国内線乗務が1年以上もあるのに
初々しい国際線移行訓練生
食事の提供はさまざまなシーンを想定して行なわれる。就寝中の旅客、メインディッシュを提供し終えてから目を覚ました旅客などだ。CAのサービス内容も多岐にわたり、配膳や回収、デザートや飲み物のオーダーと配膳、汚れたテーブルクロスを敷き直すなどさまざま。ギャレイも大忙しで、デザートや飲み物の準備加え、食事の後片付けで大わらわだ。
国際線移行訓練は、少なくても国内線の乗務を1年以上経験した百戦錬磨のCAだ。しかし国内線にはない食事の提供ということで、訓練生は緊張でガチガチ。歩くときも右手と右足が一緒に出てしまいそうなほど緊張しているので、こちらまで緊張してしまった。
以前筆者は、何百人の会社役員を相手に「萌え」について講演したことがあるが、旅客役としてシートに座った今回のほうがよっぽど緊張した。訓練生はそれ以上だろう。
緊張の原因の1つは、あまり口に出して怒らない教官の視線にある。教官は「ここぞ」というときにしか口を開かず、3名の教官が訓練生の一挙手一投足を鋭い目で観察している。
昔の訓練は、教官からの指導の声がビシビシとモックアップにこだましていたらしい。しかし現在の訓練は「CA1人に考えさせる」ことに重きを置いているので、指導の声はそれほど飛ばないらしい(とはいえ、30秒に1回ぐらいは指導されていたが……)。
指導の内容をかいつまんでおくとこんな感じ。2人1組でカートでサービスをしているとき、相方がサービスの提供に時間がかかっている。普通であれば、相方がサービスを終えるまで待っているしかない。しかしここで教官のチーフキャビンアテンダント三井 奈々子さんの指導が入る。
「せっかくのチャンスを棒立ちで待っているだけなのですか?」
訓練生は一瞬「?」を浮かべたが、すぐに教官の言葉を理解したようだった。
「そうです。こういうときこそ、お客様とお話するチャンスにするのです」
これが考えさせて育てる訓練なのだ。
ガチガチに緊張しているCAなんて滅多に見られない。そのギャップに筆者は萌えたわけだが「たどたどしくサービスするCAはそれも個性、一部の旅客に圧倒的支持を受ける」と提案してみた。しかし教官から「それは絶対にムリです」とバッサリ切られた。そりゃそうだ。
「個性を伸ばす」「考えさせる」
教官は、訓練生それぞれに接し方も変える
さてそんな訓練生の1人、澤津 菜月さんに話を聞いてみた。2012年に入社し国内線を乗務、そして国際線への乗務を望んでいるという。彼女によれば「ニューヨーク便に乗務するのが夢で客室乗務員になったようなものなんです」という。
なぜNY便なのかを聞いてみると「ビジネスの旅客と観光の旅客が同乗するので、機内サービスも難しく、それだけにやりがいがある便だからです」というのだ。
一方、訓練生に考えさせる指導をする教官も大変だ。2007年入社でニューヨーク便のファーストクラスを3年間乗務した納多 由季さんによれば「注意したくても、それを飲み込むことが重要」という。
なにが悪いのかを直接口にしないと伝わらない場合もあるのでは? という質問に対しては「そんなときは訓練生がなにを考えているかを知るために、質問するのです」
「次にやることがしっかり頭に入っていれば、行動で手間取っているだけなので技能の問題です。しかし質問に答えられないようなら、知識として頭に入っていないので、それを指導します」
また訓練生それぞれに接し方も変えているという。座学が得意な訓練生には理詰めで教えるのが一番早く、実践が得意な訓練生には身振り手振りで行動を見せたほうが覚えが早いという。さらに控えめな訓練生には、訓練時間外にさりげなく廊下などで声をかけて、本人の話を聞くことも大切と教えてもらった。
一概に「個性を伸ばす」「訓練生に考えさせる」といっても、なかなか難しく、常にチャレンジと試行錯誤の繰り返しということがわかった。それはすなわち安全と安心へのチャレンジと試行錯誤であるように思えた。