商品に対する情熱で競争者に勝つ
“安心”や“信頼”を勝ち得るための道具として「言語」は必要だが、実ははたいした問題ではない。社内でその国の言葉を話せる人が数人いれば事足りるし、いなければ人員を確保する、あるいは、翻訳のプロと何度もやりとりをしながら内容を詰めていけば済む話だからだ。
それよりも大切なのは、販売商品に対する思い入れだ。国内サイトでも、同じ商品を売る場合に、商品カタログをそのままコピーした文言なのか、販売主の思い入れのある商品説明文なのかで売り上げが大きく変わることはよくあるが、海外サイトでもまったく同じなのだ。
「特に海外でモノを売る場合、その国の事業者だけでなく、世界各国の事業者が競争相手になります。中国、韓国、台湾から発信しているEC事業者を見ていると、日本のEC事業者よりも『なにがなんでも売る!』というやる気、情熱が旺盛です。彼らと渡り合う意味でも、商品に対する情熱をこれでもか!とアピールするぐらいでちょうどいいのではないかと思います」
「どうしても、自分が広めたい!」という商品に対する思い入れだけは、代わりになる人は誰もいない。だからこそ、その想いを時間をかけて伝えていく姿勢が必要で、それがあれば、国境を越えて共感してくれる人が現れ、いつの日か、大勢の人が支持してくれる可能性があるというわけだ。
こうした情熱を支えてくれるのが、海外展開をサポートするコンサルタント企業や、SEOなどのテクニックだが、それだけに頼る姿勢では、成功しないのである。
海外向けECサイト要件
項目 | 海外向けEC |
---|---|
1.物流 | 日本国外へ配送。商品によっては海外配送が困難なものがある。また、住所の仕様が日本と異なる(郵便番号がない、住所が非常に長いなど)。日本国内ほど物流環境が整っていない国が多い |
2.税金 | 仕向け先により関税・消費税・その他の税金が発生。国により制度が異なる |
3.通貨、為替 | 日本円以外の通貨圏へ販売。通貨をまたぐ取引の場合、売り手/買い手のどちらかに為替変動のリスクが発生する可能性がある |
4.決済 | 国によって主要な決済方法が異なる。銀行振込や代引きは国際間では対応が難しい。日本の決済サービスのほとんどは海外へ対応していない |
5.マーケティング | 日本の文化・情報を共有しないターゲットへ販売。リーチできるメディア、前提となる知識が異なる |
6.言語 | 英語、中国語など日本語でないケースが多い。サイトのデザイン・顧客対応などでターゲットの言語に配慮する必要がある |
7.法律(現地法) | 日本の法令に従う部分、現地法に従う部分の両方がある |
※『Webディレクション最新キーワード − 第24回 海外向けECサイトを始めるときに知っておきたいこと』掲載「国内向け/海外向けECの要件比較と対策」を改編
物流、送料や税金などの問題を考えよう
海外でモノを売るときは、実務的な障壁についても、あらかじめ考えておく必要がある。
「なんといっても物流の問題です。多くの場合、商品は日本からコンテナなどで送り、現地到着後は個別配送になります。到着まで日数もコストもかかります。しかも、多くの外国は、日本ほど国内の物流環境が整っていないので、遅い、届かない、破損するなどのリスクがつきまといます」
物流の制約は、商材の制約にも直結する。すなわち、海外展開においては、痛みやすい冷凍冷蔵品や、壊れやすい商材などはあきらめざるを得ない。だから洋服や雑貨など、たとえ乱暴に扱われても、遅配しても品質に影響がない商材が選ばれるケースが多くなる。ちなみに、国際輸送で最もよく使われる小口輸送は日本郵便のEMSだが、そもそもEMSは、規定で冷凍冷蔵品は輸送できない。
また、「商品代金以外にかかるお金」の障壁もある。国際輸送ゆえ送料は高く、現地の関税などの税金も発生する。為替の変動リスクもある。こうした“経費”を積み上げていくと、販売価格は割高になっていく。
「漢字のTシャツ1枚を2000円で販売していても、海外で販売する場合は、送料や税金、為替リスクなどを加えると5000円近くになることがあります。現地でも、作ろうと思えば漢字のTシャツは作れるわけですから、それら競合店に、『到着に何週間もかかるうえに、現地で買うより何倍も高い商品』が本当に勝負できるのか、しっかりと見極めておくべきでしょう」
物流の問題、コストの問題と実務的な問題は山積みだが、それをひとつひとつ解決していく粘り強さと、なにより、商品に対する情熱が海外展開を成功に導くのである。
※ ※ ※
次回は、有機野菜などの宅配を手がける『オイシックス』の香港における取り組みを、実際に海外向けECを展開する企業の事例として紹介する。海外展開でも、最も販売が難しい生鮮食品の取り扱いを始めて約4年。前例がほぼないなか、どのように販売体制を整えていったのか、詳しく見ていこう。