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末岡洋子の海外モバイルビジネス最新情勢 第98回

Samsungが音楽サービス開始 新しい道筋はどこにある?

2014年03月19日 12時00分更新

文● 末岡洋子

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 スマートフォンの頂点に立っているSamsungが、注意深く動いている。2月の「Mobile World Congress(MWC)」で、次期フラッグシップ端末の「GALAXY S5」を発表したのに続き、3月始めには音楽ストリーミングサービスである「Milk Music」を米国でローンチした。ここ数年の課題であるサービスへのフォーカスという点では新しい取り組みとなるが、その前途は平坦ではなさそうだ。

SamsungがGALAXYシリーズのユーザー向けに音楽ストリーミングサービスを開始。端末メーカーとしてはトップに立ったSamsungだが、さらにそこから一歩先に進むことはできるのだろうか

音楽ストリーミング「Milk」でコンテンツに再挑戦

 Samsungが宿敵であるApple、さらには将来浮上する競合と戦っていくにあたって、最優先課題になっているのはサービスとソフトウェア(のはず)だ。高品質なAndroidスマートフォンを大量に安価に販売できるだけでは、いずれは価格競争に巻き込まれる。“メーカー”をDNAとする同社にとって急所となりかねないが、それを回避すべく数年前からソフトウェアとサービス分野の強化を重ねてきた。

 3月7日に公開されたMilkは、そういった点では完成度の高いインターフェースに仕上がっている。オンラインラジオプラットフォームである「Slacker Radio」を土台とした音楽ストリーミングサービスで、GALAXYブランドのスマートフォンで200種類以上のラジオ、合計1300万曲以上の楽曲が楽しめる。

 一言で説明するなら、Appleが2013年に開始した「iTunes Radio」、あるいはPandora、Spotifyのようなサービスである。当面は米国限定となり、対応端末は「GALAXY S4」「GALAXY Note3」などのAndroidスマートフォン。もちろん、春に発売予定のGalaxy S5も対応予定だ(日本で販売されているGALAXY端末ではアプリのダウンロードができないようだ)。

 好みの楽曲に迅速にアクセスできるダイヤルを用意し、(一時的ではあるようだが)邪魔な広告を入れないことで差別化を図った。音楽ストリーミングは競争が激しい分野。米国ではPandoraが最も人気があり、約3割のシェアを占める。PandoraやSpotifyが端末に制限されないことを考慮すると、GALAXYシリーズでしか使えないMilkに米国ユーザーがどのぐらい魅力を感じるのか疑問ではあるが、広告なしの無料モデル(Slacker Radioは広告付きで無料、または広告無しで月49.9ドル)で既存のGALAXYユーザーが試してみようという気になると踏んでいるようだ。

Googleと重複するサービスも
お互いに牽制し合っている?

 現在の市場の流れから考えると、MilkがAppleのiTunes Radioとどのように対抗するのかが着目点だが、Milkはそれ以上の含みがあるようにみえる。

 ここで少しSamsungのサービス側の取り組みを振り返って見ると、同社は2012年に音楽サービス「Music Hub」を導入、GALAXY S4ではこれを音楽に限定せずさまざまなコンテンツが得られるストア「Samsung Hub」に進化させた。一方で、Samsung HubはAndroidに含まれるGoogleの「Google Play」と重複する形となった。Samsungは1月末、このような重複を回避することでGoogleと合意を交わしたことが伝えられている。その後のMilkの導入が、微妙な2者の関係にどう影響するのか……。なお、Googleは音楽ストリーミングでは「Google Play All Access」を持つ。

 一方のGoogleだが、当時はGoogle傘下のMotorolaが、GoogleサービスやAndroidと密に連携した端末を作りたい考えを持っていたが、Google側がこれを拒否していたという話が3月中旬に明かされた。

 2013年8月にMotorolaが発表した「Moto X」だが、実はMotorolaにとっては妥協に妥協を重ねたものだったという。The Informationのレポートによると、MotorolaチームはGoogleと協業して自然言語処理技術を開発し、これらの技術を統合したスマートフォンを作成したかったが、Google側はこれを受け入れなかったとのことだ。Androidチームと直接協業することも禁じられていたようだ。さらには、GoogleのCEOであるLarry Page氏はMoto Xの大々的なキャンペーン展開を認めなかったとも伝えている。

昨年夏にGoogle傘下となってからの開発では第1弾となった「Moto X」。しかし、GoogleにとってMotorolaを通じてのスマホのリリースは本気ではなかった!?

 Page氏がそのような決断を下した理由は、Samsungをはじめとした端末メーカーとの関係に配慮したためだろう。また、Motorolaの買収の一番の狙いは特許だった、ということもあるのかもしれない。一方、2012年に正式にMotorolaを抱えたGoogleに対し、Samsungは「Tizen」をちらつかせることでバランスをとっていた。

 そのMotorolaがLenovoに渡ることで、SamsungとGoogleの関係は新しい段階に入る。そうみると、LenovoへのMotorola売却は、GoogleによるSamsungへの“脅し”と見えなくもない……Googleサービスと重複するアプリを控えるという先述のSamsungとGoogleの合意は、Lenovo売却の発表と時を同じくして結ばれているのだ。

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