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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第251回

太陽電池で動作する超低消費電力プロセッサーNTVとSTV

2014年05月05日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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トランジスタの違いで
特性が変化するNTV

 論文ではさらに、32nmプロセスでのトランジスタの種類の違いの比較結果も示されている。

トランジスタの違いによる比較。意外にも効率の観点ではFastが一番良いようだ。もっともリークそのものは激増しているが……

 インテルに限った話ではないが、あるプロセスを利用してCPUを作るとき、多少リークが増えてもいいから高速動作するトランジスタ(主にCPUパイプラインの一番高速なところ)と、遅くなってもいいからリークが少ないトランジスタ(3次キャッシュなど)、それとその中間的な特性のトランジスタ(上の2つ以外のほとんどの部分)といった具合に複数の特性のトランジスタを組み合わせて回路を構成するのだが、それが上の画像のSlow/Medium/Fastである。

 Slowが一番リーク電流が少ないが、これを使うと動作周波数が700MHzに達しない。逆にFastはSlowの7.5倍もリーク電流があるが、900MHzを超えて動作する。中間のMediumはSlowの2.5倍のリーク電流があるが、800MHz位まで動作する。

 通常、低消費電力系のプロセッサーを使う場合はSlow系を多用することが多いが、性能あたりの消費電力という観点で見た場合は、Fastの方が有利というのはおもしろい。ただ絶対的な消費電力は拡大図を見ればわかるとおり、Slowを使うことでFastに比べて18%ほど性能が改善できるとしている。

 インテルはこれ以外に、同じく32nmプロセスを使ったSIMDエンジンやグラフィックプロセッサーなども2012年のISSCCで発表しており、NTVが広範囲にわたって使えることを色々実証しようと躍起である。

 ただしNTVは実用には遠いと見られている。最大の問題は、効率を上げようとすると数十MHzの動作周波数しか得られないのが現状だからだ。

 消費電力効率は確かに良いとはいえ、数十MHzで満足できるのはせいぜいMCUであって、最近のフィーチャーフォン(要するにガラゲーの類)ですらこれではまともに使えない。

 もちろん理論上は、例えば50MHz駆動のコアを20個並列に動作させれば1GHz相当になるわけだが、4コア8スレッドのCPUですらフルに使うのが難しいというのに、20コアがまともに性能を出せるとは思えない。

さらに低電圧を実現するTFET
ただし実用化はまだ先

 この動作周波数をもっと引き上げよう、という研究にあわせて最近着目されているのがSTVである。先ほど、STVの場合はスレッショルド・スロープに60mV/decという理論限界があるという話をした。先の図3のうち、スレッショルド領域を少し拡大してみたのが図4である。

図4 図3のスレッショルド領域を拡大したもの

 スレッショルド領域は、縦軸を対数にするとほぼ直線になっているのだが、この傾きが60mV/decade(60mVごとに出力電流が10倍になる)という理論限界がある。現実問題、60mV/decadeを実現するのも難しく、実際のMOSFETで測定すると普通は70mV/decadeになるそうだ。

 もしも、この傾きをもっと急にすること(つまり50mV/decadeや40mV/decade)が可能になれば、結果的にVthをもっと低くできる。すると、同じ電圧であってもさらに動作周波数を上げられるようになる。あるいは同じ動作周波数ならさらに電圧が下げられることになる。

 これに関して2014年1月にインテルが触りだけをSneak Previewとして発表したのが、25mV/decadeを実現できるというTFET(Tunnel FET)である。

 TFETは2013年末に開催されたIEDM(International Electron Decice Meeting)という学会で発表された内容であり、ナノワイヤーに加えてGaSb/UnAsなどを加えた特殊なトランジスタを使った場合の話なので、量産に持ち込めたとしてもNTVの遥か先になりそうではあるが、こうした研究も引き続き行なわれている。

インテルだけでなくARMも注目するNTV

 実はこうしたNTVに食指を伸ばしているのはインテルだけではない。例えば数十MHzという動作周波数は、最近なにかと話題になるIoT(Internet of Things)向けのMCUには十分な速度であり、それもあってARMは結構昔からこの分野に力を入れている。

 2009年のESC(Embedded System Conference)ではNXPが当時発表されたばかりの「Cortex-M0」コアを使ったMCUを太陽電池で動かすデモがなされており、NTVと同等の低消費電力で動作することを検証している。

 ARM本体の動きとしては、2012年に英サウザンプトン大学と共同で、「Cortex-M0」ベースのEnergy Harvesting System(太陽電池などでエネルギーを収集するシステム)向けのコントローラーを試作する論文(PDF)を出しているが、ここでサブスレッショルド電圧での動作モードを組み込んだ場合の実装や、その結果が示されているほどだ。

 分野さえ選べば、NTVは「もうすぐ使える」技術である。問題はプロセッサーなどの高速動作デバイスにはまだ適さないことで、残念ながら短期的にこれが解決するめども今のところたっていない。

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