このページの本文へ

大谷イビサのIT業界物見遊山 第10回

空中戦から地上戦に突入する2014年のクラウド市場

エコシステムで勝てない国産クラウドは人海戦術に頼るのか?

2014年01月09日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷
edge

2014年、国内のクラウド市場での戦いは、「空中戦」から「地上戦」に移ると思っている。マーケティング施策やリード取りではなく、とにかく足を使ってクラウド売ってこいというフェーズに突入するのだ。それに伴いSIerやベンダーなどが抱えているIT人材も大きく流動化するはずだ。

エコシステムの構築は外資系ベンダーの十八番

 期の変わり目は人事異動のシーズンでもある。十年以上もITメディアの世界に居座っているせいで(おかげで?)、私はいろいろな人事異動や転職の連絡を受けるが、昨年、特に印象に残っているのはマーケティングや広報・PRから営業へという人の流れだ。数件であれば、気を留めることもないが、けっこうな件数で営業部門やより現場に近い部門への異動があったようだ。そんな身の回りの動向から導き出した仮説が、そろそろ本気でクラウドを売らないと日本のIT市場は厳しくなっているのではないかというものだ。

 ご存じの通り、日本のクラウド市場でも、やはりAWSの強さは圧倒的だ。以前の同コラムで、AWSの勢いを顧客数の伸びで示した後、その背景に基幹業務での実績とエコシステムがあると指摘した。そして、その後いくつかのクラウド事業者に話を聞いてみると、やはり日本のクラウド事業者の弱点はエコシステムにあることが明らかになった。

 エコシステムを簡単に説明すれば、パートナーといっしょに儲けようという仕組みだ。サードパーティの製品やサービスを連携させ、1つのソリューションとしてまとめあげたり、販売代理店と協業して、直販より高い売り上げを実現することである。また、資格や教育制度の拡充や、イベントやマーケティング支援なども、いわゆるエコシステムの施策に含まれる。マイクロソフト、オラクル、シスコなど大手と言われるITベンダーは、もれなくこのエコシステムの構築がうまい。

 もちろん、オンプレミス前提のITベンダーはサブスクリプションモデルに最適なエコシステムの構築に苦労しているが、着実に成果を上げつつあるベンダーも存在している。そして、AWSやGoogle、Salesforceのようなクラウドプレイヤーも当初からエコシステムを念頭にビジネスを展開している。薄利多売のクラウドの場合、パートナーを介した販売は利ざやが薄くなるが、より付加価値を付け、案件管理の自動化と効率化を徹底することで、“取り巻き”のビジネスが回るようにしている。特にAWSは国内でもエンジニアたちを確実にレバレッジしており、無視できない存在になっている。

垂直統合型クラウドでユーザーメリットは生まれるのか?

 一方で、日本のクラウド事業者は製品やサービスを自前で販売し、利益率を高めようという傾向が強い。他社製品やサービスと連携して、ユーザーに訴求するソリューションに仕立てるという発想がない。エコシステムの構築に関して聞くと、ほとんどは「取り組んでいるが、正直苦手」という答えが返ってくる。ファンクラブを持ったことがない歌手が、いきなりイベントをやっても成功はおぼつかない。個人的な意見では、パートナーシップの構築に注力している国内のクラウドサービスは、ニフティクラウド(ニフティ)とcybozu.com(サイボウズ)くらいしか見あたらない。

 特に大手メーカー系のクラウドや統合型インフラ製品は、ハードウェアだけでなく、ミドルウェアやデータセンターまで内製化されていることが多く、垂直統合化が著しく進んでいる。もちろん、自社製品同士の組み合わせは性能や運用管理の面でオーバーヘッドが抑えられるため、全体最適化は図りやすい。安くできるかは別問題として、コストのコントロールもやりやすい。内製化した製品がユーザーのビジネスニーズに応えられるくらい迅速に開発されていけば、たとえ他社から“ベンダーロックイン”とそしられても、ユーザー側のメリットは大きいはずだ。

 しかし、実際にそうなるだろうか? クラウド、モバイル、ソーシャル、ビッグデータなどのメガトレンドに追いつけず、グローバルスケールのメリットも持っていなければ、内製化は単に足かせになるだけだ。

乱立するクラウドサービス。健全な市場になるのか?

 冒頭に話を戻そう。AWSのようなクラウドプレイヤーは圧倒的なスケールとスピードでサービスを強化している。そして、その波に乗るべく、新興のクラウドネイティブなSIerたちがエコシステムを支えている。では、イノベーションやスケール、エコシステムで勝てない日本のクラウド事業者はどうするか? この結論が人海戦術だ。要は人を投入して、クラウドを売る必要が出てきたわけだ。

 現在、国内でクラウドを販売しているのは、専業のクラウドやホスティングの事業者だけではない。国内では前述したメーカーや通信事業者、SIerなどがもれなく自社ブランドでクラウドサービスを展開している。正直、サービスの似通った「金太郎飴状態のクラウドサービス」が乱立している市場と言わざるを得ない。これら多くのプレイヤーが来年以降、多少無理してでもクラウドを売ることになる。特に原価が見えやすいIaaSの価格競争は熾烈を極めるだろう。

 しかし、行き過ぎた価格競争の先に健全な市場は見えない。とにかく人を投入して、顧客数と売り上げを増やすという発想では、国産クラウドは共倒れになる。各プレイヤーは改めて自身の足下を見直し、エコシステムやパートナーシップの存在価値について考え直すべきだ。

筆者紹介:大谷イビサ

 

ASCII.jpのTECH・ビジネス担当。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンタテインメント」をキーワードに、日々新しい技術や製品の情報を追う。読んで楽しい記事、それなりの広告収入、クライアント満足度の3つを満たすIT媒体の在り方について、頭を悩ませている。


カテゴリートップへ

この連載の記事