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顧客の方が商品情報に詳しい時代にどう営業する?

時代錯誤な営業現場が変わる?インサイドセールス最前線

2014年05月27日 06時00分更新

文● 大河原克行

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足を使ったフィールドセールスから電話やメールを使ったインサイドセールスへの移行が注目を集めている。インサイドセールス専業会社であるブリッジインターナショナルの吉田融正氏にインサイドセールスの市場動向を聞いた。

もっとも遅れていた営業部門が変わる?

 インサイドセールスとは、電話や電子メールなどの非対面チャネルを活用して、顧客とコミュニケーションを行なう営業手法。主に法人を対象にしたB2Bにおいて、新規見込み客の創出、商談機会の醸成、そして、製品販売後の関係熟成といった役割を担う。ちなみに、Webの製品情報を見て、企業に問い合わせをする消費者に、電話やメールで対応するB2C型のインバウンドセールスは、インサイドセールスには入らない。

 米国においては、2008年のリーマンショック以降、インサイドセールス市場は年率平均7.5%以上で成長。2008年から3年間で80万人以上の雇用を創出しているという。そして、2013年には営業リソースの52.7%が、インサイドリソースに割かれているという実態もある。つまり、この調査結果では、米国における営業組織体制は、訪問営業を行なうフィールドサービスよりも、電話やメールによるインサイドセールスの陣容の方が多いという状況になっているというわけだ。

米国ではインサイドセールスが増加傾向にある

 「生産性の改革がもっとも遅れていたのが、営業部門。そうしたなか、IBMやシスコシステムズ、SAPなどのIT企業を中心に、インサイドセールスへと営業リソースをシフトする企業が増加している。企業に競争力と生産性を持った営業体制を構築するインサイドセールスの市場は、今後も拡大していくことになるだろう」と語るのは、インサイドセールスの専業企業であるブリッジインターナショナルの吉田融正社長。「日本でも外資系IT企業での採用が進んでいるほか、日本の企業でもインサイドセールスを導入しはじめている。当社の約130社の顧客のうち、80%以上が日本の企業」だとする。

ブリッジインターナショナル 吉田融正社長

 日本では、米国のようにインサイドセールスの比率が、フィールドセールスを上回る例は少ないというが、それでもフィールドセールス700人に対して、インサイドセールス200人というような体制をすでに持っている企業もあるという。

訪問営業での製品説明はもう期待されていない?

 では、ここにきてインサイドセールスが注目を集めている理由はなにか?理由がいくつかある。1つは、営業部門における需要の発掘方法が変化しはじめている点だ。

 もともと営業部門における需要発掘には、セミナーや広告を多用した「検討キャッチ型」の手法が取り入れられていたが、低成長な経済環境や、投資の抑制といった動きを背景に、顧客の間では自律的検討が減少。それを背景に、Webやメールを活用した「需要・検討刺激型」への転換が始まっていると吉田社長は指摘する。

 また、インターネットの普及によって、顧客自身が営業担当者に頼らない情報入手が可能になり、営業担当者に対しては、さらなる付加価値情報提供への期待が高まっている。製品情報などはすでに顧客自身が理解しており、訪問営業での製品説明などに期待はしていないというのが実態だ。

 しかし、その一方で、営業現場で旧来型の仕組みにはまったく変化がない。ここに、顧客と営業担当者の関係にギャップが発生する要因があるという。

 「情報は、営業担当者よりも顧客の方が知っている時代になり、法人営業活動がやりにくくなっているのが正直なところだろう。また、営業担当者は、販売計画、見込み客発掘、引き合い獲得、提案・見積もり、受注・契約、納品、債権回収などのすべての営業プロセスを一人でこなしている体制のまま。個人の得手、不得手を考慮されないまますべてのプロセスを担当しているのも実態だ。さらに、これだけ雇用が流動化し、転職が当たり前となったなかでも、属人的な営業活動体制からは変化しないままである。そして、営業の教育投資を行なう企業が減少している。経済環境が厳しいなかにありながらも、成長している時と同じ営業体制であることが問題である」と、吉田社長は語る。

営業担当者はすべての営業プロセスを担当することで効率性を失っている

 産労総合研究所の調査によると、2011年に営業社員および販売員教育に対して研修を実施した企業は51.0%だったが、今後重点的に営業社員および販売員教育に投資するとした企業はわずか8.1%に留まった。営業人材の流動化や、営業の役割が変化してきていることが、この背景にあるともいえよう。

「気合い」「根性」「経験」の「3K」も限界

 また、こうした市場成長を前提とした従来型の営業体制は、各社が取り組む新規顧客開拓にも無理が生じやすいと吉田社長は指摘する。

 「成長への不安から、新規顧客開拓の方針を打ち出すのは多くの企業に共通した動き。だが、もともと新規顧客開拓のノウハウを持たない営業担当者がやみくもに動いても成果が出にくい。新規顧客では数字が作れず、期末には予算達成のために、既存顧客で数字を作ろうと考え、結局は新規顧客資産が増えないということの繰り返し。これも多くの企業にみられることだ」とする。

 成果創出のための具体的な手の打ち方や、行動管理ができないため、その裏返しとして、「気合い」、「根性」、「経験」という「3K」がまかり通り風土も、市場変化に対応できない要素であり、この手法も、すでに限界に達しているとする。

  こうした市場変化、環境変化、顧客の変化に対応するための新たな営業手法の提案が、インサイドセールスだと吉田社長は位置づける。

 顧客側の変化のひとつには、ネット時代の浸透とともに、これまでのように1時間の訪問時間内に50分間情報交換をして、商談は10分というような訪問営業の手法が通用しなくなってきたことも挙げられる。ビジネス環境の大きな変化によって、要件だけを簡潔に提示するといった営業手法が顧客に求められていることもインサイドセールスの浸透につながっているという。

 「市場が成長しているときと同じ営業体制でいいのか、顧客が営業に期待していることに対応できているのか、いつまでの3K風土が続くのか、優秀な営業がいつまでも会社にいるという前提ではないのか、そして、依存度の高い既存顧客の業績が低迷したら、一緒に低迷してしまうのか。こうしたことを解決するための法人向け営業モデルが、インサイドセールスということになる」とする。

(次ページ、フィールドセールスの強みを最大限に発揮)


 

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