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遠藤諭の『デジタルの、これからを聞く』 第2回

Teach For Japan 松田氏に聞く、ITと教育の関係

正解主義から脱却し、20年、30年先の時代を逆算した教育を

2014年05月14日 11時00分更新

文● 遠藤 諭/角川アスキー総合研究所

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修羅場を経験したのだからへっちゃらだ

松田 Teach For Japanにも、20代の女性でコンサルティングファームから転職してきた人がいますが、彼女の上司は元Teach For Americaで、彼は「コンサルなんてへっちゃらだよ」と言っていたそうです。2年間、生身の人間を相手にして、修羅場を経験してきたんだから。それぐらい民間でも力を発揮できる。そういう人たちが教育に対して関心を持って、教育に対して人・モノ・金の投資をするわけですよ。もしくは政策に入っていた人であれば、現場と乖離せず、教育政策や予算取り、法整備をしていく。

遠藤 なにか目に見えないインフラが強化されていくみたいなことでしょうか?

松田 もっと具体的に教育改革に取り組むリーダーたちの登竜門ですね。

遠藤 IT業界でも企業に対するソリューションの最後のテーマは、人と人の関係、そういうヒューマンウェアというか、意外やコミュニケーションが、最後の改革すべきところになってきていますね。マイクロソフトのOffice 365やYammerとか、セールスフォースのChatter だとか、さきほどコンサルティングの話がありましたけど、いずれも教育というものの延長線上にあるのではないですかね。そして、そうしたことの外側には、ものすごく大きな影響領域がある。

松田 だから教育というのは社会全体で支えるべきものですよ。“学校 V.S. 社会”ではなく、社会の中での学校というのを実現していかないといけない。お金を投入するだけでも法律を作るだけでもだめなわけですよね。人の交流なんですよ。お互いの価値観と、お互いの立場を理解している人たちがちゃんと行き来している点がすごく重要で。日本では“学校の常識は社会の非常識”なんて言われることもある。だから学校のせいだと矢面に立たされる。その結果、先生たちも自尊心だったりとか自己効力感とかを感じにくい悪循環になっているのではないでしょうか?

遠藤 なるほど。

学校は閉鎖的だと言われるが

松田 学校は閉鎖的だと言われますが、閉鎖的な状況を作っているのは世論だと思うんですよ。いわばわれわれなんです。例えば、組織の中でも部下のパフォーマンスが上がらないときに徹底的に責めたらやる気が上がらないと思うんですよね。チャレンジしようと思わなくなる。学校と社会の構造がそうなっていて、学校側が少しチャレンジをしてみると、これができていないこれが甘いっていう否定だけされる。となると社会との信頼関係が築けずオープンになれないんですよ。結果として閉鎖的になる。はじめからそうしたい人なんていませんよ。だから社会の助けが必要なんです。

遠藤 これはアメリカも同じだったわけですか?

松田 世界で共通ですよ。いかに社会のリアリティと学校のリアリティを一緒にできるのかが大きな課題となっているわけです。あとは教育課題を学校の先生ごとではなく、社会全体の共有アジェンダにできるかということだと思うんですね。それを解決するために、その国の中でどれだけ優秀で情熱のある人材を教育に投入できるのかっていう話だと思うんですよ。それはTeach For Japanでも一緒なんですよ。格差の性質や教育インフラの問題とか、細かな差異は国ごとにありますよ。Teach For China、Teach For India、Teach For バングラディッシュなどもあるんですが、そこが向き合っている問題と日本の子どもたちの状況は異なるし、先生に求められるスキルセットも異なるわけですよね。

遠藤 なるほど。

松田 アメリカの場合は、それでも先生は教えていればいい、親御さんへの対応は校長先生がいて教頭先生がいて、弁護士がいて会計士がいるみたいな流れになっています。ところが、日本の場合は全部やらないといけない。行政へのレポートから保護者対応から、指導や部活動までやらなきゃいけない。

遠藤 私が参加させていただいたセミナーでも、質疑応答のときに、現場の先生がいかに時間がなくて手いっぱいであるかという話を切々とされていました。しかし、そんな状況では何も変えられないですね。

松田 教員に何が必要かという話ですね。20世紀型の教育と21世紀に求められる教育って違うと思うんですよね。これまでは工業化の過程で、これまでは大量生産、工業化の時代なのでごく1部の人たちが作り出したプロダクトや生産ラインに応じて言うとおりに動く労働者が必要だったわけですよね。マニュアル方の人材が必要だった。それで成長できた。入った人は賃金が上がり、年金をもらえ、終身雇用も確保された。マイホームも買えて、子どもも大学に行かせられた。日本はその時代にまさしくマッチした教育を展開していたと思うんですね。暗記偏重型だったりとか、個性をつぶす正解主義の教育だといわれますが、それを否定するのではなく、時代にマッチした教育があったから、戦後何もなかったところからあっという間に世界1、2位の経済大国になったと思うんですよ。ただし、時代が変わったということは認識しないといけないわけですね。脱工業化、ICT化も進んでいる。グロバリゼーションの時代だと。そういう中で、今後の労働のあり方とか、社会での自立していくためには何が必要となるのか。今ではなく、今の子どもたちのための20~30年後の社会を予測して、いま子どもたちに何を準備しないといけないのかをしっかり考える必要があるんだろうなと思います。

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