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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第246回

半導体プロセスまるわかり リーク電流に悩まされる90nm世代

2014年03月31日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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分子の間隔を広げ、電流を速く流す
歪シリコン

 これと同じ時期に、トランジスタの高速化に関してもう1つ新技術が登場した。2001年にIBMが京都で開催した「2001 Symposium on VLSI Technology」で発表した「歪シリコン(Strained silicon)」である。

 これはどんなものかというと、まずSiGe(シリコンゲルマニウム)の膜を形成し、その上にシリコンの膜を形成する。両者は格子定数(それぞれの分子の間隔)が異なっており、SiGeの方が大きいのだが、格子定数の大きなSiGeの上にシリコンを形成すると、シリコンの方が引っ張られて、本来よりも大きな格子定数になった(=歪んだ)シリコンができあがるというものだ。

分子の間隔が大きなシリコンゲルマニウム(SiGe)の上にシリコン(Si)の膜を形成すると、シリコンが引っ張られて、本来よりも大きな分子間隔になる。これが歪シリコンの原理だ

 ちなみにSiGeを使うのはPMOSの場合で、NMOSの場合はSiN(窒化シリコン)を使うことで同様に歪ませることになる。

 こうしてシリコンを歪ませると利点が生じる。電流が流れるという現象は、自由電子が格子間を移動していくのであり、格子が大きくなるほど速く電流が流れることになる。これはそのままスイッチング速度の改善につながるわけだ。

インテルが2003年春のIDFで行った歪シリコンに関する説明のスライド。ゲートの下の部分にこの歪シリコンを用いることで、電子が高速に流れるとしている

 この歪シリコンの効果であるが、「2004 Symposium on VLSI Technology」においてインテルが発表した情報は以下の通りだ。

  • PMOSは、駆動電流が30%向上。逆に同一駆動電流であれば、歪シリコンを使わない場合と比較してサブスレッショルド・リーク電流が50分の1に削減
  • NMOSは、歪シリコンを利用することで駆動電流が10%向上

 時期が前後したが、インテルは2003年に、この歪シリコンを利用した「P1262」プロセスを発表する。

「2004 Symposium on VLSI Technology」でインテルが解説した90nmの特徴。最大の特徴は歪シリコンだが、ほかにも色々ある

 歪シリコンを利用した最大のものがトランジスタであり、ゲート長はわずか50nmしかない。さらには、ゲート酸化膜の厚みも急速に減じており、P1262ではわずか1.2nmまで縮小された。1.2nmというと「原子5つ分よりも薄い」というレベルである。

ゲート長はわずか50nm。130nmのP860/P1260はゲート長70nmなので、30%ほど縮小した計算だ。だからといって30%の性能改善は叶わなかった

縦軸は対数。130nm世代ですらゲート酸化膜の厚みは1.5nmになっており、ある意味破綻は時間の問題だったのかもしれない

1.2nmは「原子5つ分よりも薄い」。当時はまだ「この厚みを制御できるインテルの技術は素晴らしい」という論調であった。そのことはその通りなのだが……

 他の特徴としては、P1262では7層の配線層が利用できるようになったが、この配線層の絶縁体には、ただのシリコンに代わって低誘電率(Low-K)絶縁体を利用するように改善された。

インテルは配線層の絶縁体に、CDO(Carbon-doped oxide)と呼ばれるものを利用した。SiOCと呼ばれることもある。従来利用されてきたSiOFの誘電率が3.4前後だったのに対し、CDOでは誘電率を2.9と18%ほど削減できたとしている

P1262では7層の配線層が利用できるようになったが、この配線層の絶縁体には、ただのシリコンに代わって低誘電率(Low-K)絶縁体を利用するように改善された

 複数の配線が近接している場合、配線間容量と呼ばれる仮想的なコンデンサーにあたるものが生成されてしまう。この配線間容量に比例して信号遅延が起きるため、なるべく容量を小さく抑えないといけない。

 誘電率は配線間容量に関係するもので、他の条件が同じなら誘電率が大きいほど配線間容量も大きくなる。そこで誘電率の低い絶縁材料を配線層に利用することで、配線間容量を低く抑え、信号速度の低下を抑えたのだ。

 余談になるが、インテルは歪シリコンの技術に関して、2005年7月に米AmberWave Systems(現AmberWave)から特許侵害の訴えを起こされており、2007年3月に和解している(関連リンク)。和解条件は不明だが、インテルはAmberWave Systemsから10年間のライセンスを受けることになったため、なにかしらの侵害があったのだろう。

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