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遠藤諭の『デジタルの、これからを聞く』 第2回

Teach For Japan 松田氏に聞く、ITと教育の関係

正解主義から脱却し、20年、30年先の時代を逆算した教育を

2014年05月14日 11時00分更新

文● 遠藤 諭/角川アスキー総合研究所

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学校経営を志して米国に、そして出会いが生じた

遠藤 情熱を持って教員になった。しかし立ち止まって考えた。どんな想いがあったのでしょう。

松田 初めは学校を作ろうと思ったんです。経営する立場になろうと。現場がビジョンを持てなくなるのは組織の課題が大きいはずだと。目指すべきビジョンに賛同してくれる仲間を集めて、その思いが消えない仕組み作り=経営をしようと。それが教育改革になるんじゃないかと。そのためにリーダーシップやマネージメントを勉強しなくてはならないと。

 でも国内の大学院を調べてもそういうものは全然ないんですね。今でこそグロービス経営大学院のような学校もありますが、教育の軸=スクールマネージメントの分野で日本は遅れていた。一方アメリカで調べてみると、何十倍、何百倍のカリキュラムがあって、ネット検索でもヒットするわけです。だから留学しました。その留学中に出会ったのがTeach For Americaです。

遠藤 Teach For Americaに出会ってどう感じましたか?

松田 もう頭がぶっ飛んでしまった。出会いはまったくの偶然だったんです。あるとき講堂で予習をしていたんですよ。アメリカの大学院はとにかくついていくのが大変ですから、ちょっと場所も気分を変えてみようと思って。

 そしたらなぜか人が集まってきて、あっという間にいっぱいになった。300人、いや400人ぐらいいたかもしれません。そしてウェンディ・コップというTeach For Americaの創始者が来て、講演会が始まった。終わった後に同級生に「これは何だ、すごいな」と尋ねた。そうしたら「知らないのか」と。それが留学した1年目の出来事です。

遠藤 行ってみて、衝撃を受けたと。

松田 私はハーバードの大学院でスクールリーダーシップというカリキュラムを受講していました。後で知って驚いたのは、40名ほどの級友のうち、実に1/4がTeach For Americaの卒業生だったことです。彼らの話を聴いて私は感銘を受けたんです。モデル自体が美しい、しかし、何よりその現場から出てくる人たちがめちゃくちゃ賢い、めちゃくちゃ熱いんですよね。

 彼らの出身学部や専門はさまざまで、それこそバイオ、法律、経済学、コンピューターサイエンスだったりする。そんな彼らが卒業後に教育困難校に行って教鞭を執るのがTeach For Americaです。ストーリーを聞いて、自分が学校単位でやろうとしていたことを社会としてやっていることがわかった。日本でもやりたいと思ったんです。

 Teach For Americaは年間6000名の規模で卒業生を送り出している。期間は2年だから、いまこの瞬間1万人以上が関わっているプロジェクトです。現場で2年間変革に携わるのはもちろんですが、すごいのは卒業生たちです。7割近くが教育現場に残って、教員になったり、教育系のNPOを立ち上げたり、自ら学校を作る人もいる。

遠藤 Teach For Americaはなぜそんなにうまくいっているんですか?

松田 やはり体験ですよね。当事者意識を持ち、「教育はすごく重要で、国づくりの根幹だ」と実感する。私は米国で優秀とされる人材には、2つの側面があると考えているんです。

 ひとつはいかに世の中に貢献できるかという軸。特にリーマンショック以降「お金のためだけに何かをするのは違う」という風潮が広がっていて、ハーバードのビジネススクールでも人気講義が“ソーシャルアントレプレナーシップ”(社会起業)だったりします。

 要は社会とどれだけつながれるか。企業も今後はサステナビリティーを意識しないといけません。環境の持続性だったり、世の中の持続性を考えていかないとそもそも存続ができない。投資もしてもらえなくなる。そんな時代になり、非常に貢献意識が高まってきています。その意味での教育というのがあります。

 もうひとつが自己成長ですよね。「自分が徹底して、20代を磨ける場所ってどこなの?」ということを求めている。Teach For Americaの場合は、それが華やかなウォールストリートではなく、末端の修羅場なんですね。もちろんそこには輝いている先人たちというロールモデルがあり、それがリスクを軽減する要因にもなっています。

 いずれにしても、社会課題を解決するとともに、参加する人材も成長するというのが、うまくいっている理由だと思うんです。さらにそれが長期的なインパクトを出していて、いままで教育をキャリアだと考えなかった人たちもキャリアだと考えて、引き続き教育改革を続けているということですね。

遠藤 教育に変革を起こしていることが、それをさらにいい方向に作用させている。

松田 Teach For Americaの経験後、3割は教育現場から離れて民間に就職します。ただし彼らは2年間修羅場を経験してリーダーシップを発揮することができますから、どこにいてもリーダーになっていくんですよね。ワシントンDCの教育長になった卒業生も2人輩出しています。

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