5000円台という価格帯の問題
「ちょっといいイヤホンが欲しい」というユーザーがまず手を伸ばすのが、5000円前後の価格帯の製品です。
ユーザーはまずデザインを見て選びますが、もちろん音の良さが実感できなければ、ありがたみもありません。その手法として、わかりやすく低音を多めに出していくと「迫力があってすごい」といった好評価につながるようです。これがエントリークラスを難しくしています。
音質の傾向と販売数に関する統計があるわけではないので実際の相関は謎ですが、1万円を切ったあたりから急に「低音重視」の製品が増え始めるというのが私の実感です。これは、このクラスの製品を求めるユーザーの年齢層が低いことも理由でしょう。
これは自分の経験からも言えることですが、子供の頃はオーディオにイコライザーが付いていれば、まず低音を上げていました。昔のアンプやラジカセには、小音量時の低域を補正するラウドネススイッチというものも付いていたわけですが、それも常時入れっぱなし。
でも、ある程度の年齢に達して、音は歪むわ解像度は低いわ、なんであんなバランスの悪い音で聴いていたのだろうと気がつくわけです。今でもたまに「音作りのプロが教えるブッ飛ぶほど最高な iTunesイコライザー設定」なるものがSNSを通じて拡散されてくるわけですが、そういうものを見かけるたびに、今でも変わらないのだなと思います。本当の音作りのプロなら、そうしたものを見て笑い飛ばすか、真面目な人なら怒っているかのどちらかでしょう。
もちろん音の好みは人それぞれ。低音が好きなら低音が出るイヤホンを買って何が悪い。その通りです。問題なのは、マスタリング業界の音圧競争と同じで、みんなわかってはいるけど、そうしないと売れないからというので、結果として低音を盛った製品ばかりになっていないか? ということです。