『Wake Up, Girls!』プロデューサー田中宏幸氏インタビュー
アニメは接客業である――エイベックスが声優を育てる理由
2014年06月13日 17時00分更新
スタッフと製作委員会が高い熱量を持っていた理由
そして……「『Wake Up, Girls!』はまだ“第1章”」
―― アニメの場合、声優はネームバリューのあるほうがお客様の関心は高くなりますよね。新人声優を起用したことで何が生まれたと思いますか。
田中 オーディションからデビューしている子たちなので、ごく初期の段階から彼女たちが成長する姿を見てもらえました。そのなかで成長を見守りたい、支えてあげたいという気持ちが芽生えてくださったのではと思います。
また、新人声優たちの、なんとかイベントを見に来てほしいという真剣さが心に響いて下さったのではないかと。というのも、WUG!ってアイドルものとしては泥くさいのです。アイドル戦国時代のなか、仙台を舞台にして上を目指すという内容なので。
得てして、良いフィルムは作れても、伝わるフィルムを作るのは難しいのですが、WUG!の場合はこの“泥くささ”が、伝わるための役割を果たしたのかもしれません。
ですから、この作品でデビューするんだという新人声優たちの真剣さと、泥くさい内容との相乗効果が生まれたことで、(見守りたい、支えてあげたいという気持ちが)一層膨れていったのかなと思っています。
そして声優やイベントスタッフ、監督含めたクリエイターチーム、そして僕ら製作委員会メンバーの熱量も高かったですね。
―― スタッフの方々は多くの作品を担当されていて、WUG!もその1つだと思いますが、なぜWUG!に対して熱量が高まったのだと思いますか。
田中 1つには、7人の新人声優の皆さんが、明るく謙虚にいろいろな方の意見を吸収しながら、演技や歌やトークなど、ちゃんと努力をして、こちらが設定するハードルよりも高いところを1個1個越えてきていることですね。
彼女たちの必死さは製作委員会のメンバーに強く響いていますし、それはたぶんスタジオ側にも、ひいてはお客様にも伝わっているのではないかなと思います。
もう1つは、監督・音楽・脚本そして声優育成チーム自らで7人を選び、この業界に進んでもらったということが大きいのでは。皆、責任めいたものを感じてくださっている。お父さんお母さん気分というか、目の中に入れても痛くない、みたいな(笑)。
実際、お父さんお母さんを自認する人が多いんですよ。僕はどちらかというと社内のマネジメントなので、本来は少し引いて客観的に見なければいけないのですが。製作委員会のプロデューサーの皆さんは、僕以上にどんどん前にのめり込んで、「少しでも自分たちの決裁できる範囲内で、彼女たちの活躍の場を探してあげよう」という気持ちを強く感じますね。
僕もWUG!のような立て付けの企画は初めてだったのですが、面白かったですし、愛着があります。
―― 愛着、ですか。
田中 たぶん……いっぱい頑張ったから!(笑)。いっぱい頑張ると、さらに愛着が増す、みたいな感じです。
本質的にアニメーションは職人さんが一枚一枚描いて初めてできるものなので、一人一人のモチベーションの積み上がりが大事ですよね。そのなかで、プロデューサーは絵を描けるわけでもない。僕の役割は別にあって、それはスタッフやお客様に作品へのモチベーションを高く持ってもらうことです。
昨今のアニメ業界は新作が多く、今期の春は60本くらいあります。その60本のなかで、お客様に60分の1ではなく、ちょっとだけひいきにしてもらうというか、思い入れを持ってもらえればいいなと。
僕らスタッフは、『Wake Up, Girls!』はまだ“第1章”だと捉えています。現在は下積み段階で、これから次のステップに……“次”をやりたいなと。
構想はあります。続けたいということは、強く書いておいてください。
■Amazon.co.jpで購入
Wake Up, Girls! 1 初回生産限定版 [Blu-ray]エイベックス・マーケティング
Wake Up, Girls! 2 初回生産限定版 [Blu-ray]エイベックス・マーケティング
Wake Up, Girls! 3 初回生産限定版 [Blu-ray]エイベックス・マーケティング
Wake Up, Girls! 4 初回生産限定版 [Blu-ray]エイベックス・マーケティング
(C) Green Leaves/Wake Up, Girls!製作委員会
この連載の記事
-
第56回
アニメ
マンガ・アニメ業界のプロがガチトークするIMART2023の見どころ教えます -
第55回
アニメ
日本アニメだけで有料会員数1200万人突破した「クランチロール」が作る未来 -
第54回
アニメ
世界のアニメファンに配信とサービスを届けたい、クランチロールの戦略 -
第53回
アニメ
『水星の魔女』を世に送り出すうえで考えたこととは?――岡本拓也P -
第52回
アニメ
今描くべきガンダムとして「呪い」をテーマに据えた理由――『水星の魔女』岡本拓也P -
第51回
アニメ
NFTはマンガファンの「推し度」や「圧」を数値化する試みである!? -
第50回
アニメ
NFTで日本の漫画を売る理由は「マンガファンとデジタル好きは重なっているから」 -
第49回
アニメ
緒方恵美さんの覚悟「完売しても200万赤字。でも続けなきゃ滅ぶ」 -
第48回
アニメ
緒方恵美さん「逃げちゃダメだ」――コロナ禍によるライブエンタメ業界の危機を語る -
第47回
トピックス
『宝石の国』のヒットは幸運だが、それは技術と訓練と人の出会いの積み重ね -
第46回
トピックス
『宝石の国』が気持ちいいのは現実より「ちょっと早回し」だから - この連載の一覧へ