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ノーク伊嶋のIT商材品評会 第4回

中小企業向けのITサービスで全国網羅の優位を生かせるか?

サポートやPBXの実績を元に中小企業を攻めるNTT Com

2014年02月10日 09時00分更新

文● 伊嶋謙二(ノークリサーチ シニアアナリスト)

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直販主体の約2000名のスタッフによる営業体制

 営業体制は国内16箇所のNTTコミュニケーションズ営業拠点に加え、2012年に中小企業層への販売力強化に向けて設立したNTTコム マーケティング(2千名規模)が同サービスの販売を行なっている。また、NTTコミュニケーションズグループの直販だけでなく、間接営業もあり、考え方によっては総勢数千名の体制がセールスパワーになっていると言える。上記に加えてコールセンターによるアウトバウンドテレマーケティングも実施している。かなり分厚い営業体制といえるだろう。

 サービス体制はNTTコミュニケーションズグループの約1000人の体制で展開している。サービス人員は「.com Master(ドットコムマスター)★」以上の資格を持つことが条件であり、サービスレベルのスキルは担保されている。またすべてのサービス人員が同社のプロパー社員というわけでなく、実際は契約社員が多くなっている。外部のスタッフをサービス要員として機能させているのは、B2Cでのコンシューマー実績で確立している体制を活用した形である。

 販売戦略としては現状では直販が多いが、今後は間接販売を強化していくことになる。いわゆるチャネル販売でも単なるモノ売り的なディストリビュータとしての展開だけでなく、OEMでの展開も念頭においている。新たな収入源になるとして、販売店からの評判と期待も上々とのことだ。

 同社の最大の強みはスケールメリットを生かせることだ。NTTコミュニケーションズの企業口座数は非常に多い。そしてB2Cでのコンシューマーで数多くのサポート実績を積んでノウハウがある。つまり顧客対応の実際のオペレーションがB2Bの小規模企業への対応でも活かせるからだ。加えて全国一律のサービス品質を保証できるのが最大の強みとなっている。

 販売展開では2つの指向性を持っている。1つがソリューション的な販売。同社では「深堀営業(タテウリ)」といい、いわゆるソリューションベースでいけるのが深堀営業と呼んでいる。一定の企業規模をもっている、いわゆる既存顧客を中心に展開している。もうひとつが「水平営業(ヨコウリ)」だ。SOHOなどの小規模な企業への水平営業は、ローラー的なセールスとしての展開だ。同社の狙いは後者の水平営業で、口座数の多いかつ潜在顧客の多い小規模事業所を獲得することのようであるが、現状では既存顧客に対しての深堀販売も多い。

Arcstar Smart PBXで狙うクラウドサービス

 ITサービスとしてのBizプレミアムサポートに加え、2014年3月からクラウドサービス「Arcstar Smart PBX」の提供を予定している。名前の通りPBXをクラウド上で中小企業などに提供するもので、機器を自社に設置する場合に比べ初期コストが大幅に押さえられ、ランニングコストも廉価となる。

クラウドサービス「Arcstar Smart PBX」

 Arcstar Smart PBXの特徴は、PBXのクラウド化、Fixed Mobile Convergence(FMC-スマートフォンの内線化)、BYOD・モバイルデータ通信網をアプリで対応の3点だ。

 もともと同社では、内線/PBX機能及びIP電話発着信をネットワークサービスで提供する「.Phone IP Centrex」を提供していた。ただし、このサービスはモバイル非対応であり、使用される端末に制限もあった。スマートフォンの普及による、同社でのノウハウの蓄積、さらにはBYODニーズの拡大などにより新たなサービスが必要と考えたのが、「Arcstar Smart PBX」開発の背景だという。基本料金は、契約ごとに月額数千円とIDごとに数百円を予定している。

 Arcstar Smart PBXは中堅中小企業にターゲッティング(500IDまで)されており、大企業などの大規模ユーザへは500ID以上からも対応ができるArcstar UCaaSを提案している。Arcstar Smart PBXは、内線数=IDと考えるため500IDを上限としている。販売は、直販と代理店で行なう予定。

 課題としては回線の品質に問題がある場合などに、IP電話の音声品質への不安を持つユーザーがまだいることだ。またサービス機能を中堅中小向け、ローコストを目指した結果として機能を制限していることは留意したい。たとえばコールセンター機能がない、フィーチャーフォン・PHSには非対応、ホテル向けPBXにあるような翌日の明細書の提出は不可、さらにはカスタマイズを前提としていないなどの制限がある。またBYODでの利用を特徴としているために、このサービスでは携帯端末の提供はしない。

 競合先である他の携帯電話の通信キャリアはFMCサービスを持っているため、Arcstar Smart PBXサービスとは競合になる可能性がある。また他のSI企業でも一部で似たサービスを行なっているので、今後はさらに同様のサービスが出てくる可能性は高い。

ワンストップサービスへの期待と課題

 今回NTTコミュニケーションズを取り上げたが、通信キャリアが取り組む中小企業向けのITサービスとしては、個々の企業へのコア業務(企業の本業に役立つ)に踏み込むような提案というよりコスト削減や工数の軽減に役立たせるために、あらたなコミュニケーションツールを提案するという指向であるとの印象を受けた。

 中堅・中小企業でも、クラウドサービスが業務システムに活用するだけでなく、営業部門などの現場の業務でも活用できるシステムとしての流れが見えているだけに、この種のサービスの延長線にこの大きなトレンドをどのようにつなげるかを観測していきたい。いわゆる中堅・中小企業を「ワンストップ的にサポートする」ことには、企業のコア業務のサポートを包含した内容まで含むことも意味しているからだ。

 企業が求めるワンストップサービスにはITだけでなく通信回線やその費用やOA機器やサプライなど幅広い商材、サービスまで含まれる。さらには経理や販売などの業務システムや現場のIT化、情報共有などのシステム、そして企業の経営的なIT化相談など多岐に及ぶ範囲がワンストップサービスに含まれる可能性がある。なぜなら中小企業はそもそも少ないスタッフでしかも兼任で様々な業務を行う必要があるからだ。そのために外部の販売店にはワンストップで対応してくれる要件を企業が求めるのは必然となる。

 今まで経費削減的なアプローチで中小企業へ接してきた通信ベンダー及び販売店は、今後は文字通りワンストップサービスとして、ユーザー企業の総務的業務に加えて、企業の本業(コア業務)にまで関われるようになれるかどうかはチャレンジではあるが、その効果は大いに期待される。

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