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遠藤諭の『デジタルの、これからを聞く』 第1回

藤井太洋氏に聞く、IT業界のすぐそこにある未来、いま起きている現実

ITとともに生まれた産業革命に匹敵する本質的な方法論

2014年04月16日 11時00分更新

文● 遠藤 諭/角川アスキー総合研究所

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NASAのデータにも一般人が気軽にアクセスできる時代だから

遠藤 APIを利用してデータを取得し、それを見ていたら何かおかしいなと気づくわけですね。流れ星が落ちてくる様子を撮影している「スペースガード」みたいなところもありますが、NASAでも現状はそのレベルのものが公開されているんですか?

※地球に衝突する恐れのある天体や宇宙空間をさまようガレキなどを観測し、その追跡をすること。宇宙開発の過程で発生し、地球の衛星軌道上を回っている残骸(投棄された人工衛星やロケットの破片など)を宇宙ごみ(スペースデブリ)と呼ぶ。

藤井 流れ星まではわかりませんが、デブリデータの公開は1990年代くらいから急速に整備が進んでいて、事業者も、アマチュアのアーカイバーもいますよ。だいたい今は国だけではなく、事業者が人工衛星を打ち上げて、普通に運行しているじゃないですか。

遠藤 そうなるとお互いにデータを公開しないとぶつかったりして危ないわけですね。

藤井 イリジウムなどは20個くらいの衛星を常時運用しています。そして予定する軌道上に宇宙ゴミなどが発見されたら、衛星の位置をちょっとだけ動かしたりしてる。そんな事業者の活動も公開された軌道情報で見えてしまうんです。そしてアマチュアでも知ることができて、皆さんも知っているITの方法論で加工できる。多分これからはその共通言語で伝わる範囲がもっと広がっていくと思っています。

※衛星電話を使った携帯電話サービスのひとつ。当初、イリジウムの原子番号と同数=77個の人工衛星を協調動作させる計画だったことからその名がつけられたという。

プログラミングは産業革命におけるネジと同じぐらいのインパクトを持つ

遠藤 今は組み込みなどの小さな世界からNASAのデータへのアクセスまで、すべて同じプラットフォーム上でできてしまうところまで広がっている。

藤井 私たちでも使えるものでできますよね。それこそ蒸気機関の時代を産んだネジやネジ回しのような共通の仕掛けです。共通の工具が出てきて、回せば締めることができる。今のコンピューターもそういうレベルじゃないですか。それくらいの共通性がある。

遠藤 ネジも何番のものとかありますよね。

藤井 ネジの種類はいくつもある。それに伴った口径もあります。材質もいろいろあるけど、どれも回して蓋を閉める。その点は共通している。ITの共通言語はそういう発明の方向に近い、道具になっているんじゃないかと。たとえば電気自動車のテスラには情報機器のような内部にアクセスする手法があって、がんばればその中身が「見える気がする」。こういうことがコンピューターだけではなく、身の回りにあるさまざまな機器で起きている。大きさや形状に細かな違いがあるけれど、回せば締まるのがネジ。それに通じる共通化された方法で、PCと言語を使って扱える機器が増えている。これがすごく重要なんじゃないかなと。

Tesla Model S

遠藤 工作機械のイベントでも、3Dプリンターが置かれるようになったりしていますよね。

藤井 そうですね。そしてそのほとんどが(組み込み機器的な)昔ながらの方法で書かれていないですよね。OSはほぼLinuxだったり、その派生のOSになっています。また、動かすためのプログラムは、Cや、それに類する高級言語を使ってコンパイルされています。

作業が重く、倫理的にも問題があるのに、なぜナノテクでDNAが使われるか?

遠藤 いま大企業のシステムにタブレットなんかが入っていっています。それを“エンタープライズモバイル”と言うのかと思ったら“コンシューマライズ”と呼んだりしている。そういった業界の間にあった違いが取り払われて、たとえば金融から製造まで共通した地平が見渡せるようになってきた。そういう意味では、ちょっとドキュメンタリーっぽい感じもありますね。

藤井 だからコンピューターを使う人たちの視点でこういう物語が作れそうだなと。Gene Mapperも同じですね。遺伝子情報をあたかもプログラムを扱うかのように、リソースを修正するかのように、扱える時代がきたという前提で書いてますから。

遠藤 実際にきていますからね、「DNA origami」というのをやった人がいます。塩基の並び重なる部分を1本のDNAの両側につくって、あいだの重ならない部分が短い場合と、長い場合で曲がり方が変わってくるわけです。それで、スマイルマークを描いちゃった。

藤井 そういうのって面白いですよね。ナノテクノロジーの分野で、なぜかDNAを使った発表が続いているんですよね。ナノロボットだったりとか、バイオコンピューターを研究している人たちってたくさんいるんですが、なぜかDNAが好まれるんです。

遠藤 マッチングが早いからですかね?

藤井 DNAって有機分子ですし、安定的でもありません。小ささを競うならもっとプリミティブな分子を使えばいいじゃないですか。しかも倫理的にも問題がある。でもDNAを使うんです。なぜかというと、振る舞いがわかっていて、解析する機械があり、切り貼りする方法論が確立しているからです。

 要はハッキングなんですね。動くライブラリーがある、振る舞いもわかっている。それを扱うための組み換え用ソフトもある。生成するための装置もある。機械があるからやっているんです。

 手近なものをつないで、なんか動くものを作っちゃうのって、シリコンバレーの中の文化に限りなく近い。バイオバンクやバイオハックなんて言葉が示す通り、まさにハックなんですよね。

遠藤 いただいちゃう感じですね。

藤井 IBMなんかでは本格的に原子を1つずつ並べるようなピュアな方法でやっているんですよ。そういう知見を基に「あ、できるんだ」といって誰かがDNAをつないでやっているわけですよね(笑)。状況としてはNASAのデータにアマチュアがアクセスして、「わー!」って喜んでいるのと同じですよ。

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