“寝耳に水”という言葉がぴったりだった……Google傘下のMotorola MobilityをLenovoが買収する。金額は29億1000万ドル(約2980億円)だ。Googleが125億ドルでMotorolaを買収してから2年も経過していないし、Lenovoは1週間前にIBMからx86サーバー事業を取得することを発表したばかり。AppleとSamsungで固定されつつあるモバイル市場が再び面白くなりそうな様相だ。
BlackBerryでもHTCでもなく
MotorolaをゲットしたLenovo
Lenovoによるスマートフォンメーカー買収の話はこれまでもあった。BlackBerryに食指を動かしていることは報じられていたし、HTC買収の憶測もあった。だが、GoogleがMotorola売却を考えていることは予想しがたかった。だが2社の取引はさまざまな要因が重なってトントンと進んだようだ。

11月に発表された「Moto G」。179ドルの価格が話題となったが、スマートフォンもPC同様の成熟化の道を進むのだろうか
LenovoとGoogle、双方の事情をみてみよう。Lenovoの事情はどちらかというと単純で、飽和状態どころか縮小傾向に向かっているPCから拡大を図りたい(Lenovoはこれを「PC Plus戦略」としている)というもの。これに比べるとGoogleは複雑で、スマートフォンハードウェア戦略、Androidエコシステム、そしてSamsungを含む競合など多面的に分析できる。
Wall Street Journalが明かした秘話によると、LenovoのCEO、Yuanqing Yang氏は、GoogleがMotorola Mobilityを買収した後にGoogle会長のEric Schmidt氏を自宅に招き、ハードウェア事業に興味がないならMotorolaを我々に売却しないかと持ちかけていたという(当初からGoogleのMotorola買収の目的は特許なのか、ハードウェアなのかと憶測されていた)。Schmidt氏は2013年11月後半になって「まだ興味があるか?」と聞いたのだそうだ。Yang氏の答えは「イエス」、その後話が急展開したようだ。
その時期はLenovoはBlackBerry取得を断念した直後のことだ。Schmidt氏が電話をしたのは状況をしっかり読んでのタイミングだろう。ちょうど同時期の11月25日、Motorola MobilityのCEOであるDennis Woodside氏はGuardianのインタビューに応じ、「Moto G」の安価モデルが今後の戦略を表現しているとし、スマートフォンの裾野を広げていくと語っている。ちなみにWoodside氏は「ライバルは?」という質問に「AppleとSamsung」と明言している。
Googleは、125億ドルという巨額をはたいて買収したMotorola Mobilityのほとんどの特許(1万7000件中、1万5000件)を維持する。またモジュラースマートフォン構想「Project Ara」(関連記事)などを展開する最先端技術事業部も手元に残す。Motorola Mobilityを買収後、セットトップ事業部(STB)はArrisに売却済。Motorola Mobilityは赤字続きだが、Lenovoへの売却により、結局この買収はGoogleにとってそれほど損な取引ではなかったように見える。

組立型スマホのプロジェクトはGoogleに残す
むしろ、今後LenovoがGoogleの思惑通りに動けば、自社を経てLenovoの手に渡ったことはとても有益だった、ということになりそうだ。
Androidエコシステムに加え
中国市場でも影響は大きい
ここまで書いてきたように、Googleの事情は複雑だ。ハードウェア事業としてのスマートフォンに魅力がないと判断したというのが表向きの理由に見える(GoogleのCEOであるLarry Page氏はLenovoへの売却を発表するブログで、スマホ市場の競争が激しいこと、生き残りには全力投球でモバイル端末を作る必要があるなどとし、Lenovoが最適と述べている)。これは、自分たちが得意とするソフトウェアやサービス開発に徹するというメッセージにも見えるが、一方でハードウェアへの拡大を打ち切るわけではないとも記している。
ウェアラブル端末の「Google Glass」の発売が待たれており、今年に入ってスマートサーモスタットを製造するNestの買収も発表した。成熟しつつあるスマートフォンよりも、モノのインターネットに向けてハードウェア戦略を進めた方がよいという判断ととれる。Nest買収により、同社の創業者でiPodの開発で中心人物だった元AppleのTony Fadell氏を獲得できるのだ。
Larry Page氏がCEOに再就任してからのGoogleは、事業やプロジェクトの取捨を積極的に進めており(これはSteve Jobs氏のアドバイスだそうだ)、ハードウェアとしてのMotorolaはもういらないとPage氏が決めた、と考えることができる。
Androidという観点から見ると、Androidの主であるGoogleがスマートフォンハードウェア事業を持たないことでSamsungなどの他のAndroidベンダーの不安を払拭……と言いたいところだが、その売却相手はLenovoである。GoogleとLenovoは特許ライセンスを含む戦略的提携も結んでおり、ハードウェア製造ノウハウに長けたLenovoが優先的に安価なAndroid端末を大量生産すると考えると、既存のAndroidベンダーにとっては、Googleが持っていた方がまだマシだったということになりかねない。
Lenovoはスマートフォンでは後発だが、すでにシェアは5位。しかも成長率は91%増と上位5社では最大だ(2013年第4四半期、IDC調べ)。しかも、市場は中国と一部東南アジアに限定しての成績である。LenovoがMotorolaを獲得すれば、成長している中国市場に加えて北米や欧州など成長国市場にも足がかりを得ることになる。
Motorolaは北米では第3位のAndroidメーカーであり、Lenovoは買収後、MotorolaブランドとLenovoブランドの2本建てでスマートフォン事業を展開する予定で、年間1億台も視野に入れているとのことだ。なお、2013年通年でLenovoは4550万台を出荷、トップはSamsungで3億1390万台、2位のAppleは1億5340万台だ。
これは、Androidベンダーにとっては脅威だろう。中でもAndroidの代名詞といえるSamsungは好ましく思っていないのではないか。LenovoのYang氏はCNN Moneyのインタビューで、「AppleとSamsungを追い越す」と早々に宣戦布告している。
そして中国市場だ。中国のスマホはAndroidが席巻しているがGoogleサービスを統合していないものも多い。Androidをタダで配布するGoogleのビジネスモデルは、Android上で検索、メール、地図など自社サービスを使ってもらうことで広告収入につなげるというものだ。しかし、ABI ResearchによるとGoogleサービスをインストールしていないAndroid端末の比率は25%に達しているとのこと。
中国でLenovoがさまざまな価格ラインでGoogleサービスを搭載したAndroid端末を作ってもらうことはGoogleにとって重要なはずだ。もちろん、China Mobileと提携しやっと中国市場強化の取り組みがはじまったAppleとの戦いという文脈からみても、Lenovoを手なずけることはメリットがあるだろう。

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