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サイボウズ、さくらのトップが熱血対談!日本のITを斬りまくる 第3回

10年後を見据えた日本のあるべきクラウドの姿を占う

グローバル化とビッグデータの時代、日本のITはどうなる?

2014年01月27日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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「クラウドで人とモノの壁を越えることができる」(青野)

大谷:昨年、青野さんにインタビューして驚いたのは、ビッグデータをある意味“脅威”として捉えていたこと。センサーのデータをkintoneに上げ続けているユーザーを紹介して、「グループウェアはビッグデータに飲み込まれる」と表現したんです。

青野:kintoneでAPIを出したときは、SAPみたいな基幹システムとの連携で使われるのを前提としていたんです。でも、始めてみたら1分おきにAPI叩くお客様がいた。これはなんだと思ってお客様に聞いてみたら、センサーだったんです。情報共有っててっきり人間がやるものだと思っていたのですけど、モノからやる時代なんだと本当に驚きました。まさにクラウドの衝撃という話なんですけど、データの量が今までと全然違うんだと。

田中:それはすご-く興味のある分野ですね。最近は「IoT(Internet of Things)」なんて流行っていますが、今年はまさにIoT元年になると思っています。こうなると特に広告で食べている会社は大変。「IoTの時代になると、人ではなく、機械がWebにアクセスすることになる。でも、機械は広告を見ない。われわれはどうすればいいんだ」という大手ポータルの人のコメントがとても印象に残っています。IoTを前提に考えると、今後は今のネットのビジネスモデルが成り立たなくなるからです。

大谷:確かに広告モデルはつらくなってきますね。

田中:創業以来、私たちは使った分のお金をお客様からもらうという利用料モデルで収入を上げるというのを旨としてきました。今後、業界全体が、広告モデルから利用料モデルになっていくと、私たちの業績もより上向くと考えています。

業界が広告モデルから利用料モデルになっていくと、私たちの業績もより上向くはず(田中)

大谷:そうなると、ビッグデータに耐えうるインフラやアプリケーションを設計しないとですね。

田中:たとえば、日本の600万世帯ごとに100個のセンサーが据えられたら、全部で60億個のセンサーになります。これら60億個センサーが1分に1回データをアップロードしたら、大変なデータ量です。

青野:まあ、今のクラウドじゃあ、無理ですねえ。

田中:MySQLなんて、1億レコードもあったら、確実に固まります(笑)。でも、IPv4ではもう難しいですが、IPv6になったら無限大になるので、非現実的な話でもないんです。こうなると、コンピューティングリソースはまだまだ必要になるし、解析する人も、蓄積する人もビジネスになります。ですから、API経由でデータをどんどん上げてくるという先ほどの青野さんの話はものすごく新鮮でした。

大谷:昨年のcybozu.com Conferenceでは、見事にユーザー事例になっていましたね。

青野:太陽光発電システムの監視で、kintone使っているんですよ。本当、びっくりですよね。で、私も目覚めて、万歩計のデータを日々kintoneに上げています(笑)。

「私たちもメニーデータのビジネスをやろうとしていて……」(田中)

田中:ビッグデータって容量(ラージデータ)に焦点が行きがちですが、実際のセンサーデータはサイズ的にはたいしたことない。問題はやはり件数(メニーデータ)が膨大なことなので、ラージデータだけではなく、メニーデータという点にも注目すべきだと思います。先日お邪魔したMongoDBのカンファレンスでも、単純なインターフェイスとAPIでいいけど、とにかく数億のデータをAPI経由でどんどんつっこめる非構造化DBサービスみたいなものが今後流行ると話しました。既存のDBに比べ、機能的には劣化しているんだけど、新しい価値を創出して、破壊的なイノベーションを起こす可能性があります。

青野:まさに破壊的です! たとえば、kintoneは人を前提とした情報共有のプラットフォームなので、バックエンドのデータベースがIoTを想定していない。ですから、今後はパートナーシップを組んで、ビジネスを進めていきたい。僕がユーザーだったら、何億個も入るDBのうち、サマリだけkintoneに持ってきて、使えると理想的です。

田中:私たちもメニーデータのビジネスをやろうとしていて……。

青野:いやあ、ぜひぜひ!kintoneのサマリから必要なときだけ見に行けるようにしてもらいたいです。

田中:センサーのデータは1年経ったら使わないので、サマリからアーカイブを呼び出せるという形が確かに理想ですね。

青野:先ほど、クラウドで組織の壁が越えられつつあると言いましたが、ビッグデータという意味では人間とモノの壁も越えようとしているんです。私、出身が愛媛県なのですが、懇意にしていただいている知事の中村さんからは「農業クラウドやってくれ」と言われています。

大谷:未来っぽい!

