直販営業にこだわり専門の子会社設立
販売展開に当たってはこのサービスを開始する際に2つの大きな決定を行っている。一つが専門の販売子会社を立ち上げたことだ。KDDIまとめてオフィス株式会社の設立である。最初の拠点は東京で2011年2月設立から1年間は東京23区内を対象に営業を行なっていた。その後、東京、大阪、名古屋に商圏を広げ、さらには2013年3月に地域会社4社を立ち上げ、現在は全国の対応となっている。
地方都市ではKDDIの支店などはすべてKDDIまとめてオフィス株式会社に統合した。営業体制は2012年時点での専任営業マンは230名であるが、2015年には2000人体制にする予定としている。
さらに売上金額は2012年時点で50億円であったが、2015年では500億円を目標にしている。面白いのは子会社の営業マンの採用だが、ITや回線サービスの経験のない人材を、地元エリアを中心に中途で採用している。経験のないほうがむしろ中小企業へのまとめて提案に対して先入観なしに入り込めるという考えに立っているものと思われる。地元でなら採用もしやすいという側面もあるのは事実だ。
KDDIまとめてオフィスのベースとなる中小企業は、すでにauの料金等の請求処理で毎月ユーザーとコンタクトをとっている。いわゆる口座を持っている企業に対して、直接訪問し、まずは回線料金の低額の提案などでコンタクトしてその機会にKDDIまとめてオフィスを提案する。そして営業マンが何度か訪問するうちに、顔を覚えてもらい三河屋のサブちゃん的に入り用なものをキャッチして売り込む。受注はなんでもかまわないのでまずは頼ってもらうことからスタートする。この入り方でつながれば、あとはストック的に長期間の付き合いが始まる計算だ。
商談のきっかけ作りには、テレコールもある。ファーストコンタクトを取りやすくするために同社のコンタクトセンターから電話をかけて、その結果を受けて営業マンが訪問することは比較的多いという。基本的にKDDIとの取引がある企業であるために「いつもありがとうございます」からスタートできるので、話は聞いてもらえる優位性は生かせるからだ。
確立されていない提案は課題でもあり、チャンスでもある
実際にどのように提案を行なうかは個別の企業に応じて行なうので決まった形はないが、一定の流れは存在している。営業のベースとなるのが同社の既存ユーザー企業なので、回線サービスの料金やITの困ったことを解決する事例が基本であるが、IT以外でもユーザーの困っていることを何でも解決することで、ユーザーとの接点を強化し、長い付き合いを構築する。
聞けば、「新入社員を数年採用できていない企業に代わって学校回りをし、新入社員を探してあげた」「社屋のトイレが古くなっていたのでKDDIのユーザーの住設ベンダーとのマッチングをした」などとの武勇談は多数。ユーザーとのWin-Winの関係を強く意識しているわけだ。
同時に人と人の関係性が重要な要素となる提案活動だから、逆に人に委ねる要素が大きいビジネスという側面は否定できない。そのためITや業務などのスキルも含めて営業マンとしての包括的な底上げが必要となる。そのためには実績と経験を踏むことが肝要だ。人材(営業)を育てるためにはやはりこのサービス同様に継続的な一定期間が必要となる。同社でもIT、OA、モバイル、テレコムの提案から、会計業務、ユーザー企業の本業を手助けできる提案などができるような営業マンの育成、サービスを強化するのがこれからの課題であり目標となっている。
また、この連載でも取り上げているように競合他社が同じようなサービスを始めてきていることをリスク視している。ただ、先行しているアドバンテージはあると思う。同社は固定電話とモバイル通信の融合におけるビジネスで非常に苦労した経験を生かして、このノウハウを糧にKDDIまとめてオフィスでの自信をのぞかせている。
ベタな地上戦で裾野を攻略する面白さ
今回はITを使って先進的な提案を行なう流れとはまるで逆の、むしろハコモノ中心に訪問販売で中小企業を攻めるアナログ戦略のKDDIまとめてオフィスを取り上げた。
KDDIまとめてオフィスは中小企業の三河屋のサブちゃんとして、細かいところに気がつく出入りの業者的に企業と良い関係を築きながら、長期的な関係を訪問販売を通じて継続していく、実にアナログな手法でアプローチする戦略をとっている。キャリアベンダーが行なう空中戦のイメージを打破して、ベタな地上戦で裾野を攻略する手法が面白い。実はここで得られた顧客ベースが次に目指すITやクラウドなどのサービスにつながる大きな財産になる可能性を秘めているからだ。さて有効な販売チャネルとして今後どの程度効果を出して、継続していくかにかかっている。
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