マイクロソフトリサーチは、全世界で900人以上が勤務する、マイクロソフトの基礎研究部門である。その拠点のひとつが、中国・北京にあるマイクロソフトリサーチアジア(Microsoft Research Asia、MSRA)だ。MSRAは、世界で3番目の研究拠点として、1998年に開設。昨年、15周年を迎えたところだ。日本人研究者6人を含めて、在籍する230人の研究者は、検索エンジン「Bing」やモーションコントローラ「Kinect」に関する技術などの成果をあげており、マイクロソフト製品の進化に大きく貢献している。MSRAの洪小文(Hsiao-Wuen Hon)所長が来日したのに合わせて、MSRAの取り組みなどについて聞いた。
イノベーションの源は、研究者の興味や関心
——2013年10月に、MSRAは、設立15周年を迎えましたね。中国・北京のMSRAでは大規模な記念イベントとして「イノベーションディ2013」も開催しました(関連記事)。節目の年を迎えて、研究者のモチベーションには何か変化がありましたか?
洪 マイクロソフトリサーチから発信する研究成果が、世界に対してインパクトを与えていることを、研究者ひとりひとりが実感しています。また、マイクロソフトの新たなCEOであるサトヤ・ナデラ(Satya Nadella)は、イノベーションが大切であり、それが世界に大きなインパクトを与え、世界を変えていくことになると語っています。
我々が研究しているのは未来の技術です。日々の仕事が、世界の将来を変えていくことになる。そのことにワクワクしています。
MSRおよびMSRAの特徴は、自由闊達な風土です。研究から生まれるイノベーションの源は、研究者の興味や関心です。それは、ほかの誰かから「この研究をやってほしい」と指示されて行なうものとは違います。自由な風土を重視することはこれからも変わりません。「将来、こうしたい、こうなりたい」と研究者が思うことは、研究者自身を突き動かす最大の原動力になります。
技術を使ってもらい、受け入れられることが大切
「デプロイメント・ドリブン・リサーチ」
——今、MSRAを取り巻く環境には3つの変化があると思います。そのひとつは、マイクロソフトが、デバイス&サービスカンパニーへのシフトを宣言したことです。これはどのように影響していますか?
洪 研究の観点からいえば、すでにそうした方向性を持ち、数年前からデバイス&サービスの研究開発に取り組んでいたといえます。これはモバイルへの対応、クラウドやビッグデータへの対応と言い換えることもできます。まずモバイルについては、例えば「Haptic Feedback for Fingerchip Interaction with Touchscreens」というMSRAが研究した触覚フィードバックに関する技術は、スマートフォンのガラスパネルにタッチするとスクリーンの端に固定されたアクチュエータが動き、タッチの強弱などをもとに、パネル表面に、その動きがフィードバックされるというものです。また、ビッグデータやクラウドに関する技術も、数年前からMSRAで研究しています。この取り組みは、これからますます加速することになります。
その一方で、「デプロイメント・ドリブン・リサーチ」という手法が重視されてくると考えています。これまでのような研究室の中に閉じた活動や実験だけでなく、アイデアやプロトタイプを、製品部門に展開したり、ポテンシャルカスタマに早い段階から関与してもらうことで、それをフィードバックしてもらう仕組みです。
コンシューマユーザーが、楽しんで、使ってもらえる技術を世の中に送り出してこそ、イノベーションが成功したといえる。技術を使ってもらって、それが受け入れられるかどうかが大切です。
ハードとソフトの両方がわかる研究者が求められている
また、ハードウェアの研究活動をもっと積極化することは重要ですが、ソフトウェアの重要性は、マイクロソフトにとって変わらないことですし、マイクロソフトにとっての強みです。
よくよく考えみると、デバイスのイノベーションも、ソフトウェアから起こることが多い。ソフトウェアの研究者にも、ハードウェアの知識が必要になっているのは事実ですし、ソフトウェアとハードウェアの境界線は曖昧になっている。デバイスの進化には、ハードウェアとソフトウェアを統合したアプローチが最適です。
今後は、MSRにおいてもハードウェアとソフトウェアの両方がわかる研究者を求めており、そうした人材の比率が高まっていくことになるでしょう。ソフトウェアの研究者も、どこにどんな素材を使うのか、世の中にはどんなセンサーがあるのか、といったことを知識として持っている必要がある。様々な領域の知識が求められるようになるでしょう。これは、MSRの研究者だけでなく、業界全体として求められているものだといえます。
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