理化学研究所(理研)の研究グループは、DNAのなかでこれまで大多数が機能を持たないとされていた“ジャンクDNA”とよばれる部分に、iPS細胞やES細胞などのいわゆる万能幹細胞などで発現する転写産物が大量に存在することを発見した。
遺伝情報を司るDNAの配列にはタンパク質合成に寄与せずまったく機能しない、いわゆるジャンクDNA配列「ncRNA(ノンコーディングRNA)」が多数存在する。そのうちレトロトランスポゾンと呼ばれる部位は、生物がHIVのようなレトロウイルスに感染することによって遺伝配列に組み込まれ、またそれによって様々な進化を遂げた際の名残りではあるものの現在では意味のない部分とされていた。
研究では、幹細胞におけるncRNAの役割を調べるためiPS細胞やES細胞、およびiPS細胞の樹立に用いられた細胞種について理研独自の技術などを用いて網羅的な遺伝子発現解析を実施。ヒトとマウスの幹細胞において、これまで知られていなかった幹細胞特異的な転写産物「NASTs(Non-Annotated-Stem-Transcripts)」が、ヒトとマウスあわせて1万種類以上存在していることなどを発見。これらのうち1/3はレトロトランスポゾンの断片から転写が始まっているのを確認した。
さらにNASTsの役割を機能阻害実験などを通して調べたところ、一部はiPS細胞での多能性マーカー遺伝子を直接制御する機能を持つことを発見するなど、一見して機能を持たないncRNAの中にもいまだに幹細胞の時点である種の機能を果たしていることが分かったという。
遺伝子研究の最前線では、さまざまな生物のゲノムをすべて解析するプロジェクトが進むなど、DNAの特定配列の役割は判明しつつある。これまで意味のない情報とされていたジャンクDNAも幹細胞分化において機能することが発見されたのは大きな知見の広がりといえる。理研では、今後さらにNASTsの機能を解明することで、iPS細胞などの幹細胞から目的の細胞を効率よく分化させる方法の開発などへの応用が期待できるとしている。
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