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「青い布」で放射能を除染

2013年12月27日 07時00分更新

文● 伊藤達哉(Tatsuya Ito)/アスキークラウド編集部

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東京大学生産技術研究所の石井和之教授は、分子科学を医療や健康の分野で生かす研究をしている。研究室で独自に開発した分子を使ってがん細胞中のビタミンCを赤く光らせることにも成功。2011年3月の東日本大震災後には、放射能除染に役立つ「除染布」を東大生産研の迫田章義教授、工藤一秋教授、立間徹教授などと共同開発している。

石井教授をはじめとする東京大学の教授が共同開発したセシウム除染布

──放射性セシウム除染布の開発に至った経緯を教えてください。

 福島第一原子力発電所の事故があったのはご存じの通りだと思います。私は茨城北部の出身で、東北大学に通っていたこともあり、福島県の力になりたいと思って東大生産研の先生方に声をかけました。最初はヨウ素の研究を考えましたが、すぐに結果が出せないので断念。セシウムは何十年も続く課題なので、われわれにもできる研究があるだろうと考えました。

──いつ頃、完成したのでしょうか。

 実は、2011年5月の時点ですでにできていましたが、当時は情報が入り乱れていたので公表しませんでした。技術をきちんと使える段階まで向上させて、2012年5月にプレスリリースしたというわけです。

──除染方法はどのように見つけたのでしょうか?

 顔料にも使われる「プルシアンブルー」は、もともとセシウムを吸収することで知られていました。粉状のプルシアンブルーを除染したい場所にまけば、セシウムを吸ってくれますが、その粉を回収する方法がありませんでした。われわれはタオルを2種類のプルシアンブルー原料溶液に浸してみたところ、うまくタオルの繊維にプルシアンブルーを固定することに成功しました。

──その後の検証はどのように進めましたか。

 研究室では方法論を確立できましたが、実際に沼地とか海とか塩分濃度が高いところでもセシウムを吸収できるのかを実験しました。事故後、福島県内でちょろちょろ流れていた水にタオルを浸けました。電気も使用しづらい環境だったので、風で自然乾燥させた後に、測定してみたら「ビビビ」と反応を示したんです。手応えを得たわれわれは、電気が使用しやすい場所で本格的に除染の実験を開始しました。それと平行して除染布がたくさん供給できる体制を作りました。

東京大学生産技術研究所教授。医療や健康、エネルギー、環境問題と分子科学を結びつける研究を手がける

──除染布を発表後の反応はどうでしたか。

 企業から作りたいという問い合わせや、自治体から実際に使いたいという要望などいろいろな反応をいただいています。社会に役立つ研究をしたいという思いが年々強まっています。今後さらなる改良を施して除染作業に貢献したいと思っています。

──ところで、そもそも研究者を志したきっかけは何だったのでしょう。

 高校生の頃に文系か理系を選択する際、「末は博士か大臣か」という言葉を考えました。博士か大臣かというのは一番頂点という意味ですが、自分の熱中した仕事を社会に還元できるので、研究者は魅力的な職業だと思います。


 アスキークラウド2月号(12月24日発売)では「研究者18人に聞いた 日本の先端技術」と題し、2014年以降に注目する研究を取材した。特集内では家庭で手軽に使える簡易血液検査キットの実用化を目指す石井教授が開発した血中のビタミンCを光らせる研究について紹介している。

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