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現場に聞いたAWS活用事例 第4回

MUJI passportと無印良品ネットストアで見える“顧客時間”

無印良品の顧客動向をディープに探るRedshiftとトレジャーデータ

2014年05月26日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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マーケター向けと現場向けに2つのツール

 このMUJI passportと無印良品ネットストアのビッグデータ解析に用いられたのが、前述したAmazon Redshiftとトレジャーデータサービスだ。

リヴァンプ CTO 濱野幸介氏

 製品の選定要件について、濱野氏は使う人によってツールを分ける必要があったと説明する。「試行錯誤した中で、施策を検証するマーケターのためには速報性のあるツール、レポートが必要な人はバッチ的なツールという風に使い分けるようにしました」と説明する。また、非会員数も含めた年間で2.4億のPOSデータ、年間9億件というWebサイトの閲覧データが対象であるため、これらをリアルタイムにさばけるという点ももちろん重要だった。

 さらにコストも重要だ。いくら売り上げを上げるための施策とはいえ、オンプレミスでサーバーやストレージ、高価なDWHやBIツールが前提だと、導入は難しかった。「『初期投資に数億円かかります』という段階で、経営陣からは『で、いくら儲かるの?』と言われます。そこで『やってみないとわかりません』なんて答えたら、稟議が通りません(笑)」(山際氏)。

 こうした要件から、データ解析基盤の中心に据えられたのが、Amazon Redshiftだ。Redshiftでは、実店舗のPOSデータ、無印良品ネットストアのデータ、「Adobe SiteCatalyst」で収集したアクセスログなどをストア。おもにマーケター向けのBIツールである「Tableau Server/Desktop」でアドホックに分析するという用途に使っている。山際氏は「Redshiftの登場は大きかった。ようやく使い勝手でも、価格面でも使えるモノが出てきた感じ。安心感がありました」と語る。

良品計画マーケティングシステム概要図

 一方のトレジャーデータでは実店舗とネットでの顧客のアクティビティを一気通貫で追う「顧客時間」の測定に用いている。購買データやポイントデータなどは直接サーバーを調べればよいが、顧客時間を調べるには、顧客のアクティビティの点を線につなげる作業が必要になるため、トレジャーデータサービスがないと不可能だという。濱野氏は、「行動データを溜めるだけではなく、縦と横を適切な粒度で選択できないと困ります。SiteCatalystがはき出す400カラムくらいのデータの解析にトレジャーデータが役立っています」と語る。

 さらに、トレジャーデータサービスでは、解析の前処理も行なっている。「CookieをベースにしたWebのアクセスログと顧客のIDは、ログインした後に始めてひも付きます。しかし、過去のログのCookieは改めてデコードしなければなりません。でも9億件もあるので、膨大な計算能力が必要でした」(濱野氏)とのことで、データの入力の部分からトレジャーデータサービスをフル活用している。

 トレジャーデータサービス選定の理由を、濱野氏は「Hadoopは運用が面倒。詳しいエンジニアが貼り付けられればよいのですが、事業会社でそういったエンジニアを確保するのはやはり難しい。その点、トレジャーデータのように、クラウド型で使えて、データの出し入れを普通の技術者ができるフルマネージ型サービスは、うちのような事業会社に合っていると思いました。技術的なところであまり悩みたくないんです」と語る。

現場の勘を確信にする顧客時間の解析

 トレジャーデータサービスによって、今まで現場が勘で得ていた購買行動がきちんとデータとして得られるようになったという。たとえば、店にチェックインしたお客様の3割はその後、商品を買ってくれていて、買った人の2割は24時間以内だった。濱野氏は、「300円のマッサマンカレーを100円にしたら、どれくらい客が来て、どれくらいリピートしてくれたのかがわかるようになりました」と実例を語る。

8種類の素材にピーナッツを加えた「マッサマンカレー」。世界美食ナンバー1と呼ばれるタイのカレーをレトルトで手軽に食べられる

 山際氏も、「『チラシの賞味期限は3日で、初日が一番効果が大きい』みたいなことは感覚的には昔から分かっていたこと。でも、追えるだけではなく、それぞれがつながっているので、より精度高い施策を打てます」と語る。現在は、店ごと、エリアごと、県ごとのデータをバッチ的にレポートとして出力して、店長やエリアマネージャーに提供しているという。こうした施策の結果、既存店の来客数は久しぶりに前年度越えを実現した。もちろん増税や大雪のような天候、良品週間の実施時期など変動要因も多いが、顧客時間を中心に据えた施策には手応えを感じているという。

 今後は、試行錯誤しているTableauを使ったデータ解析もより精度を上げていくほか、勉強会などを開いて、現場でのデータ解析の活用能力を高めていくという。将来的には、Webサイトやモバイルアプリ向けにまたいだユニバーサルなレコメンデーションエンジンを展開する予定。020やオムニチャネルを超える同社の施策にますます注目したい。

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