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石井英男の『研究室研究所』 第2回

この研究者・開発者がスゴイ!――石渡昌太氏

海外と日本でクラウドファンディングに成功した「RAPIRO」の秘密

2014年05月01日 11時00分更新

文● 石井英男

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クラウドファンディングを成功させるための秘策

 RAPIROは、優れたデザインや拡張性の高さなど、優れたロボットキットであるが、当初からクラウドファンディングで資金を調達することを前提に開発されたものだという。

 じつは、石渡さんがKickstaterでの資金調達に挑戦するのは、RAPIROが2回目だ。RAPIROの前に、心拍数に反応して揺れるしっぽ「Tailly」の資金をKickstarterで募ったのだが、こちらは残念ながら目標の6万ポンドに対して、5分の1程度の1万2000ポンドしか出資が集まらず、プロジェクトは失敗に終わっている。

 石渡さんは、そのときの経験を元に、クラウドファンディングで受け入れられるためのプロダクトとしてRAPIROを開発したのだ。

―― RAPIROは、最初からクラウドファンディングでの展開を意識して作られたそうですね。

石渡 「Kickstarterありきと言いますか、この1つ前にTaillyというプロダクトを出してみたのですが、それは目標額に達しませんでした。そこでいろいろ考えて、Kickstarterで今何が求められているかを念頭に置いて作ったのがRAPIROです」

Kisckstarterに続き、Makuakeでも目標300万円に対して560万円の調達に成功した。2つのクラウドファンディングで成功した理由は?

―― 確かにKisckstarterにはたくさんのプロダクトがひしめいていますが、目標額に達しないものも多いですよね。そもそも昔は審査も緩く、『これ本当に実現可能なのか?』といぶかしむようなCGイメージだけのプロダクトがあったり……。一方、RAPIROは最初からKickstarterで成功するように戦略を立てたわけですね。

石渡 「Raspberry PIがちょうど流行っていたのと、3Dプリンターにも注目が集まっていましたので、『3Dプリンターを使いこなすとこういうものができます』という側面からも話題になると思いました」

―― Kickstarterでは、開始から2日で目標金額を達成しましたよね。これは、目標金額をわざと少なめにしたとのことですが。

石渡 「そうですね。人間心理として、目標額に達しそうにないプロジェクトへの出資には二の足を踏んでしまいますが、達成できそうなプロジェクトには出資しやすいですよね。そして、すでに目標額を達成したものに対してはさらにハードルが下がります。要するに“勝ち馬”には乗りやすいってことですね」

―― 普通は、余裕を持ちたいから、少し高めに目標額を設定しそうなものですが、逆転の発想ですよね。

石渡 「ただ、あまり素人にはお勧めできないと言いますか、これはミヨシさんをはじめ、関わっている全社の合意を得た上で、いざというときは各社でリスクも分配するという合意の下でやっています。つまり目標額をちょっと超えた程度では初期費用にも満たないわけですが、その場合は、全社が持ち出しになるんですよ」

―― だから、広くお勧めはできないわけですね。うまい方法ではあると思いましたが。

石渡 「逆に言うと、そういうことも含めて、チームを作る必要がありました。この方法は、ある程度資金の余裕がないとできないことですから」

―― 確かに1人ではリスクが大きいですね。

石渡 「あとこれは、僕と各社さんの関係性があってできていることです。初めてお願いする町工場で、『300万円では足りないのは分かってるんですけど、もし300万円で通っちゃったら、もうそれはお願いしますね』と言ったら、それは大変失礼なことですよね」

―― 確かに。しかし実際は、最初から勝算というか、目標額の数倍に達するだろうという手応えを持って出しているわけですよね。

石渡 「そうですね。『3倍は行かなきゃ』という心づもりでした」

4社で得意分野を分担して開発・製造

 さて、RAPIROは、石渡さんが中心となって開発したプロダクトであるが、機楽1社だけで、開発や製造を行なっているわけではない。RAPIROの製品化にあたっては、3Dプリントを担当した株式会社JMC、金型製作や射出成形を担当した株式会社ミヨシ、基板の設計と製造を担当した株式会社スイッチサイエンスの4社がチームを組んでいるのだ。

―― 今の話にも出てきましたが、RAPIROの開発や製造にあたっては、計4社がそれぞれの得意分野を分担していますよね。確かにロボット開発においては、複数の企業が組むことはよくあるものの、似たような企業ばかり集まってしまい、うまくいかないという話を聞くこともあります。その点RAPIROは、得意分野が被らないチーム編成になっています。その辺をまとめているのも、石渡さんですよね。これはベストな布陣という感じでしょうか。

RAPIROの成功にはJMC、ミヨシ、スイッチサイエンス、そして石渡氏の機楽と、役割分担できる4社のチームワークが欠かせなかった

石渡 「そうですね。ただ、勝手にそうなっていったという部分もあります。JMCさんは、ミヨシさんからご紹介いただいた御縁ですし、スイッチサイエンスさんとはフィジカルコンピューティングという言葉が出始めの頃に僕も仕事を始めて、その関係で同社の金本さんとお付き合いがあって、それ以来ですね。

 金本さんには以前から、設計開発から一緒にやりたいとおっしゃっていただいていたので、RAPIROの試作品ができた段階で、『こういうものを作ってるんですけど、この基板部分をお任せできますか』とお願いさせていただきました」

スイッチサイエンスが設計したRAPIROのコントロールボード。Arduino互換だが、基板形状などはRAPIROの背部にぴったり収まるよう設計されている

―― この基板は形が完全にRAPIROに合わせて作られていますね。

石渡 「僕はもうちょっと小さくて、四角くて汎用性のある基板にしたかったのですが、最終的に面積が足りず、両面基板にするか、実装面を片面にして面積を増やすかの二択に迫られまして」

―― コスト的には片面にして基板を大きくしたほうが有利だったと。

石渡 「そうですね。この辺に関しては、スイッチサイエンスさんにお任せした結果です」

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