藤井太洋氏に聞く、IT業界のすぐそこにある未来、いま起きている現実
ITとともに生まれた産業革命に匹敵する本質的な方法論
2014年04月16日 11時00分更新
人のように話す=知性のある機械……?
藤井 いまどんどん透明になっていく、世の中の見通しがよくなっていくことに対する反動として、LINEとかWhatsAppみたいなプライベートネットワーク、ソーシャルネットワークよりももっと小さい、プライベートコミュニティーネットワークの方に移行している気がしますよね。壁を立てたいという人が増えている。
遠藤 人もそうだしスナップチャットみたいに時間を限定するものも出てきている。
藤井 あとはカスペルスキーの研究所も発表していましたが、今の形のインターネットは終わると。国ごとのインターネットブロック経済のようなものが始まるんじゃないかと。
遠藤 そういう議論はすごくされているみたいですね。先般、慶応義塾大学の村井純さんにお話を伺ったときも出てきましたが、インターネットそのものが変質する可能性が出てきている。
藤井 第一次世界大戦と第二次世界大戦の間にあったブロック経済に近い「インターネットブロック」。そういうエリアが出てくる可能性がありますよね。
遠藤 それってオープンの話とは全く逆ですね。
藤井 多分オープンにするかどうか行ったり来たりしながらブロック化していくんじゃないかなと思うんですよね。「いったんつないでみました」「問題が出てきました」「じゃあブロックしましょう」と。すごく楽観的(笑)な私の感覚でも、国家用ファイヤーウォールみたいなものが普通に使われるような気がしますよ。
遠藤 そうなんですか。
藤井 個人のコンピューターレベルであればIPを遮断してしまえばそれで済むじゃないですか。国だとIPをフィルタリングするにしても、それなりのリソースを使いますし、少なくとも回線は使いますよね。
遠藤 DDoS攻撃とかありますからね。
藤井 そういうのを止めるために、ルートを切ってしまう装置が必要とされているのは間違いないと思います。というか、展示会とかに行くと普通に売ってますし。
遠藤 たとえば金融など情報として扱いやすいものは、ちょっと近いようなところがありますね。このままいくとなくなってもおかしくない部分があります。
藤井 ただ、そういう時代でも情報はなくなっていないと感じませんか?
遠藤 情報自体はなくなっていないんだけど、たとえば、海外送金はいままで送金業者や銀行がやっていたわけですけど、トランスファーワイズみたいなサービスが出てきた。ポンドとユーロでそれぞれ送金したい人たちをある枠でまとめてみたら、実際に為替手数料を払って送金する必要があるのは限りなく少なくなるという発想です。実際、「銀行のそういう部分での商売が成り立たなくなる」という意見もあるわけです。
藤井 現在の組織がそのまま生き残る必要は多分ないんじゃないですかね。
遠藤 そういう意味でいうと消えるものは消えるし、残るものは残るのがいつもの摂理で、今はインターネットが来ているからちょっと速度が速いかなくらいでしょうか。
藤井 そうですね。でも、トランザクションのスピードが速いことが、ひとつのホメオスタシスを作っているという風に考えています。
リーマンショックからの回復がこんなに早く、半年ほどで支障をきたさないレベル復活したじゃないですか。あれをけん引したのは高頻度取引なんですよね。アルゴリズムによってちょっと落ちている株、上がりそうだから買っておく株などがms単位でわかる。高頻度取引でじわじわと支えていったからこそ、あそこまで戻ったわけですよ。コンピューターが生んだ高頻度取引、ひいては今まで考えられなかった量と速度のトランスファーがひとつの向上性を生んでいるというのは指摘してもいいのかなと。
遠藤 なるほど。
藤井 それを支えているのは、見えないところにある大量のコンピューターですね。
遠藤 CPUですよね。
藤井 世の中には自分たちが触ることのできないコンピューターがあちらこちらにどーんと積まれている。その機械の持ち主に「お前今何やってるんだ」と聞いても、ミクロなレベルではわからないことを延々とやっているわけじゃないですか。それこそが機械化知性かなという感じがするんですよね。つまり、もう何かが産まれてる。いきなり「ワ、タ、シの名前は……」とかしゃべりだすのが機械化知性だとは思わないですね。
遠藤 ロボットとか人工知能システム的なものじゃないこともある。
藤井 私たちが意識としてとらえていなくても、なぜか市場を健全に保っている。
遠藤 インターネット楽観主義的な感じですね。でもそれは私たちが解明していないあるルールによって成立しているのかもしれない。
藤井 ひょっとしたらそういうものが量子コンピューターなどで一気に解明されるときがくるかもしれません。そこで新しい数学とかが発生する可能性もあります。コンピューターによって数学ってすごく変わったじゃないですか。フラクタルみたいな形で。本質的には変わっていないという人もいますけど、少なくともアプローチする手段が桁違いに増えた。もし量子コンピューターが出てくると、おそらくまた別の形でのアプローチを試みる人が大量に出てくると思うんですね。
遠藤 なるほど。
藤井 だからまだ21世紀は引き続きコンピューターの時代が続くんだろうなという気がしますね。チューリング装置に匹敵する大発明が生まれれば別ですが、それこそ、そこは人間の頭脳に期待ですね。
インタビューを終えて──遠藤諭
半年前、ある研究会で藤井さんにお会いしたのは4年ぶりのことだった。藤井さんとは、iPad発売直前に『MacPeople』でやった座談会でご一緒したのだった(2010年4月号掲載)。林信行氏、津田大介氏、藤井太洋氏、それに私という顔ぶれで ある。当時の藤井さんの肩書きを見ると、イーフロンティアで3DGCソフト「Shade」シリーズなどの開発を手がけるなどと書かれている。Mac専門誌がiPadの座談会に呼ぶ論客で、いま読み返してみてもタブレットがどんな世界を作り出すか的確に指摘している。2012年に電子書籍を自身でプロデュースした『Gene Mapper』は、とくにコンピューターをとりまく広範な知識に裏打ちされた“未来考証”が魅力の小説だった。『オービタル・クラウド』は、それを宇宙という舞台まで広げたが、今回お話をうかがうと我々に響くテーマはまだたくさん蓄えられている印象だ。
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