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アップルが普及を狙う「iBeacon」とは何か? その基本を押さえる

2014年05月30日 11時00分更新

文● 鈴木淳也(Junya Suzuki)

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 最近、「iBeacon」というキーワードを見かける機会が増えたという読者の方は少なくないはずだ。関連製品やサービスが続々と登場しており、今おそらくIT業界で最もホットな技術のひとつといえるだろう。

 キーワードとしての初出はAppleがiOS 7を正式発表した2013年6月のWWDCで、当初は対応サービスやアプリも少なく、非常に地味なデビューだった。

 ところがiOS 7がリリースされた秋以降徐々にブレイクし、現在ではiBeaconの文字をニュースで見かけない日はないくらいだ。「NFCを置き換える次世代の通信技術」というような表現もあるiBeaconだが、その実際と仕組みを簡単に追っていく。

「iBeacon」の正体を知る

 まずは写真1を見てほしい。これは米ネバダ州ラスベガスのForum Shopsというショッピングモール内にあるApple Store店舗近くで、Androidアプリ「iBeacon Locate」を使い、同Storeから出てくる「iBeacon」を捕捉したものだ(iOS版は「Locate for iBeacon」)。

【写真1】Androidアプリ「iBeacon Locate」を使ってApple Store前でiBeacon検索を行ったところ

 Apple Storeは、昨年2013年秋から店舗内にiBeacon設置を行なっており、「Apple Store」アプリを導入したiPhoneを持って店舗に近付くと関連情報がポップアップし、そのまま店舗でスムーズに買い物が行なえるという仕組みを展開している(関連リンク)。

 そこで、ちょうど写真2よりもう少しだけ接近した位置で、前述のiBeacon Locateアプリを使って、同店舗内から出ているiBeaconを計測した結果が写真1というわけだ。

【写真2】米ネバダ州ラスベガスのForum Shops内にあるApple Storeで、iBeaconを検索。写真1のデータはこの位置よりももう少しだけ接近した場所で取得した

 写真1では、3つのiBeaconを捕捉していることが分かる。各iBeaconからは次の情報が取得できる。

iBeaconで取得できる情報
UUID 128ビットの組織固有の識別番号
Major 16ビットの識別番号(可変)
Minor 16ビットの識別番号(可変)
Proximity Far/Near/Immediateの3つの距離
RSSI 信号強度

 写真1のデータに当てはめると、「F1EABF09〜」で始まる文字列がUUIDとなる。組織ごとに固有の番号として割り当てられるため、通常同じ施設内に複数のiBeacon装置が設置される場合、同じUUIDであることが多い。今回の場合、3つのiBeaconのうちの2つが同じUUIDで、ひとつだけ異なる状態となっている。

 ただし、これでは同じUUIDのiBeaconが同じエリアに複数存在することになるため、通常はMajorとMinorという番号を使って区別することになる。両者の違いに特に意味はないが、例えば同じUUIDを持つデパートが、全国の店舗にiBeacon装置を展開する場合、店舗ごとに「Major」の値を統一してグルーピングを行ない、同一店舗内の異なるiBeacon装置にはそれぞれ「Minor」の異なる値を割り振り区別するという使い方だ。大規模なモールであれば、フロアやエリアごとにMajorでグルーピングするのもいいだろう。

 このように同じUUIDで区別される領域全体を「リージョン」(Region)と呼ぶ。リージョンというと、特定エリアのことを指す言葉のように思えるが、実際には前述のように異なる店舗にまたがって同じUUIDは存在し、それぞれに存在する複数のiBeaconをMajor/Minorを使って区別することもできる。

 つまり、リージョンとは管理単位の名称でしかなく、全国展開するデパートがチェーン全体を1つのリージョンで一括管理するということも可能だ。

 iBeaconでは信号強度から、iBeaconの発信装置と受信器(通常は手持ちのスマートフォン)との間の“おおよそ”の距離を測ることができる。“おおよそ”となっているのは、ここで測れる距離が正確なものではないからだ。基本的に端末同士の2点間の最短距離を信号強度から割り出しているが、障害物の存在や電波状況によっては電波強度の測定だけでは正確な数字を掴むのは難しく、実際には最短距離はより近かったり、あるいは逆に遠いというケースもあるだろう。

 iBeaconによる位置測定の誤差は最大で数m程度あるということもあり、1m以内の至近距離でなければ数字的な信頼性は低いと考えてかまわない。そのためAppleは、iBeaconにおいて「Far」「Near」「Immediate」の3つの距離グループを設定し、“おおまか”な距離感を提示するにとどまっている。正確なしきい値は示されていないが、Farは約10m以上、Nearは数m以内、Immediateは1m以内くらいと考えておけばいい。

【図1】「Far」「Near」「Immediate」の3つの距離とiBeacon

 以上が、iBeaconを使って得られる基本情報のすべてだ。「えっ?」と驚く方もいるかもしれない。「街を歩いているとそのエリアの最新ニュースを自動受信」「店舗前を通過するとお勧め情報」「店舗内ではフロアガイド情報」「買い物の決済もiBeaconで楽々」――といった、iBeaconでうたわれる機能の数々を想像できる情報は、この中にはまったく含まれていないからだ。

 iBeaconとは、この数少ない情報をうまく集めることで、数々の機能を実現していく点に大きなポイントがある。そのあたりの仕組みを次の項で見ていこう。

iBeacon Locate
価格無料 作者Radius Networks
バージョン1.23 ファイル容量839KB
対応デバイスAndroid端末(要Bluetooth LE) 対応OS-
Locate for iBeaconApp
価格無料 作者Radius Networks
バージョン1.1.1 ファイル容量2.8 MB
対応デバイスiPhone 4S以降、iPad(第3世代以降)、iPad mini、iPad Air、iPod touch 対応OSiOS 7以降
Apple StoreApp
価格無料 作者Apple
バージョン2.9.2 ファイル容量6.8MB
対応デバイスiPhone、iPad、iPod touch 対応OSiOS 6.0以降

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