうに書いている日報とか見るようになり、会社の成長と目指すモノに近づいていると考えています。

 ●

 事故当日の模様を含め、今に至るまでの取り組みを3回に渡って展開してきたが、いかがだったろうか? 事故対応、再発防止策、そして事故の起こりにくい組織作りなど、2年間でさまざまな取り組みを進めた結果、ファーストサーバが会社として大きく成長し、生まれ変わっているのは理解いただけたと思う。

 もちろん、タイトルに書いたとおり、これはあくまで「再生への第一歩」だ。失ったデータは戻ってこないし、顧客の信用を勝ち取るまでには、まだまだ長い月日がかかる。本格的なクラウドサービスが勃興したこの2年間で、競合他社との間にできた差を縮めるのも簡単ではないはずだ。でも、おそらく彼らはその道のりをあきらめないだろう。そんな彼らを見て、たとえ「肩入れ」と「贔屓」と言われても、私は心からがんばってほしいなあと思うのだ。

「生まれ変わったファーストサーバに期待してください!」(ファーストサーバ一同)

edge

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