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ピースオブケイクCEO 加藤貞顕さんに聞いてみた

メディアプラットフォーム「note」の作り方(後編)

2014年05月17日 12時00分更新

文● 遠藤 諭/角川アスキー総合研究所

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お金をやりとりするとコミュニティになる

加藤 デザインは重要ですけれど、やってみてもうひとつ「あるかも」と思ったのが課金なんですよ。課金するとコミュニティが生まれるということが、実際にやってみてわかったんです。遠藤さんにもコンテンツを1つ売ってみてほしいんですけれど、売ったらわかるので(笑)。

―― コミケの魅力だって、実際に読者に売ることじゃないですか。

加藤 作っている自分がいて、買う読者がいると、小さなコミュニティができるんです。その構造をちょっと拡張したものが雑誌ですよね。大きな話をすると、グローバリゼーションとインターネットでみんな快適な生活が送れるようになって、概ね豊かになっているはずなんだけど、人の心っていうのはデカいシステムからは阻害されがちなんですよね。

 たぶん、人はコミュニティが小さければ小さいほど幸せなんですよ。恋人同士とか家族とか。なので、こういう現代社会に小さなコミュニティを提供する役割が、コンテンツにはあるんだろうなって思ってるんです。最近、ナタリーの唐木さんがnoteでコンテンツを売った際に、面白いことをおっしゃっていたんです。100円で売ったコンテンツからコミュニティが発生して、自分がそこの主(ぬし)になって、買った人がコミットして、仲間が生まれるんですよ。

 これはさきほどの遠藤さんの話につながるんですけれども、あるブランドとか思想にまつわるコミュニティが、100円とかいう小さいコンテンツ単位でできるということは、結構すごいことなんじゃないかと思ってるんです。

―― Webの流動性とは違う、僕が言ったロゴなのかマークなのかが生み出すようなものが、課金でも生まれるんじゃないかってことですね。

加藤 そうです、そうです。それがコンテンツ単位でも生まれるし、1つ上の個人ページの階層でも生まれるし、そういう再帰的な、コミュニティの再生産みたいなものがここで生まれるんじゃないかといま考えています。

―― 僕は本って、それをめぐって寄せては返す波のようなものがあると思っていて、たとえば、誰かが本を書くとする。いまだったら誰かがブログを書いたということでも近いものはあるんですが。それに対して、2ちゃんねるで炎上したり、Facebookでリンクを貼ったり“いいね!”したりとかって、ある固定されたコンテンツに対してザーッと波が寄せるような感じです。昔の紙の本の場合なら、書評だったり、評判だったりするわけですけれど、それを見守っていた別の誰かが、その本に対するみんなの感想や、解釈やそれまでに自分が持っていたものを再構成して、また新しい本を書く。

 だから、本っていうのは1冊では終わっていなくて、グーテンベルクの聖書からというとかっこ良すぎるんだけれども、全部つながってるんですよ。で、それは寄せては返す周期性によってつながっている。僕は、ネットが出てきて以降の、情報をどんどん出して広がっていけばいいという傾向に違和感があって、あえていえば、本の価値って出版されてコンテンツが固定化されるところにあると思うんです。まったくネット時代的じゃないんですが、逆にいまパッケージ力を上げることはできないかとも思うんですよ。それによって、生産的な周期運動が生ずる。中身の質も上がり、新しいものも生まれる。今後も、そうやって“知”とか“表現”というのは培われていくものなんじゃないかと。

加藤 たぶん似たような話をしていると思うんですが。

―― すごく同じみたいだけれど、ちょっとだけ違う気もしますね。

加藤 たとえば、誰かが何かを書きますよね。それを誰かが受けて、反駁し、また何かを書きますよね。これはコミュニケーションと言えばコミュニケーションなのかなと。それがもうちょっと小さい粒度で、速く起こるのかなと思っているんです。

―― ネットではあらゆるものが高周波化しますからね。

加藤 ただ、それがフラットに行ってしまうことには、僕も抵抗があります。

―― メディアの役割って「ノイズ」を起こすことになってくんじゃないですかね? すべてが最適化されたら人間は要らなくなるといった人がいましたけれど、すべてが均一になったら何もエントロピー的に起こらなくなる。世界が均一になることに対して、あえて「こうだろ」と新しいインサイトを提示するのがメディアの役割です。それが、いままでの本や雑誌では書き手や編集者が感覚でやってきたけれども、noteみたいなシステムの役割というのは、そういうことをサポートすることになっていくんじゃないですかね?

加藤 すごくそう思います。僕が、noteでやろうとしていることって、コンテンツ側がテクノロジーを武器にして、インターネットにやられっぱなしだったところに反撃するってことだと思うんですよ。

―― でも、ネットが来ても意外と平気だったものもありますよね。

加藤 といいますと?

―― それは映画ですよ。映画はどうすごいかっていうと、映画って権利に関しても包括契約していて、タイトルからエンドロールまでパッケージ感がすごい強固なわけですよ。もちろん、映画も実は崩れるかもしれないですけどね。映画が、他のメディアよりはネットにやられないかもしれないように見えるのは、“資本と強固なパッケージの核力”みたいなものがあるからですね。

加藤 映画は、確かにすごいですよね。

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