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体験して知る、楽しいデジタル 第1回

音楽ユニット「トーニャハーディング」に聞いた

2014年にITをつかって、がんばってレコードを作った人の話

2014年05月21日 11時00分更新

文● コジマ/ASCII.jp編集部

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100万円でアイスランドに旅行する権利が手に入ります!?
個性的過ぎるリターンの理由とは

クラウドファンディングサービス「PICNIC」

 彼らが選んだのは、「お金でアーティストを加速させよう」をうたい文句にするクラウドファンディングサービス、「PICNIC」だ。他にも音楽系のクラウドファンディングサービスはあったが、「サイト内で扱っている案件の数が多いので、その中では埋もれてしまう」ということを不利に感じたという。ただ、それだけが理由ではなかったようだ。

トーニャ「PICNICと話をしたときにも、いろんなアイディアを出してくれて。ここを使っていいですよ、という場の提供以上のことをしてくれるなと信じられた。それにPICNICに名を連ねている人たちは、個人的に好きな、あこがれのミュージシャンが多かったんですよ。そういう諸々を含めて、ここがすごくいいなと」

 彼らはまず目標額を30万円と定め、さまざまなリターンを用意した。クラウドファンディングでは、支援する金額ごとにリターンを用意する場合が多い。たとえばある製品を発売するために支援を募り、3000円、5000円など、支援額を設定し、それぞれにリターンを用意する。目標額を達成したら、3000円を支援してくれた人にリターンとして製品を1つ、5000円を支援してくれた人なら2つ送る、といった具合だ。

PICNIC内の支援ページ。期間は終了しているが、今でもリターンの内容を見ることができる

 トーニャハーディングの2人が個性的なのは、このリターンに工夫を凝らしまくったことだ。1000円を支援すると、リターンはDJ MIXのデータのダウンロード。3000円の支援なら、さらにレコードが送付され、収録曲データのダウンロードができる。5000円の支援だと、そこにTシャツとステッカーも付く。

 しかし、異彩を放つのはここから。1万円を支援すると、「トーニャハーディング主催カラオケ参加権(費用各自負担)」「レコードのミュージックビデオ主演女優のオフショット画像集プレゼント」など、何やら不思議なリターンが増えてくる。さらに、5万円なら「披露宴、2次会、各種宴会でミニライブ」をしてもらえる権利が付く。10万円ならトーニャハーディングと「外車で1日東京をドライブ」でき、さらに自分のためだけに作曲までしてもらえる。

 一番高いプランは、なんと100万円。リターンの目玉は、トーニャハーディングとアイスランドに旅行し、弾き語りライブをしてもらえる上に、世界最大級の露天風呂スパ「ブルーラグーン」で遊べるという(収録曲の「“spa” wars」に引っかけたそう)、にわかには信じがたいもの。

PICNICの支援者がもらえるTシャツやステッカー

 支援額の幅がやたらと広い上に、個性的とも冗談とも受け取れる、変わったリターンの数々だ。

トーニャ「他のクラウドファンディングのプランを見ていると、何というか、真面目だなあ……と。その中で、自分たちらしいことがしたかったんです。怒られてもいいから、冗談か本気かわからないプランがあったら面白いじゃないですか。もしかしたらお金を持った人がこれを見て、何だこれ、ということで、ポンと出してくれたら楽しいなって。宝くじみたいな感覚ですよ」

 さすがに100万円を出した人こそいなかったものの、支援として10万円を出した人はいた。これだけで、当初の目標額の3割以上を達成したことになる。「もちろん、(10万円を支援した人への)リターンはきっちりやらせていただいてます」(トーニャ)。

 このような2人のアグレッシブな行動力に対し、PICNICの運営も「出資期間が始まっているのに、後から次々と新しいアイディアを提案してくる」と舌を巻いたという。たとえば、目標額の30万円を突破した2人は、外部のアーティストに楽曲のリミックスを依頼するために、70万円という目標額を追加で設定。その資金が集まることを祈願して、「雪の中で願掛けをしているだけの動画」を公開した。

 もはや謎とも思ってしまいそうな取り組みだが、この動画を見て出資を決めた人もいるそうだ。「PICNICで変なことをしているやつらがいるぞ、というだけで、僕らの存在をよく知らないままに出資した人もいると思うんですよ」(トーニャ)。

 そして最終的に集まった金額は、目標額の30万円をはるかに上回る、141万4000円だった。293人の協力を得られた。

トーニャ「僕らはこういう企画に向いていたんでしょうね。ある種特有であるというか、異質であるというか……。基本的に、自分のやっていることなんて他人は興味を持ってくれないんだぞ、と思っていたのが前提にあった。だからこそ、そこで人と違うことをやらなきゃね、という気持ちがあったんですよ」

 クラウドファンディングをただ資金集めとして利用するだけではなく、オリジナリティーあふれる宣伝にも使ってしまう。その見事な手腕は、過程だけ見れば気楽なようにさえ見えるだろう。しかし、その裏には、計り知れないほどの緊張もあったという。

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