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サイボウズ、さくらのトップが熱血対談!日本のITを斬りまくる 第1回

ブロードバンド前夜に立ち上げた両社の軌跡を振り返る

ネットバブル、受託体質、クラウド……戦い続けた2人の15年

2014年01月14日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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「受託体質の国ってこうなんだと思い、とてもくやしかった」(青野)

青野:そういう意味では僕たちにとっての3つ目の危機は、グループウェアを捨てようとしたことかもしれません。2005年に社長になって、この先グループウェアには先がないと思って、実は1年半で9社もM&Aしました。でも、成長どころか赤字会社が出てきて、結局手放してしまったんです。

大谷:一時期、子会社がいっぱいでしたよね。

青野:ただ、手放すときによくよく考えたら、グループウェアも成長の余地あるよなと。今までのソフトウェアの改善しか考えないから、伸びないと思っていたけど、モバイルとか、クラウドとか、無料サービスとか、いくらでもやりようはあったんですよね。

大谷:先日の発表会でも、青野さんは「僕たちにはグループウェアしかない」と言ってました。

田中:最近はグループウェアの淘汰がますます激しくなっていますよね。

青野:そうなんです。最近では中小はもとより、大手のグループウェアも、クラウドやモバイル対応できず、淘汰が始まっています。本当に残存者利益ですよ。僕たちは自分たちのグループウェアを信じて、いろんなところに売ってきたんですけど、サイボウズOfficeを見た大手企業がなにやったかと言うと、子飼いのSIerを呼んで「サイボウズみたいなものを作れ」と言うんです。だからどの会社にもサイボウズみたいなグループウェアがある。受託体質の国って、こうなんだと思って、衝撃を受けたし、とてもくやしかった。しかもSIerへの発注は、工数ビジネス。

受託体質の国って、こうなんだと思って、衝撃を受けたし、とてもくやしかった(青野)

田中:要は受託の方が儲かるわけですよね。

青野:はい。でも、これを変えるのが、クラウドです。確かにユーザーインターフェイスは真似すれば作れるかもしれない。でも、99.99%の稼働率を実現するようなcybozu.comのようなインフラで提供されるグループウェアは真似できない。「くやしかったら、運用まで真似しろ」、「バージョンアップのペースまで真似しろ」と言いたいです。

大谷:以前、青野さんが「パッケージより、クラウドの方がいい」と言い切ったのは、そういった運用管理のノウハウも含めて、クラウドのほうが価値があるからですね。

青野:そのとおりです。あと、パッケージって、いろんな環境で使うのを想定して作るので、開発も難しいし、お金がかかるんです。フル試験を何度もやり直して、ダメだったらリリース再調整しないといけない。でも、クラウドだったら一定の時期β版を走らせて、走りながら、手直しすることができます。データもこちらでバックアップしているので、障害があっても、お客様に迷惑をかけずにバージョンアップできます。

「クラウドの決断はかなり引きつけてからバット振っている」(青野)

大谷:お二方ともクラウドビジネスへの舵切りには、どうやって対応したんでしょう? 直感派とデータ派がありますが。

青野:私はデータは見ないですねえ。で、これが過去、サイボウズに数々のダメージを与えました(笑)。ただ、クラウドへの決断に関しては、実はかなり引きつけてからバットを振ってます。

田中:そうなんですか。

青野:実は、社長になったときにすでにクラウドは考えていて、たくさんサーバーを買って、無駄にしたんです。将来的にクラウド行くのは正しいんだけど、サーバーの値段やオープンソースの質を当時、冷静に考えると、そのときはまだバット振ってはいけなかったんですよね。ですから、データが揃うのを待って、周りの人が動き出したら、振ろうと思いました。

クラウドへの決断はかなり引きつけてからバット振っています(青野)

田中:それすごい重要です。準備しておいて、誰かが動いたときに一気呵成に行くという。

青野:もし正しいタイミングで決断しても、共感を得られないと、メンバーが動いてくれない。メンバーが動かないと、失敗の確率が上がります。周りの人たちが「青野さん、そろそろ意思決定してくださいよ」というくらいまで待って、「そうか、怖いけどそろそろクラウドやるか~」といった具合に決断したんです。

大谷:引きつけてバット振ったって、そういうことですか。いやあ、社長は役者じゃないとできないですねえ。

田中:たぶん青野さんも社長じゃない時期があったので、社長と社員、両方の立場がわかるんですよ。私もそうなので、共感できますねえ。

青野:「トップになる準備はしようがない」と言ったドラッガーじゃないですけど、社長はやってみないとわからないことが多いなあと思います。

田中:うちは基本的にデータですね。さくらってよく「挑戦的」と言われますが、実はけっこうデータを持って、検証しています。直感で行くと失敗するので、最後のピースまで埋めて、両者のギャップを解消する努力はしているんです。

データと直感のギャップを解消する努力はしているんです(田中)

大谷:でも、業界的にはすでに田中さんが直感的に決めていると見られていますよね。ライトノベル大好きな社長が社員に「超伝導試せ!」といって、社員が泣いているみたいな(笑)。

田中:いや、あれは演出なんです! なによりITの世界は電力とか、コストとか、測れるものが多い。石狩データセンターでは、電力も、経済合理性も、かなりのピースを埋めたんです。ピースが埋まらないのは、誰もやったことないということだけ。だから、挑戦的な部分もあるという感じです。

第2回に続く。

edge

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