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石井英男の『研究室研究所』

この研究者・開発者がスゴイ!――大野修一氏

Gのレコンギスタの舞台“宇宙エレベーター”に惚れ込んだ男

2014年06月11日 11時00分更新

文● 石井英男

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宇宙エレベーターの実現は今世紀半ば!?

 カーボンナノチューブの発見により、建造の実現可能性は大きく高まった。宇宙エレベーター協会としては、実現時期の未来予想はしていないのだが、大林組は建築の視点から、2050年に宇宙エレベーターを完成させることが可能だというレポートを出している。大野会長は、いつ頃宇宙エレベーターが実現すると考えているのだろうか。

大野 「まず、実証用として小規模でもいいので、宇宙エレベーターを作ることが重要だと思います。航空宇宙学会所属の先生のなかには、もう低軌道の地上100kmとか1000kmくらいでいいから、とりあえずテザー(ひも)を延ばしてみたいと考えている人たちがいらっしゃいます。

 シミュレーションでいろいろ計算はしていますが、実際に宇宙空間にテザーを垂らしたときに、どのように振る舞うかは、やってみないと分からないところもあります。ヨーロッパでは、50km未満のテザー衛星の実験が始まっていますが、これを1000km、2000kmと延ばして、基礎実験をしようという意見が増えています。

(提供:Space Elevator Visualization Group)

 それで、カーボンナノチューブが工場で大量に作られて10万km分巻けるようなベルトを用意できてからが、本当のスタートですね。大林組さんは2032年着工、2050年完成というプランを発表しましたが、大林組さんはカーボンナノチューブに関して研究しているわけではないので、そこは考慮せずに、主に建築工法について考察したわけです。

 カーボンナノチューブに関して一番進んでいるのは帝人さんですね。実際には、10万kmを1つの分子で実現するというのは考えられません。ですから、長いひもを作るには、“長いカーボンナノチューブの分子を作ること”、そして“それをより合わせてさらに長くする”という、2つの技術が必要になります。

 一昨年、帝人さんは、より合わせの新しい技術を開発したらしいんですよ。ですから、材料はあります。その作り方も少しずつできています。ただし、10万kmもある長いものをどうやって作ったらいいかということについては、今ひとつ分かっていない。しかも、コストが高すぎては意味がないので、10万km分を安価に作る方法も必要です。

 例えば、ナイロンは研究室で合成に成功してから、ストッキングという商品になって安価に販売されるようになるまで30年ぐらいかかっています。宇宙エレベーター協会としても、いつかは必ずできると考えています。ただし、それは世の中次第でしょうと。これが今の宇宙エレベーターの状況です。

 宇宙エレベーター協会には、正会員百数十人と無料のウェブ会員が1000人ぐらい集まっていますけども、あと30年から40年くらいで実験用の小さい宇宙エレベーターの話が始まって、今世紀後半で大型のものが作れるようになるんじゃないかと予測している会員が多いですね。

 そして、大規模な宇宙エレベーターができても、そのクライマーに人間が乗るというのは、さらに安全率の話がありますから、もうちょっと先になるでしょう。ただ、できることがわかる、小規模でも実験が始まるっていう時点で、方向性はずいぶん変わってくるんじゃないのかなあと思っています」

―― 宇宙エレベーター建造のメリットは何でしょうか?

「カーボンナノチューブが安価に10万km分作れる時代になってからが本番です」(大野さん)

大野 「まず出てくるのが、エネルギーの話ですね。国連の予想では、世界人口が2050年に93億人を超え、必要なエネルギーも今世紀中に今の1.9倍になるそうです。その必要量は、大体、1年間に原子力発電所を20から30作らないと追いつかない。

 現在もエネルギーの消費量は増えてます。その理由の1つは人口が増えていることですが、もう1つは発展途上国の経済がどんどん豊かになっていることですね。残念ながら実情は“生活がよくなる=エネルギーを大量に使う”ということですから。

 そして今は、需要が増えた分を原油で補っています。予測に反して原油はなかなかなくならないと言われていますが、そのうち深いところや海の底など、コストがかかる場所から掘らざるを得なくなってきます。そうなると、どこかで破綻すると言われています。

 では、太陽光はどうかと言えば、地上のメガソーラーは効率が非常に悪いんです。夜もある、雨もある、斜めに光が当たると効率が大きく落ちます。本来、太陽から地球に降り注いでいるエネルギーは、もし効率100%のソーラーパネルで地球を覆えれば、地球上で1年間使われているエネルギーを約1時間で充電できるくらい凄まじいのです。

 ですから宇宙空間にメガソーラーを置ければ、ずっと効率よく発電できるだろうと。これを実現するには、ロケットより遙かに安い輸送手段が必要だということで宇宙エレベーターが注目されています。もちろん、技術的な困難はありますけれども。

クライマーの動力は燃料やソーラーのほか、画像のようなレーザー推進も考えられている(提供:Space Elevator Visualization Group)

 こうした状況は原油以外にも当てはまります。現在はコストが安いということで大規模な露天掘りなどが行なわれていますが、米鉱物資源局のデータによれば意外と早く限界が来るんですよ。金20年、銅19年、すず18年、鉛20年、チタン128年、マンガン56年。これも原油と同じで、もっと深く掘ったり、海の底に目を向ければいいのですが、当然コストも上がっていくわけですね。

 これに対して、小惑星で資源開発をしましょうという話があります。今年から開始されるNASAの計画で、2021年までに幅7m、重さ500tの小惑星を月の軌道周辺まで持ってきて、有人探査するというものがあります。基礎技術とコストの調査がもう始まっているんですね。もちろん、今はペイしませんが、これは『21世紀後半や22世紀の資源に関しては、アメリカが頑張りますよ』という宣言ともとれます。

 そして、上記の技術が確立するのであれば、それを利用するために宇宙エレベーターなど、地球の閉鎖空間から安価に外側に出る方法が求められるのです。

 さらにその先として、宇宙エレベーターが持つポテンシャルとしては、宇宙パチンコと呼ばれるものがあります。宇宙エレベーターは、地球の周りをぶんぶん回っていますが、4万7000kmより遠くで物を離すと、地球に帰ってこれないんですね。飛んでいっちゃう。かつ、地球自体も秒速70kmという猛烈な速度で太陽の周りを回っているんですよ。

 ですから、ダブルの遠心力で、タイミングを見計らって離すと、木星の外側、小惑星帯の外側くらいまではロケットを使わずに機材を投げることができるんです。その機材はやがて太陽の重力で戻ってくるわけですから、太陽系規模の大きな物流の道具として使える可能性があります。もちろん、ここまでのシステムは2100年とか2200年の話かもしれないですけど。これが、本当の意味での宇宙エレベーターの力と言われているんですね」

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