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1時間で1分しか遅れを取り戻せない飛行機の真実!

JALの本物すぎるフライトシミュレーターを体験したぞ!

2014年06月07日 14時00分更新

文● 藤山 哲人

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なにも操作しない自動操縦中でも旅客の安全と利便性を考慮
ときには「前を飛んでるアレ、抜きたいね」なんて会話も

 テレビのドキュメンタリーやドラマを見ていると、離陸と着陸はあわただしくコクピットのスイッチを操作チェックしている機長と副操縦士。しかし上空に上がってしまうと、オートパイロット(自動操縦)のスイッチを入れ、シートベルトも外し、コクピット内で談笑が始まるなんていう姿が見られる。

 国内線は水平飛行時間が短いが、国際線となれば数時間は飛んでいるので、相当にヒマをもてあましているんじゃないか? と疑問に思っている人も多いだろう。なにより筆者がそう思う。なにせPC用のフライトシミュレーターでリアルタイムで国内便を飛ばしていたらヒマ過ぎるので、水平飛行中は時間を早送りするからだ(超マニアはリアルタイムでやっているみたい……、お疲れ様です!)。

めっちゃ押したり、回したり、スライドしたり、倒したりしたい衝動に駆られるスイッチ類。これぞ機能美!

 しかし近藤機長は「確かにヒマそうに見えちゃいますよね。でも計器類の変化(飛行機の状態や経路の気象)を見たり、何かあったときにスグ操縦かんを握れるようにスタンバイしていたり、どう飛んだら揺れずに快適で安全なフライトができるかを常に考えているんですよ」という。

 たとえば針路に雨雲や雷雲があれば、それを回避する針路を航空管制にリクエストし、許可が出れば迂回ルートで飛行する。また自動操縦が突然OFFになっても、すぐに操縦かんを握れるように手は太ももあたりに置いてあり、計器類の値を常にモニターしているという。

 こうしてスタンバイしているので、自動操縦が切れてもシームレスに手動操縦に切り替えられるというのだ。なかでもとっておきの業務が、前を飛んでいる飛行機を抜かすことだという。ええ! バトル!?

 「見えるんですよね。同じ空港に向かっている他社の機影が……。国際線に乗務していると、副操縦士と“あれ抜きたいね”なんて話になります」

 詳しく話を聞いてみるとバトルするわけじゃなく、旅客の利便性を考えてのことだというのだ。

 「お客様は目的地の空港で、入国審査を通る必要があります。しかし先に大型機が到着すると、審査待ちの行列が長くなってしまうんです。だから前にいる飛行機より早く空港に着陸して、お客様の待ち時間が少なくなるように心がけています」

 とはいえエンジンをフル回転させて早く飛べばいいってモンじゃないのが飛行機の難しさ。なにせ空の上じゃ燃料がなくなっても給油できないし、経済性だって考えないといけない。さらに車と違い巡航速度は機種によって大差ないという点だ。プロペラ機や超音速旅客機が飛んでいない今、どのジェット機もマッハ0.8~0.9程度で飛んでいる。

手をかけているのが、車のアクセルにあたるスロットルレバー。前に倒すとエンジンの推力が強くなり、手前に引くとアイドルになる

 唯一速度差が生まれるのは、敵にも味方にもなる風の影響だ。追い風を受けると速度が上がり燃費がよくなるが、向かい風では速度が下がり燃費が悪くなるダブルパンチ(死語)を食らう。そこでパイロットは目に見えない上空の風を計器やレーダー、気象などから読み取り、追い風を受けるようにして飛ばすのだ。

 飛行機は自由に空を飛んでいるわけではなく、空に擬似的に作られた道(飛行経路)を飛ぶことになっている。飛行経路は高速道路のように片側数車線ある。ただ車と違い高度もあるため、これが階層構造になっている。高速道路が数階建てになっている感じと思っていいだろう。そして飛行経路の隣との車線は間隔が広いので、一番右と左の経路では気象が違ったり、高度によって向かい風の強さが違ってくる。

自動操縦中は、コンピュータが機体を操縦するが、現在のステータスなどがパイロットにわかるように、サーボモーターでレバー類も連動して動く

 そこでパイロットは、いくつかある車線の中から一番追い風を受ける車線を選んで、前を飛んでいる飛行機を追い抜くというわけだ。とはいえ太平洋線や欧州線は飛行機も多く、どのパイロットも同じことを考えるだけでなく、1車線には1機しか飛べないので、ここには駆け引きが生じる。

 しかも車線変更するには、管制官の許可が必要になるので、風を読み車線を決める知識と技量のほかに、先行する飛行機のパイロットが車線変更するタイミングを見極め、自身が管制官に車線変更をリクエストするタイミングも計る。まさにそれは頭脳戦。自動操縦中になにもしていないように見えるのは、場が動かない将棋や囲碁の接戦と同じで、対局者同士はものすごい頭脳戦をしている最中なのだ。

航空管制との無線関係やインターフォン、自動操縦用の経路を入力するコンピュータなどが並ぶ

 とくにオール2階建てのアレは、入国審査待ちの列が長くなるので腕の見せどころらしい。ちなみに2階建てのアレは筆者も乗ったことがあるのだが、マニアの性でできるだけ長く乗っていたいと最後に降りたら、同じ便に乗っていた旅客が列を成していて入国審査で30分ぐらい並んだ経験がある。それもそのはず、最新鋭の787が2機同時に到着したのと同じ数の旅客が一度に入国審査に並ぶのである。

(→次ページヘ続く 「いざシミュレーターに搭乗! 素人が操縦すると……」)

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