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ミリタリーウエアの超マニアに聞く洋服の「機能」ウンチク

「テープを通したボタン」の意味とは──ナイジェル・ケーボンは語る

2014年02月16日 16時00分更新

文● ASCII.jp編集部

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「私はメイド・イン・イングランドか
メイド・イン・ジャパンしか作らない」

──服の色にも、そんな理由があるとは知りませんでした。しかし、当時のウエアを忠実に再現すると、現代においてはかえって邪魔になってしまう要素もあるのではないでしょうか。大きすぎるとか、不必要だ、とか。

「正直に言えば、私はヴィンテージの服に、『現代においては邪魔になってしまう要素』というものを見たことがないよ。それらはポケットの位置一つでさえ、実践的で、機能的だから、周囲の環境に邪魔になるようなものはないんだ。さっきコンセプトの話をしたけれども、こういう気分だからこういうアレンジを加える、といったことはありえない」

ピーコート。ポケットの端をレザーで補強し、ボタンには硬くて割れにくいコロゾボタン(象牙椰子のボタン)を、生地はメルトン(羊毛を加工したもの)ではなく超高密度で打ち込んだウールを使うなど、随所に「機能」への理由が見える。7万9800円

袖のリブは二重編みになっている。腕側はゆるめ、手首側をきつめにすることで、余計な圧力をかけず確実にホールドする。しかも丸編み(筒状に編んでいく方法)で仕上げられており、縦方向に繋ぎ目がないなど、ここだけでも機能が満載!

──それでは、今の縫製技術など、最新のテクノロジーに興味はないのですか。

「いやいや。新しいテクノロジーで、ヴィンテージに見られるような形状のものを作ったとしたら、とても美しいものができることもあるはずだ。マッチングさせることで機能がより活きてくるというのなら、それは素晴らしいアイデアだよね。そういう理由があるならば、取り入れることを嫌がったりはしない」

編集部員が大興奮した、スニーカーの定番・コンバースとのコラボモデル。つま先が強化されている、靴紐を通すハトメの最上部はすばやく着脱できるようにD環になっているなど、機能性に裏打ちされた格好良さが光る。1万6800円

このスニーカーも、生地にベンタイルを使用している。防水性はばっちりだが通気性は通常のコットンに劣るので、空気を逃がす穴を左右に配置。その上でメッシュ仕様にしていることもあり、雨の日でも安心だ

──それにしても、あなたの作る服は過去のものにインスピレーションを受けているのに、どこか他にはないユニークな要素があると感じます。オリジナリティーを出すために、どこに尽力しているのでしょう。

「ええと……こう言うことができるかな、自分はミリタリーウエアのコレクターなんだけど、一目見ればその形状にどういう意味があるのか、どういう歴史があるのかがわかる。そのディティールから自分はインスピレーションを受けているんだけど、その結果、周りからはユニークなものに見えることがあるのかもしれないね。でも、私にとっては全て意味があってやっていることだ。たとえば、これは昨日買ったヴィンテージウエア。実に素晴らしい」

──これはなんですか? ミリタリーウエアには見えませんが。

ナイジェルさんがインタビュー前日に購入したというハンティングジャケット。生地とデザインの素晴らしさを力説してくれた

「1930年代に、シベリア地方で使われていたハンティング用の服だね。ここはニットで、ここは革になっていて、ここも生地が違うんだよ……つまり、3つの生地の組み合わせでできているんだけど、素晴らしいアイデアだよね! この生地を見ているだけでも、4通りのデザインが思いつくよ。ちなみに値段は10万8000円だった」

──10万8000円ですか……。

「もちろん、理由がなければ買ったりはしない。それだけこの服は良いものなのさ。私はミリタリーウエアが大好きだけど、そこから派生したスポーツや狩猟用のウエアも好きなんだ」

──ところで、日本の服飾産業では、海外などに受注することで大量生産を可能にしている現状があります。それと引き換えに、昔ながらの技術が失われているのでは……と思うときもあるんですが、そのような事態についてはどう考えていますか?

「『最悪だ』と言いたいね。日本は優れたクラフトマンシップがあり、素晴らしい素材があるのに……何でそれを投げ捨てるんだろう。イギリスも日本も島国で、環境も似ているし、住む人々のメンタリティーも似ているところがある。例えば、イギリスのロールス・ロイスを考えてみてほしい。職人が手で作っているだろう。あれと同じように、ここにしかいない職人でないと作れないものが日本にはあるんだよ」

ツイードのジャケットをはおり、足にはゲートルを巻いただけという、今考えると無謀とも思える軽装でエベレストに挑んだ登山家ジョージ・マロリーの名を冠したマロリージャケット。身の部分と、肩や肘の部分の布を同じ釜で染めているが、異なる性質の布を染めるのは熟練の技術が必要で、日本でも有数の技術力をほこる染工場で染色されている。3万9900円

よく見ると、ボタンはピンで留められている。もちろんこれにも意味があり、ボタンを付け外ししたり、来たまま激しく動いたりすると、当然ボタン部分の生地には負荷がかかる。そこで、ボタン自体がくるくる回ることにより、ダメージを防ぐというわけ。この留め方は機械では不可能だそうで(がっちり留まって回らなくなってしまうとのこと)、一つ一つが手作業で付けられている

──ナイジェル・ケーボンには、イギリス生産にこだわった「AUTHENTIC LINE - BLACK LABEL / UK collection」だけではなく、日本で生産している「MAIN LINE - GREEN LABEL / JAPAN collection」というラインがあります。

「さっきも言ったように、日本には少数だけど、大きな力を持った工場があり、素晴らしい技術を持った職人がいるんだ。私はメイド・イン・イングランド、メイド・イン・ジャパンしか作らない。それには困難もいっぱいあるんだけど、私は戦っているんだよ」

Nigel Cabourn, THE ARMY GYM FLAGSHIP STORE

 
 所在地:東京都目黒区青葉台1-21-11
 営業時間:11:00〜20:00
 電話番号:03-3770-2186

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