そのウワサは以前から聞き及んでいたのである。コルグにはみずからハンダゴテを握り、シンセサイザーの回路設計をする女の子たちがいるらしいと。ウワサによれば、彼女たちはお揃いのヘアピンを持っているらしかった。それはハンダゴテの熱で髪の毛が燃えてしまうのを防ぐためなのだという。
ハンダ付けガールズ。私はそう命名して、この都市伝説のような存在を信じ、いつか逢える日を待ち望んでいたのである。それがひょんなことから実現したのが去年の暮れ。
なんとか彼女たちに取材に応じてもらえないかとコルグのPR課に頼み込み、製品の宣伝になるならよろしいという許可をいただいて実現したのがこのインタビューである。楽器メーカーで楽器を作っている彼女たちはどのような人たちなのか。その設計開発の楽しさはどこにあるのか。その片鱗が伝われば幸いである。
入社前はプログレ少女とジャズ少女だった
―― まず普段の仕事と、開発を担当された代表的な機種を教えてください。
内山 私はいま入社4年目です。ハードウェアを担当しています。この「KROSS」のパネル部分を担当しまして、操作子の動作をする仕組みを設計しました。コントロール部分は先輩が担当しています。
上野 私は入社6年目で、製品内部やパソコンのソフトウェアを作っています。今までやった製品は「KAOSSILATOR」や「KAOSS PAD」です。去年にバージョンアップされた+シリーズ(KAOSSILATOR PRO+、KAOSS PAD KP3+)とか。あとは今年発表になった「taktile」シリーズですね。
―― 上野さんは、ハンダゴテを握るよりコードを書くのが本業なんですね。
上野 はい。ハンダは手伝いでやる感じです。
―― では、お二人とも入社前には何をされていたんですか?
内山 大学生の頃ですか? ……バンド。
上野 私もバンドです。
―― どんなバンドですか?
内山 私はプログレッシブ・ロックとかその辺ですね。だからシンセ好きなんですよ。
―― すごくわかりやすいですね。でもプログレっていろいろありますけど。
内山 ドリーム・シアターは結構好きです。
―― あ、やっぱりお若いですな。
内山 でもそこから掘っていくと。もちろんELPも好きだし、キング・クリムゾンとか、ピンク・フロイドはちょっとサイケ寄りだから……。でもジェントル・ジャイアントとかは好きです。
―― そしてカンタベリー系まで行ったと。
内山 ええ、ソッチの方も。
―― 上野さんはどうですか?
上野 私はジャズ系から入ったんですけど、結構いろんなジャンルをやりまして、サウンドアート的なものとか。大学では音に関係する研究をしていたので、パソコンで音を加工してインスタレーションみたいなことをやったり。コンピューターと音楽みたいなことに興味がありましたね。
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