分子の間隔を広げ、電流を速く流す
歪シリコン
これと同じ時期に、トランジスタの高速化に関してもう1つ新技術が登場した。2001年にIBMが京都で開催した「2001 Symposium on VLSI Technology」で発表した「歪シリコン(Strained silicon)」である。
これはどんなものかというと、まずSiGe(シリコンゲルマニウム)の膜を形成し、その上にシリコンの膜を形成する。両者は格子定数(それぞれの分子の間隔)が異なっており、SiGeの方が大きいのだが、格子定数の大きなSiGeの上にシリコンを形成すると、シリコンの方が引っ張られて、本来よりも大きな格子定数になった(=歪んだ)シリコンができあがるというものだ。
ちなみにSiGeを使うのはPMOSの場合で、NMOSの場合はSiN(窒化シリコン)を使うことで同様に歪ませることになる。
こうしてシリコンを歪ませると利点が生じる。電流が流れるという現象は、自由電子が格子間を移動していくのであり、格子が大きくなるほど速く電流が流れることになる。これはそのままスイッチング速度の改善につながるわけだ。
この歪シリコンの効果であるが、「2004 Symposium on VLSI Technology」においてインテルが発表した情報は以下の通りだ。
- PMOSは、駆動電流が30%向上。逆に同一駆動電流であれば、歪シリコンを使わない場合と比較してサブスレッショルド・リーク電流が50分の1に削減
- NMOSは、歪シリコンを利用することで駆動電流が10%向上
時期が前後したが、インテルは2003年に、この歪シリコンを利用した「P1262」プロセスを発表する。
歪シリコンを利用した最大のものがトランジスタであり、ゲート長はわずか50nmしかない。さらには、ゲート酸化膜の厚みも急速に減じており、P1262ではわずか1.2nmまで縮小された。1.2nmというと「原子5つ分よりも薄い」というレベルである。
他の特徴としては、P1262では7層の配線層が利用できるようになったが、この配線層の絶縁体には、ただのシリコンに代わって低誘電率(Low-K)絶縁体を利用するように改善された。
複数の配線が近接している場合、配線間容量と呼ばれる仮想的なコンデンサーにあたるものが生成されてしまう。この配線間容量に比例して信号遅延が起きるため、なるべく容量を小さく抑えないといけない。
誘電率は配線間容量に関係するもので、他の条件が同じなら誘電率が大きいほど配線間容量も大きくなる。そこで誘電率の低い絶縁材料を配線層に利用することで、配線間容量を低く抑え、信号速度の低下を抑えたのだ。
余談になるが、インテルは歪シリコンの技術に関して、2005年7月に米AmberWave Systems(現AmberWave)から特許侵害の訴えを起こされており、2007年3月に和解している(関連リンク)。和解条件は不明だが、インテルはAmberWave Systemsから10年間のライセンスを受けることになったため、なにかしらの侵害があったのだろう。
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