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遠藤諭の『デジタルの、これからを聞く』 第2回

Teach For Japan 松田氏に聞く、ITと教育の関係

正解主義から脱却し、20年、30年先の時代を逆算した教育を

2014年05月14日 11時00分更新

文● 遠藤 諭/角川アスキー総合研究所

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遠藤 米国の場合だとスタートアップを育てる“Yコンビネーター”みたいなところもあって、非常にシステマチックに考えている。“ハッカー”(プログラマ)と“ヒップスター”(デザイナー)と“ハスラー”(ビジネスと資金調達)の3つの人材がいると言った人がいて、なるほどそうですよね。遠い日本からただシリコンバレーは凄い、あんなふうになろうと1人ずつ頑張っていてもなかなか、ぜんぶできる人材はいないですよ。いろんなタイプの人材を育てる方法ってなんでしょうね?

松田 何よりも大事なのは自己効力感を養うということです。つまりスパークを作るためには主張しあうことやチャレンジが必要です。それには自分に自信がないとだめです。そして日本の子どもたちはいまきわめて自己効力感が低い。これがすごく深刻な問題です。正解主義の教育だからです。×か○かの正解主義の教育だし、チャレンジを後押ししないですよね。だからまず認めてあげる。自分なんかテストの成績は常に最下位でしたし、周りも松田は赤点さえとらなければいいっていう雰囲気だったんですよ。だから自分は勉強に関しては自信がなかった。でも小さな成功を繰り返していくことで少しずつ自己効力感が育まれてくるんですよね。突破する何かが必要なんですよ。自分にとってはそれが教育だった。この分野で突破していこうと。確かに経営や財務は分からないかもしれない。自分が今でもやっていけるのは誰にも負けない軸を自己認知できてチャレンジしていこうという思いがあるからなんですよね。これからの時代は各々が持っている強みを生かしてチームを構成すること。例えば、いまの先生たちは5教科あって数学が赤点ギリギリだったら、これを平均まで上げていこうって話になるんですよね。でもこれからの時代は、70点の英語があるね。これをどうしたら100点にできる?っていうストレンスファインダー(Strength Finder)の考え方が必要になりますよね。自分の弱みを自分で補うのではなくて、自分の弱みを補ってくれる人とチームを組む。これが重要です。

遠藤 元気の考え方ですね! しかし、教育は企業の生産性をあげるとか国力を上げるとかためにやるものじゃなくて、人を幸せにするとかそういう側面もあるじゃないですか。

松田 教育の使命は何なのかという話ですね。私は子どもたちが将来自分の可能性を生かし続け、しっかりと自立していくことだと思います。夢を追いかけることもとても大切ですが、その結果自立ができなければ教育の目的は果たせていないと思うのです。教育を通して、成長・学び続けることの喜びを伝え、必要な忍耐力やマインドセットを育んでいくってことが大切だと思います。

遠藤 学習指導要領というものがありますよね? 学習指導要領があると、なかなか次世代の教育の実現は難しいんじゃないですか?

松田 よく聞かれる質問ですが、指導要領をよく読まれている方って少ないんですよね。実は文科省のウェブサイトでポスターまで作って言っているのは、インプット型の授業をやめましょう。プロジェクト学習やICT、反転学習を促進していきましょう。表現学習って彼らは言っていますが、要するにやっていきましょうと言っている。学習指導要領に盛り込まれた内容を実現できたら、20~30年後の社会を戦っていける人材が輩出されるジャンって思えるカリキュラムにはなっているんです。だから日本の教育の問題は文科省ではなくて現場なんですよ。そのインプリができる人が限られている。だから、Teach For Japanは、現場で理想をカタチにしていくお手伝いをしようとしているのです。

Aftermode/Natsuki Yasuda

遠藤 なるほど。

松田 実は、学校というのは何時間やらなければならないかということは決まっていますが、どのように教えるかというメソドロジーの部分は何も決まっていないんです。大きな裁量は教員に与えられているんですよ。外部の人を連れてきてもいいし、教室の中の椅子や机を撤廃して、円になってディスカッション方式の授業をやってもいいし。でもそれをやる能力のある先生が求められているのです。

遠藤 なんと! 日本の教育はそんなに自由なんだ。

松田 NPOの使命は民間の力を結集して課題解決の速度を速めていくことだと思うんです。われわれはしがらみがなく機動力よく動ける、海外ともつながっていく。100年の課題を、いかに50年、20年、10年で実現していくことができるのかがわれわれの課題ですよね。

インタビューを終えて──遠藤諭

 コンピュータ業界の関係者は、少なからず“教育”や“学習”について、一家言お持ちなのではなかろうか? プログラマは、自分が言語を学習しないことには始まらない。チームを組んで仕事をすることも、1970年代にすでに体系化も試みられている(IBMのチーフ・プログラマ・チームなど)。しかし、それは理屈の分かるあくまで大人の世界なのだ(しかもロジカルなコンピュータの世界)。松田さんの取り組まれている日本の教育の現状との間には想像もつかない距離があることを、あらためて認識させてもらった。それと同時に、お話の後半に出てきたように日本の教育のどうにかしなきゃと思っている間に、本家本物の“教育”という巨大な山が動きはじめていることがチャンスではないかとも思えた。お話の途中、企業向けシステムの人のコミュニケーションと教育とコンサルティングが、同じ線の上にあると感じたことが、ヒントではないか。それだけ大きな永遠のテーマであり、現実が動くにはたしかに時間のかかる大変な仕事だということでもありますが。


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