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遠藤諭の『デジタルの、これからを聞く』 第2回

Teach For Japan 松田氏に聞く、ITと教育の関係

正解主義から脱却し、20年、30年先の時代を逆算した教育を

2014年05月14日 11時00分更新

文● 遠藤 諭/角川アスキー総合研究所

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正解主義からの脱却、そしてICTとどう付き合うか

遠藤 個人は、ネットデジタルをどんどん活用してライフスタイルも変えているわけじゃないですか? テクノロジーによって教育が変わるというのはありますよね。

松田 そうですね、テック系で、オープンエデュケーションがまさに進んでいて、情報化の時代なので学校の中で知識を得るのではなく、Googleで検索したり、高い学費を払わなければ受けられなかった授業も無償化されてきている。スタンフォードでもハーバードでも。TEDとかKhan Academyなんてものがあったりもします。日本の中でも、受験サプリだとかmanavee(マナビー)であったりとか、無償で質の高い授業を受けられる時代になってきていて、それが進んでいくと思います。それは、モチベーションをうまく維持できるしくみがあれば、加速度的にコンテンツは増えていくと思うんです。10年後、東進ハイスクールは全部無料で授業を流しているかもしれない。新しいビジネスが起こる。

Academic Earth。YouTube上で講義を視聴できる

 そうすると学校の中で何を求められるのか? 先生は知識を持っていて教えられますでいいのか? 価値あるんだっけ?って。反転学習っていうのが日本でも始まろうとしていますが、学校の授業でInput、宿題としてOutputするのは家でだったのが、Inputは家でやってもらいましょう。ICT環境さえ整っていれば、こういった高品質なものがあるから勉強できる。分からないことを補完したりとか、これからの時代表現が重要になってきますからOutputする場を学校にしましょうというような。そうすると先生に求めるのは教科専門性というよりは、ファシリテーション能力なんですよね。出てくるいろいろな意見をいかに集約させるか。もしくは集約を促していくかが求められる。もうひとつは社会にありとあらゆるリソースがあるわけで、情報だけでなく人というリソースもそうだし、地域資源かもしれない。学校の先生は自分ひとりではもはや手が回らない。だからコーディネート力で、地域の学生を参加させたりとか、ICTを活用したりとか、キャリア教育も自分で授業をすべて設計するんじゃなくて、キャリアを持つ人を連れてくる力が必要だったりしますね。コーディネーション力ですね。

遠藤 これはコンピュータの研究者とかソフト開発者の話ですけど、アメリカはIEEE(米国電気電子学会)という大きな組織があるけど、日本は組織がちっちゃくて閉じこもりがちになる傾向がある。ロボット、AI、画像認識とか、バラバラに研究している。そう思っていたのですが、先日、その話をたまたま情報処理学会の会場で知り合いにしたら「最近はそうでもないでしょう」と言われました。若い人は結構飛び越えてやっている。ここ2~3年は、ハッカソンや勉強会とかで、その場でチームができたたりすることも起きている。たしかに、そうかなと思ったのですか、ネットの力が大きいのではないでしょうか?

松田 これからの時代忘れちゃいけないのはダイバーシティですよね。いかに多様な価値観や個性をオーケストレートできるか。例えば正解主義の教育であれば、これがロールモデルです。みんなここに向かって努力しましょう。活発型の人間か協力的な人間かみたいな二軸で人をマッピングして、活発的で協力的な人間をロールモデルにする。そうするとそこから外れる人たちはめちゃめちゃ厳しかった。画一化した軸でロールモデルをやっていくと個性がつぶれていくんです。だからこそいじめが生じる。大人側がいろんな価値観を大切にして、育んでいければいいし、君の個性もこのコミュニティーに必要なんだよという点が浸透すれば排除につながらないと思うんですよ。もうひとつは課題解決やイノベーションが必要なのであれば、同じ価値観を持っている人たちと一緒にいたとしても課題解決やイノベーションのスピードは落ちると思うんです。スパークがないんですよね。自分自身も感じるんですが、起業当初は教育系やNPO系の集まりが多かったんですよ。そうすると、居心地がいいけれども、学びが限られているなとも思ったんです。お互い共感しあっていて終わり。あるいは名刺交換の列ができて感動しました感動しましたといってもらえる。でもここからは課題解決もイノベーションも生まれない。これがもし違う価値観を持っている人たちとの意見のぶつけ合いであれば、新しい気づきが自分の成長につながるし、常識では解決できなかった問題が解決できる。

遠藤 人のぶつかり合いみたいなものが大事であると。

松田 そうですね。交流ももちろんですが、子どもたちに何を伝えていくかを考える上で、建設的な批判をしあって、互いから学び、互いを尊重し、チームで進めていく。これからは一人で進めていくのっていろいろ難しいと思うんですよ。変化のスピードも速いし、課題も複雑になっているし、多で解決していくしかない。となるとどういうチームを作っていくかなんです。多様なチームなんです。しかしながら、日本の企業はそういう基準で人を採用していないですよね。

遠藤 ひとりひとりの人材の能力しか見てない。

松田 あとはジェネラリストを求めていますよね。会社の今までのやり方に君はあてはまるのか、どうか。飛びぬけたNo.1はいらなくて、そういう軸で採用している。これではなかなか時代の求めるイノベーションのスピードには追いつけないんだろうなと思いますね。

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