青野:たとえば、ミカンにセンサー付ければ、「そろそろ水をくれ」なのか、「肥料が足りないぞ」なのかわからないけど、ミカンと対話ができます。ミカンの木がチームに入ってくるような不思議な感覚です。クラウドとビッグデータで、人間とモノの壁まで越えちゃうんだと思いました。

田中:確かに農業は革新著しい分野ですが、チームの中に人間じゃなくて、木が入ってくるって、すごい話ですよねえ。

大谷:それって、ミカンを擬人化して、ソーシャルゲームでリアルに育てましょうとかやったら、面白い!

田中:今後、ビッグデータはクラウドを変えていきますよね。

「クラウドの時代は日本人が有利と思っています」(青野)

大谷:では、最後にこれから5年先のクラウド時代ってどうなるか、それぞれお考えを聞かせてください。

青野:私はこれからのクラウドの時代は、日本人が有利だと思っています。今は水平分業がメインで、CPUやOS、データベースなどがそれぞれインターフェイスを介して話していますよね。つまり、「規格型、シェア重視」みたいな業界なので、日本人の「すりあわせ重視」みたいな文化や価値観はお呼びでないんです。でも、クラウドになった瞬間に、どのCPUも、どのOSも、どのデータベースも自分たちで選べます。最適なものを垂直統合で使って、日本人が一番得意な運用を活かせる。新幹線を10分おきに走らせることができる、あのエクセレントなオペレーションがクラウドの差別化要因になるんです。

クラウド時代は日本人が有利だと思っています(青野)

田中:青野さんの意見に、もう1000%くらい同意で、もはや付け加えることないです。日本人は車体にあわせてエンジンを作り、エンジンに合わせて車体を作る「すりあわせ型」が得意なんですが、現状はモジュール型の米国企業に市場が席巻されている。米国はやはりモジュールを積み上げていくのですが、やはりオーバーヘッドが大きすぎるんです。このオーバーヘッドを削って、自社に全体最適化するのが日本の強みなので、これを活かしていくべきだと思います。

オーバーヘッドを削って、全体最適化するのが日本の強み(田中)

大谷:クラウド時代は、米国的なモジュール構造からの脱却が重要ということですね。

田中:米国のホスティング会社って、実はけっこう高いんです。なぜかというと、やはりソリューションを組み合わせるから。確かにすぐに開発できるんですけど、ライセンスや性能のオーバーヘッドが現われる。彼らは、コストを削減するため、数多くのサーバーを導入して、規模で解決しようとします。

青野:なるほど。

田中:でも、規模とすりあわせを組み合わせると、本当はもっとコストカットできる。実際、トヨタは両方でやっていますよね。ですから、私たちは石狩データセンターを保有しなければならなかった。なぜならすりあわせだけで、規模がないと、米国に負けてしまうから。

大谷:確かに石狩データセンターって、すりあわせのタマモノですよね。

田中:あそこも、いろいろ工夫して、今まで100ラックしか入らなかったスペースと同じスペースに、今では124ラック詰めることができます。ラックに入るサーバーも60台から、72台にしました。両方あわせて収納率は50%アップです。1サーバーで一番性能が出て、たくさん詰められるというアルゴリズムを持っているので、普通よりも多くのお客様をホストできます。規模では負けるけど、すりあわせと合わせれば、米国のクラウドにも確実に勝てると思います。

大谷:ありがとうございます。これからも日本のクラウドを盛り上げる、お二方の活躍に期待しています!

田中:私も本当に楽しかったです。

青野:こちらこそ、ありがとうございました!

楽しい対談、ありがとうございました!

edge

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