本の未来を考えたら本のはじまりが見えてきた
―― 1年半ほど前なんですけれど、「Sherpaa」っていうオライリーのVC部門などが投資した会社の記事を読んだんですよ。Sherpaaは訪問医の会社で、有名なニューヨークの病院に勤めてたお医者さんが起こしました。Googleカレンダーで診療を申し込んで、申し込むときに患部をスマホで写真に撮る。で、支払いはPayPalでもオッケーみたいなことでした。これがニュースになるのは、医療の世界がこういうものを受け入れてこなかった業界だからですよね。外側から見れば、とても当たり前なことをやっているだけなのに。だから出版社の場合も、いま当たり前にやれることは何かを考えることが重要ですね。noteは、そういうところがよく出来ていると思います。で、ここからはどうなっていくんですか?
加藤 さっき言った「マガジン」という新機能が大きいですね。
―― コンテンツをグループ化する。
加藤 ええ、今後はこれをタレントさんとか、ミュージシャンだったりとか、作家さんだったりとか、もちろん出版社の雑誌も一緒に使っていただけたらなって思っています。シンプルな仕組みなんですけど、かなり汎用性があるかなと。
―― なるほど、いまだとまとめとかキュレーション的な欲求ということなんでしょうけど、出版社の雑誌もそこで使えるようなものだとすると、無料のオンライン教育、Khan AcademyとかCourseraとかどのように見ているんですか?
加藤 ああ、Khan Academyは、凄いですよね。ぼく、アメリカでKhanさんの講演を見たことがあるんですけど、あれは感動しました。
―― 「未来の本」というならそっちの方向になりますよね。だって本のはじまりって、教会にあった聖書とかを、昔は手書きなので教会に置いたままだったので見に行かなきゃいけなかったけど、印刷機が発明されたことで教会から本が飛び出して、デリバリーされたものじゃないですか。いわば「学ぶ」ところから始まっている話だから、出版の話とKhan Academyみたいな教育の話しは関係するんじゃないですか?
加藤 おっしゃるとおりで、すごく関係していますね。でも、noteをまとめる仕組みを使えば、いろんな人が自分の学校を開くことも可能です。言っていて気づきましたけど、学校もできるようにもなるんだな、これ。
―― 学校って何かというと、本質はカリキュラムというコンテンツです。
加藤 そうですね。ああ、なるほど、これはコンテンツの粒度の話なんだな。つまり、コンテンツとして粒が大きいものが大学だったりするわけじゃないですか。小さいのが本で。
―― しかも、それを体得したっていう保証までしてくれますから。頭に入ったのはただの情報みたいなあやふやなものなのに、それを目に見える形の価値に置き換えている。これは、まさに強力なパッケージというべきものでしょう。
加藤 たしかに、学位ってそういうものですよね。あいまいなものを修士とか博士といった具合に、保証してくれる。noteに話を戻すと、現時点では、個人のものをバラバラで売るだけなので「自分がいちばんできること」をみんな売り始めています。でもその延長で寺子屋だったり、塾だったり、大学が生まれていることを思うと、それは大いにありえますね。
―― 教えるとか、知るとか、伝えるとかというとてもベーシックなテーマに入っていくって凄くいですね。教育っていう話がでたところで、noteはどういうところまで広げていく感じなんですかね?
加藤 僕は、日本国内で3,000万人くらい、世界で何億人くらいに使ってもらえるものにしたいと思っていますよ。最初は、出版というところから考えはじめたんだけれど、途中で「あ、これはみんな一緒だな」って思って。映像とか写真とか音楽とかも付けたのは、そういう理由からです。
加藤貞顕(かとうさだあき)
1973年新潟県生まれ。大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。アスキー、ダイヤモンド社に編集者として勤務。『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』など話題作を多数手がける。2011年12月に株式会社ピースオブケイクを設立。2012年9月、デジタルコンテンツ配信プラットフォーム「cakes(ケイクス)」を立ち上げた。 2014年4月、個人向けメディアプラットフォーム「note(ノート)」をリリース。
遠藤諭(えんどうさとし)
1956年長岡市生まれ。株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員。プログラマを経験後、1985年アスキー入社。1991年より『月刊アスキー』編集長、株式会社アスキー取締役などを経て2013年2月より現職。雑誌編集のかたわらミリオンセラーとなった『マーフィーの法則』、野口悠紀雄氏と協力して「超」整理手帳などをプロデュース。アスキー入社前には“おたく”という言葉を生んだ『東京おとなクラブ』を創刊してコミケで売っていた。