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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第250回

サムスンと提携するGLOBALFOUNDRIESの14nm FinFET戦略

2014年04月28日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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14nm LPEに方針転換
14nm XMはなかったことに……

 一方のサムスンは、14LPEを2012年末に発表している。これはTest Vehicle向けに「Cortex-A7」のテープアウトが完了したという発表であるが、おもしろいのはほぼ同時期にサムスンはCadenceSynopsysというEDA大手2社と組んで、それぞれのテープアウトを行なっていることだ。どちらのEDAツールを使っても製造できる準備が整ったということをアピールしたかったのだと思われる。

 さて、ここからはあまり情報がないのだが、少なくとも14LPEに関して、なにか問題が出たという話はほとんどど出ていない。ARMはコアに加えてArtisanのStandard Cell Libraryなどの準備もしているため、とりあえず問題はない。

韓国 器興にあるサムスンのS1 Fab

 あまり情報がないのは、サムスンはファウンダリービジネスを行なっているといいつつ、先端プロセスに関しては自社向けとアップル向けがほとんどだったということが挙げられるだろう。

 もう少しコモディティー化した40nm以下では広くビジネスを行なっているし、28nmもぼちぼち一般的なファウンダリーサービスを開始するようだが、通例だと14nm LPEは本来、自社+アップル向けというはずだった。

 ところがここにきて自社製品(GALAXYシリーズのスマートフォン)の頭打ち感も強いし、20nm世代以降はアップル向け製品は次第に減ってゆく(20nm世代もTSMCとサムスンで生産を分け合う形になる模様)ことになる。となると、3つもの先端Fabを立ち上げるのに要した投資をどうやって回収しようか、という話は当然出てくるはずだ。

 一方のGLOBALFOUNDRIESは、なにしろ当事者が「顧客からサムスンのプロセスを強く求められた」と言ってる段階でもう本当のことをしゃべるつもりがまったくないのは明らかなのだが、実は昨年のうちからGLOBALFOUNDRIESがサムスンと同じ製造装置や材料をそろえているという話は聞いていた。

 普通に考えると製造装置を設置して、調整を行なってウェハーを流せるようになるまで、早いもので1~2ヵ月、時間がかかるものだと半年以上を要する。新プロセスを導入しても、それを使ってTest Vehicleを流せるようになるのに1年近くはかかるだろう。

 加えて言えば、製造装置はソバ屋ではないので、注文を受けてから納入まで結構タイムラグがある。Fab 8で今年末にリスクプロダクションを本当に始めるとなると、もうとっくにラインは完成して、現在はTest Vehicleを流しながら調整している段階でないと間に合わない。ということは早いものでは2013年前半に機器が導入されていると考えないとおかしい。

ニューヨーク州サラトガにあるGLOBALFOUNDRIESのFab 8

 つまり、14XMを捨てるかどうかはともかく、14LPE/14LPPを導入するという決断は2013年初頭までにされていた可能性が高い。そう考えると、理由は比較的わかりやすい。

 Test Vehiecleを流してみた結果、14XMの性能が十分ではない、あるいは歩留まりが悪すぎるなどの、なにか根本的な問題があり、しかもそれを是正できるめどが立たない、あるいは時間がかかりすぎることが判明した。一方、サムスンの方は順調だった、ということだろう。

 そもそも2社ともCommon Platformのメンバーだし、14nmに関してはIBMを含めて共同開発を行なうメンバー同士なので、このあたりの非公式な情報交換は当然あったであろうし、その段階でこうしたアイディアが出たとしても不思議ではない。要するに2013年中、公式には14XMをリリースすると言いつつ、裏では14LPEの準備を整えてきたということだろう。

 そう考えると、今年1月に起きた突然のGLOBALFOUNDRIES CEO交替劇の理由も色々邪推したくなるところだ。1月というのは、ほぼ14LPEの提供準備が整ったと考えられる時期だからだ。

 ちなみにこの14LPE準備の話は、おそらく14XMを使おうとしていた特定顧客には、早い時期から説明されていたと考えていい。

 22日の記者説明会においても、14XMから14LPEへの変更は簡単で、ツールも提供しているという話がなされたが、そもそも14XMと14LPEを比較した場合、トランジスタそのものは似ているかもしれないが、配線層がまったく異なるため、基本的には配置配線は完全にやり直しである。実際「最適化すると5%縮小できる」と「15%削減できる」では互換性があるとはいえないからだ。

 幸いなことに、14XMと14LPEはどちらも同じ時期(2012年中)にPDK(Process Design Kit)が両社から提供されている。PDKというのは標準的なセルライブラリーやEDAツールに渡すデザインルール(EDAツールで物理設計を行う際の様々なパラメータ)、SPICEなどに代表されるシミュレーション用のモデル、レイアウト情報などをまとめたものだ。

 これをEDAツールに入力して、論理設計から物理設計・検証を経てテープアウトまでの作業を行なうことになるが、14XMのPDKを使おうとしていた顧客には、実際には14LPEのPDKが提供され、こちらで作業をしていいた可能性すらある。

 すでに14LPEを使って設計している顧客が存在するという話なので、実際のところ「14XMを使って設計をある程度進めた顧客がいたのか」を聞いた方がよかったな、というのは後知恵であった。

 ちなみにIBMは学会向けの先端開発はともかく、量産に関してはそもそもファウンダリービジネスを止めるという話をしているので、FinFETを提供するのは結局のところインテル、TSMC、サムスン/GLOFALFOUNDRIES連合の3つに絞られた感がある。

 UMCも2012年頃にFinFETの提供を表明、2013年6月には14nm FinFETのTest Vehiecleのテープアウトを発表したが、その後の情報がさっぱりない。

 UMCはまだ28nmのプロセス提供ですらもたついている。2013年の会計報告を見ると、売り上げは0.5μm以上~40nmまでで100%になっており、28nmでの売り上げは0であることからもこれはわかる。仮に28nmを提供できたとしても2015年中にリスクプロセスが始まるか怪しい程度なので、ここには含めない。

 果たしてGLOBALFOUNDRIESとサムスンの提携で、無事に14nmが量産できるようになるのかどうかは、今年末~来年頭には判明するだろう。

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