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PixarはCGアニメの細かな演出のためにGPUパワーを活用する

2014年03月30日 15時00分更新

文● 塩田紳二

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 NVIDIAによる開発者向けカンファレンス「GPU Technology Conference(GTC2014)」。2日目の基調講演にはアニメーションスタジオとして知られるPixar社が行なった。

The Foundry社の「KATANA」と呼ばれるツールを使ってライティングを編集する。左側の画像がプレビューで、たとえばカメラ位置を変えてもリアルタイムに画像が変化する。レイトレーシングは、視点へ向かう光を計算するものなので、カメラ位置が変わると再計算が必要になる。こうした処理をGPUで高速化しているとのことだ

もともとハードメーカーだったPixar
CG制作事業は業績悪化の結果での新規事業

 そのPixarは実は創業当時はハードウェアメーカーだった。製品は「Pixar Image Computer」で(英語版Wikipedia)、もともとはルーカスフィルムの一部門としてCGツールの開発にあたっていたのだ。

 Pixarが会社として独立した1986年は、まだコンピュータの性能が高くなく、CGの1フレームを作るのに数日かかるようなこともあった時代である。パソコンのCPUはi386でクロック周波数は12MHz。このため、CGのレンダリングは、VAXなどのミニコンなどが使われることが多く、CG作成はレンダリング時間をいかに短縮するかが問題だった頃である。

最初にPixer社の歴史から話を始めたDirk Van Gelder氏。うしろのスクリーンに映っているのはPixer Image Computerのカタログ。Pixer Image ComputerはレンダリングのシステムのみでSun Microsystems社のSUN Workstationなどを接続して利用する

 このため、高性能なレンダリングが可能というハードウェアメーカーとしてSGI社などいくつかの企業があった。CGの開発効率をあげるためにはレンダリング速度が必要だったために、ハードウェア自体の開発をすることも、それほど珍しいことではなかったのだ。

 1986年にはよく知られているようにスティーブ・ジョブズが買収することで、Pixarはルーカスフィルムから独立した企業となったのだが、当時はジョブズ自身もハードウェアメーカーを買収したと考えていたという。

 その後、ハードウェアビジネスはうまくいかなかったものの、CG作成ツールである「RenderMan」がSGIなど他社の製品にも移植され、著名な映画に利用されるなどツールとしては高評価となる。しかし、ハードやソフトのビジネスは厳しく、そこで始めたのがCGアニメーションの受注ビジネスだった。

RanderManやPixer Image Computerの開発者でPixer創業者のEd Catmull氏とPixer Image Computerの出力画面

 今回の基調講演はこうした過去の話から始まった。タイトルは、「Using NVIDIA GPUs for Feature Film Production at Pixar」である。タイトルのポイントは“Future”にある。公演では、CGアニメーション用のツールのデモなどか行なわれ、Pixarの映画である「Moster Univercity」のデータが使われていたのだが、実はこれらは研究中のもので、実際の映画制作に使われているものとは違うものなのだという。

PixarはこれまであまりGPUを活用してこなかった

 というのも、PixarはこれまでCPUによるレンダリング処理がメインで、GPUの利用には積極的ではなかった。同社では2001年からはPCベースのシステムを使っており、もちろんGPUボードも使われているのだが、主力はもっぱらCPUパワーを使ったものだったという。しかし、2年ほど前からCGアニメーション制作にGPUを利用しようと人材を集め始めた。PlayStationの著名なゲームソフトの開発者が移籍するなど、いろいろと研究を行なっているが、実際の制作フローに利用するまでには至らないというのが現状のようだ。

 基調講演は、大きく2つのパートに別れていて、前半は、アニメーションの基本的な制作、いわゆる「絵コンテ」から始まって、動きやカメラの位置、背景やその他の登場人物などの配置などを決めていく部分のツールを紹介し、後半は、「ライティング」のツールで、できあがったアニメーションに光源を置いたり、昼や夜にするなどの処理で、いわゆる「レイトレーシング」のツールの紹介だった。

アニメーションの制作過程。手書きのストーリーボードからラフなアニメーションが作られ、動きやカメラワークなどが決まっていき、群衆を配置して位置や動きなどをチェック、背景などを置いてアニメーションが完成する

 米国のアニメーションは、日本のテレビアニメなどとは異なり、先に俳優が演技したものを録音し(プリレコーディング)、これにアニメーションを合わせていくリップシンク方式で作られる。日本だと声優ができあがったアニメーションに合わせて声を入れていくのだが、米国には日本のような“アフレコ”のシステムがなく、俳優が日本の声優のように絵に合わせてセリフを付けることはかなり難しいらしい。

CGであっても、観客が自然に感じるように登場人物の姿や動きにはさまざまなルールが課せられる

 また、実際の制作以前の構想やシナリオなどにかなり時間をかけ、俳優が演技する段階でストーリーなどは完全にできあがっているという。また、アニメーション制作に携わる技術者の話では、レンダリングに時間がかかるために、プレビューの段階でフレームを抜いたり、追加してセリフに同期させることもあるようだ。

主人公だけを入れて細かく動きや表情などを編集していく

プレビューをGPUパワーで短時間で処理
より細かなキャラの動きや演出を可能にする

 最初に紹介されたツールは、アニメーションのプレビューをGPUを使いリアルタイムに行なうもの。これまでいくつもの作品を作ってきたPixarらしい細かな配慮のあるツールだ。GPUを利用しているため、アニメーションのちょっとした修正もすぐにプレビューすることができる。たとえば、動きに合わせて、手の指を曲げる動作を付け加えるなどの操作も簡単にできるとのことだ。

 もう1つのライティングも、レイトレーシングの基本的な話から始まった。さまざまなシーンのライティングをかえていくことで雰囲気がまったく違ってくる。

ライティングの例。同じアニメーションでもライティングがかわるとまったく違ったシーンになる

ライティングの設定項目。最初の写真にかなり多くの項目があるのだが、それは次の写真の1画面分でしかない

 ここで紹介されたのはThe Foundry社の「KATANA」と呼ばれるツール。同社とPixarは昨年提携しており、KATANAは、PixarのRenderManへの出力が可能になっている。両者の合作として「The Blue Umbrella」という作品が作られ、昨年のSIGGRAPHで公開された(冒頭写真)。

 どちらのツールも、アニメーションやカメラ位置、光源の変化などにリアルタイムに対応できるのはGPUがあればこそ。映画などで細かい部分までに手を入れるためには、高品質なプレビューが必要になる。しかも、短時間にプレビューができないと、作業効率が落ちてしまう。こうした部分に積極的にGPUを使っていこうというのが現在の状況のようだ。


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