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体験して知る、楽しいデジタル 第2回

人とロボットが暮らす社会には何が必要?

きっかけは「はやぶさ」 ロボペンギン制作のJKは今、慶大でロボットを研究中

2014年06月04日 11時00分更新

文● ASCII.jp編集部

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慶應大学環境情報学部に進学
ロボットの概念を研究

慶應大学湘南藤沢キャンパスには、環境情報学部、総合政策学部、看護医療学部の学生が在籍。テクノロジー、サイエンス、デザイン、ポリシー等多様な研究分野を既存の学問の枠にとらわれず自由に修得できるのが特徴だ。

――どうして工学系ではなく、環境情報学部を選んだのですか?

近藤 慶應大学湘南藤沢キャンパス(SFC)には、文系から理系の工学系まで、ほとんどすべての分野の研究室と授業があって、環境情報は研究室も好きなところに行けるからです。必修が少なくて、1年から4年まで好きな授業を取れます。あとは1年生の春から研究室に入れるのはすごく魅力的ですね。一応入り口をわかりやすくするために理系っぽく「環境情報」という名前がついてますが。ガッツリ理系の人は少ないと思いますね。

――実際に手を動かしてロボットを作るという人は少数派なんですか。

近藤 そうですね、ロボットは今まで研究室がなかった分野です。できて半年の新しいロボット研究室があり、ほぼ初代メンバーとして入り ました。高校時代にロボットのワークショップでお世話になったのがその研究室の先生で、慶應に受かってからも研究会に行ったりしてました。

「人と暮らすロボット」の研究に打ち込むために慶応大学藤沢キャンパス(SFC)の環境情報学部に入学。

――ロボットから派生するものでは、どんなものを学びたいですか。

近藤 ロボットはガチガチの工学系の、メカメカしいものだと思われがちですが、人と一緒に暮らすロボットには、見た目のデザインや動き方、人間とどう接するかなど、そういった要素はすごく大事だと思うんです。

 工学系の分野だと、内部がむき出しのロボットのイメージが強くて、実際にもそういうものが多いんですが、「もるペン!」は、見た目を重視しているのはもちろん、「怖くないな」とか「一緒に泳ぎたいな」とか、「この子だったら一緒に過ごしたいな」と思えることを大事にしています。人間がどのように行動するかなど、ロボットと暮らす環境の作り方みたいな部分も含めて勉強していきたいです。

――人間とロボットが一緒に暮らしていて、同じ環境にいても怖がられない状況を作り出すには、ロボット側は何をすればいいのか、ということですか。

近藤 そうですね。例えば人間同士が新しく集う場所を作る研究もされています。そもそも、人間同士が新しく出会うときに何を気をつけたらいいかを知らないと、新しい場にただでさえ異質なロボットを投入したいと思ったときに、ナンセンスなものを作ってしまうと思うんです。

――筑波大の大学院を卒業された方が、同じように、人間が普通に歩いている環境の中で動かすにはどうすればいいかということを研究されてますね(参考)。最近やっと、そういった分野にも日が当たるようになったと。

近藤 クルマってブレーキライトとかウィンカーとか、ルールが決まってるじゃないですか。ロボットはそれが決まってないので、とても危険だと思っています。クルマは決められた道路を走るために、いろいろと規格や決まりごとがあるわけです。だから、人間と同じ環境で暮らすロボットには、もっと決まりごとが必要だと思います。

 例えば、感情があるロボットだったら機嫌が悪いことや、電池が少ない状態を一瞬でわかるようにする必要があると思うんです。そういう概念が普及しない限り、ロボットも普及しないと思っています。ロボット関係の企業の人に聞いたら、現状ではロボットの安全基準がないし、企業として作ったものに対する責任を負うリスクが高すぎて実現できない、ということでした。

 大学の中にそういった方面のロボット研究の前例がないというのは、自分にとってやる気になっています。SFCはもともとインターネット研究の最先端だったのに、まだロボットが動いていないというのは「あれ?」と思っていて。まずは、大きい池でペンギンロボットを泳がせるところからかな、と。

 今作りたいのは、ただ人間の後をついてくるだけの歩くペンギンのロボットです。それに後ろをついて歩かせて、大学構内を普通に歩きたいです(笑)。

――ペンギンがついて歩いていたらきっとかわいいですね。欲しいです。

近藤 かわいいから、というよりも、ペンギンって、2足歩行でしかも直立だし、人間に近いんです。見た目が人間と近いので、人間と似たような生活ができる素地があると思ったんです。あとは、ペンギンを嫌いな人があまりいないという点です。好意的な感情を持たれる動物だし、水族館に行かないと見られなので、犬猫みたいに個人の好みに左右されない。歩き方はけっこうぎこちないですが、岩場とか行きますし、たぶん生物としての性能はいいですよ。

「もるペン!」近藤さんが担当したフリッパーとモーター部分。防水処理が大変だったという。

――しかも人間と同じく地面と水中を行き来できますからね。

近藤 たまたまペンギンに目をつけただけなんですが、考えていけば考えるほどいい題材に出会ったなと思っています。ペンギンのロボットを作っていて、「怖い」って言われたことがないです。でも、1回だけ「怖い」と言われたことがあって、それが顔とお腹の模様を塗る前です。

――この状態だとあまりペンギンっぽくないですね。

近藤 これだとペンギンにも見えないみたいで。チームの仲間も最初はペンギンの動きを完璧に再現しようとしていたんですが、私はたぶん羽根は上下に動いているだけで、あとは体がしなっているんだと主張しました。あとは、ペンギンに見えないと仕方ないじゃないか、と。デザインは大事だと思いますね。

「ペンギンらしさ」にこだわったという。

――今後、「もるペン!」以外の目標はありますか?

近藤 まずは先ほどお話した、ついてくるロボットを作りたいですね。ただついてくるロボットを作るのはだれでもできると思うんですが、それに「かわいい」の要素はどれだけ必要なのか、というところを研究したい。

 あと、やっぱり宇宙が好きなので、宇宙船の中で使うサービスロボットを作りたいです。3次元空間の中で使うロボットの、ブレーキライトや指示器といった指標を考えたいです。3次元空間は2次元空間よりも危険が多いはずなので、3次元をベースに考えたルールを地上で応用すれば、より様々な面をカバーできるかなと。

 あとは、自分で作ったロボットを、少なくてもいいので売りたいと考えています。海外のショーにも持って行きたいですね。

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