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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第35回

【後編】『Wake Up, Girls!』監督 山本寛氏インタビュー

「人は再起できる」山本寛監督が語る“地獄”

2014年07月18日 18時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko

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(C) Green Leaves/Wake Up, Girls!製作委員会

スタッフがアイドルという企画にのってくれた

―― スタッフサイドではどんな手ごたえを感じていますか。

「若手に機会を与えられたという意味では、すごくよかった」(山本監督)

山本 音楽の神前暁氏が所属するMONACA(音楽制作会社)からは、田中秀和くん、広川恵一くん、高橋邦幸くんといった若手の方が入ってくれて、キャッチーな楽曲をいっぱい作ってくれました。

 非常にのびのびとやってくれていて、彼らと打ち上げのときに一緒に散々飲んだんだけど、楽しかったと言ってくれました。若手に機会を与えられたという意味では、すごくよかったなと思います。

 あと、打ち上げはめちゃくちゃ盛り上がって、250人くらい来て、二次会で70人くらい残ったのかな。三次会でまだ20人残って、朝まで行ったという。あれだけスタッフがたくさん来てくれたのは、僕は初めてでしたね。

 あまりに現場が地獄だったので、そこからの解放感もあると思います。とにかく終わった、地獄から解放されたという安堵感は大きかった。

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―― エイベックスの田中プロデューサーのお話でも、製作委員会も含めたスタッフ陣は、チーム感や、作品にかける熱量が非常に高かったというお話でした。監督はなぜだと思いましたか。

山本 スタッフとは時にはケンカもしたけれども、アイドルっていう物語にみんな乗ってくれたんじゃないかなと思います。自分たちがアイドルをプロデュースしたことで、アイドルとともに歩んでいるかのような感覚を、お客さんだけじゃなくて、アニメスタッフも感じてくれたのかなと。

 アニメスタッフはふだん架空のものを描いているので、現実に実在するアイドルにつながっているというのは新鮮だったんじゃないかなと思います。WUG!声優7人に入れ込んでいるプロデューサーもいましたし、アイドルってみんなの励みになるんだなとあらためて思いました。僕自身、このWUG!を作ったことがアニメの仕事を続ける励みになりました。

人は、再起できる

山本 スタッフが、よく「『Wake Up, Girls!』という作品は、よく考えると、これ一昔前の作りだよね」って言うんですよ。うん、その通り、それを狙って作ったんだからって。

―― どんなところが一昔前の作りだと思いますか。

山本 メッセージ性や、ドラマを重んじるところ、あとアップダウンが激しいところ。主人公たちがどん底に落ちたりとか、悪い大人にだまされたりとかするわけですよ。もちろんしょっちゅうケンカもするし、なかなかまとまらない。“落ちるときはとことんまで落ちようぜ”みたいなところ。

 僕は物心ついたときにはテレビっ子だったんですけど、1980年代の子どもの頃は、特に大映ドラマを見ていたんです。『スチュワーデス物語』『ポニーテールは振り向かない』『ヤヌスの鏡』、あの辺の影響を受けています。WUG!でもこうした大映ドラマ的なエッセンスを入れたことで、原点に還ることができたと思います。

―― 原点に還る、ですか。

山本 はい。子どもの頃に好きだったものを入れた作品を作ることで、自分が何が好きで何をやりたいかが明確になりました。いい意味で開き直れました。覚悟というか。

 何か、小津安二郎じゃないんですけど、俺は“豆腐屋”なんだと。「今はカレーが売れるからカレーを作れ」と言われても、無理です、と言えるようになれたんじゃないかなと。

 僕にとっての“豆腐”というのは、WUG!のようなドラマスタイルの作品ですね。ちょっと古くさいかもしれないけれども、起伏が激しくて、主人公たちが上げて落ちてみたいなことを繰り返す。人間の汚い面まで見せるような人間くさいドラマ。結局のところ、そういう作品しか作れないし、作りたいんだとあらためてわかったので。

「“再起の物語”としてスタートした『WUG!』の制作を通じて自身も再起できた」(山本監督)

―― アニメ制作に挫折したところから、アニメを作りたいというところに帰ってきたということですね。

山本 はい。このWUG!は、もともと東北や日本を元気にしたいという“再起の物語”としてスタートしたんですが、このアニメ制作を通じて結果的に僕自身も再起できた気がします。

 WUG!のアニメは、7人の女の子たちが仙台で『Wake Up, Girls!』としてアイドルデビューをするお話ですが、通底するテーマというのがあって、7人はみな何かに挫折したり、事情を抱えたりしている女の子たちなんですね。その子たちが挫折から立ち上がってもう一度歩き出すことと再起というテーマを重ねました。

 主人公の島田真夢が言う好きなセリフがあるんです。“誰かを幸せにするためには、まず自分が幸せにならないと”。誰かのためになりたいのなら、まず自分を肯定するところから始めないと、という。それは僕にも響くところがありました。

―― これからどんなアニメを作りたいですか。

山本 僕ももう40歳なので、監督としてはあと10年間ぐらいなのかなと漠然と思っていて。限られている時間のなかで、まずは『Wake Up, Girls!』を続けたい。できるだけ続けて、残りあと数本撮ったら店終い。それくらいの心構えでやりたいなと思っています。その代わり、初志貫徹させて。「俺は豆腐しか作らねえぞ」ということにはしたいと思っています。

<前編はこちら

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