「ワンマイクロソフト」「ワンマイクロソフトリサーチ」
——2つめの変化は、MSRのトップがリック・ラシッド(Rick Rashid)氏から、ピーター・リー(Peter Lee)氏に代わりました。この変化はどんな影響を及ぼしますか?
洪 MSRの文化や原則は変わらないといえます。自由闊達な方針は変わらず、研究者が研究に没頭できる環境も変わらない。イノベーションが最も重要であることも変わらないでしょう。
ただ、世界が大きく変化し、企業も大きな変革の中にある。そうした中で、マイクロソフトもデバイス&サービスカンパニーへと進化し、我々はそこでどうやって生き残っていくのか、将来に向けて何をするのかということが、これからのMSRの役割になると思っています。
ワンマイクロソフトの中においての役割も重要になってくるのは明らかです。マイクロソフトの様々な製品や、日本マイクロソフトをはじめとする世界中のマイクロソフトの拠点と、どう緊密な連携をするのかといったことも視野に入れていく必要があります。世界で成功を収めている会社は、どこかひとつがうまく行っているのではなくて、全体がうまく行っている会社です。我々もそれを目指す必要がある。
ワンマイクロソフトの中で、MSRが、全社の動きとどう連携するのかといったことが、新たなリーダーのもとでの課題であり、私もそれに協力していきたい。過去の伝統ばかりではなく、前を向いてイノベーションを推し進めることが必要です。
そして、ワンマイクロソフトだけでなく、「ワンマイクロソフトリサーチ」という考え方も必要です。世界中の研究所同士の連携もますます必要になってくるでしょう。
「イノベーション、イノベーション、イノベーション」
——3つめの変化がサトヤ・ナデラ(Satya Nadella)氏がCEOに就任したことです。また、ビル・ゲイツ氏もこれまで以上に経営に関与するともいわれています。これは、基礎研究活動には、どう影響しますか?
洪 IT産業における競争は、これまで以上に熾烈になり、それぞれの企業は大きな変化を余儀なくされています。そうした中でのCEO交代であり、サトヤから送られてきた社員宛のメールには、「イノベーション、イノベーション、イノベーション」「インパクト、インパクト、インパクト」という言葉が書かれていました。過去ではなく、イノベーションをリスペクトし、世界を変えるインパクトを作ることに我々の役割がある、という姿勢が強く伝わってきました。
MSRAは、数年前、サトヤが検索サービスの事業を担当していたときに、一緒に仕事をする関係にありました。そのときには、サトヤは、定期的に中国を訪れ、MSRAと技術的な議論をしていたのです。すばらしい人材がトップについたと考えています。
また、ビル・ゲイツが、テクニカル・アドバイザーという形で復帰することは、我々にとっても、いいことだと考えています。ビルは、フルタイムでこの仕事に時間を費やすことはできないでしょうが、週2日間ぐらいはテクニカル・アドバイザーとしての仕事に従事してくれるのではないかと期待しています。ビル・ゲイツほど、イノベーションを重要視している人物はいません。世界に向けてインパクトを与えることにも前向きです。そのビルが、技術に没頭する環境ができあがったわけですから、これ以上、心強いことはありません。強いマイクロソフトの体制が整うといえます。これはMSR全体にとってもいいことだといえます。今後、我々が先に進むための体制が整ったともいえます。
NUI、ウェアラブル、ロボットへの注力
——これからMSRAが中長期に注力する分野はどこになりますか?
洪 モバイルやクラウド、データサービス、デバイスなどを開発する上で重視されるのがユーザーインターフェースということになります。特に、MSRAが注力するのがナチュラルユーザーインターフェース(NUI)です。
NUIは、タッチ操作や音声認識、あるいはKinectに代表される技術を指しますが、今後こうした技術に対する関心は、コンシューマ分野やエンタープライズ分野を問わず、ますます高まっていくと予想しています。
また、ウェアラブルコンピュータについても研究開発をしています。携帯電話が鳴ると、ポケットから携帯電話を取り出して操作することになりますが、ウェアラブルではそうしたことも不要になる。血糖値や血圧などの健康管理のツールとしても活用できるようになる。ここでもNUIが重要視されます。
さらに、ロボット分野も興味深い領域です。ロボット技術というと人間の形をしたものを想像しがちですが(笑)、作業を自動化するという点でロボット技術は密接に関わってきます。様々なセンサーやカメラと連動して、家のセキュリティを管理するといった用途にも、ロボット技術が活用できます。また、高齢化する日本においては、センサーなどを活用して高齢者の生活状況を確認したり、より豊かな生活を送るための支援を行うといった用途もあります。さらに、話題を集めている3Dプリンターにおいてもロボット技術の応用は重要ではないでしょうか。こうした分野への研究に力を注いでいくつもりです。
世界を変えるインパクトになるものを出し続けたい
——これから5年後のMSRAはどうなっているでしょうか?
洪 マイクロソフトがデバイス&サービスカンパニーとしての成功を収めていることができれば、我々の取り組みや、マイクロソフト本体に対する貢献が正しかったということだといえます。5年経っても、MSRAが設立した当初のハングリーな気持ちは忘れてほしくないと思っています。人間は歳をとりますが、イマジネーションや情熱は失ってはいけない。そうした組織であってほしいと思います。世界を変えるインパクトになるものを出し続けたいですね。
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