デジタルで日本のコンテンツの山を作る
−− お話をうかがってきて、ここでいう“日本”という言葉の意味はなんだろうみたいなことを少し感じました。これは、日本人が持っている感受性とかを維持していこう、ちょうど国土の自然や環境を守っていこうというのと同じように、国のやることですよという合意というのですかね。
中村 そうですかね。根本的に国としてコンテンツについてやることは何かといったら教育。なんでクールジャパンなんですかっていうとき、結局みんなが絵を書ける国だからです。道を聞かれて地図を描ける、さっさと図形で何かを示せるって外国だとそんなにいないんですよ。そういう力をデジタルに変えて、ビジネスに変える。そういう山を作っていくんです。ビジネスの最前線にいる人たちがこういう議論の場でデジタル教科書をやるべきだというのはそういうことだと思うんですよ。そういう議論がここへきてだいぶ広がってきているなと思います。
−− いまデジタルをやることは生活力とも同じだし、クリエイティブ力とも同じってことですね。
中村 たとえば、いまクールジャパンって何がくるんですかね? って聞いたら、お母さんたちが作るキャラ弁とか。みんなが自分でいろんなものを作れる力とかねありますからね。
−− あとフクロウカフェとかありますからね。フクロウカフェ全国検索ガイドみたいなサイトまであるんですよ。ああいうのは、日本は広告代理店が仕込んだのでもなく本当にイケてる。
中村 え、フクロウ見に集まるの? 面白いじゃないですか。
−− 自分たちが日本人だから特別だと思いたいという意識も持ちがちだけど、1980年くらいから、カラオケだとかウォークマンだとか、マリオやキティみたいなキャラクターも含めて新しいものを生み出したし売ってきた。こういうことをいまの時代に合致したやり方で意識的にやるのは結構ハードルが高いですけど、テーブルにあげて議論することが大切ですね。どっかでこそこそクールジャパンで税金を使っているというのが一番いやじゃないですか。
中村 コンテンツ政策に関しては、そんなことをするなという批判もあるけれど、議論が分かれるところだと思います。僕はどっちかだと思っています。やんないならまったくやらないけど、やるんだったら本気で100年やれと。だから本気で100年やるために書いたのがこの本です。
中途半端にやっても意味がないと思っています。日本は自分たちが持っているものの程度には世界に出ていけていないので、もっと積極的に出て行きましょうというのがクールジャパン。ところが、行き過ぎて早すぎれば文化侵略になってしまうし、気をつけないといけないところ。コンテンツはそういう意味で難しい。
この間もフランスでイベントを開催することになり、現地のメディアに「文化進出か文化侵略か? ハリウッドのようなことをやりたいのか」と盛んに聞かれました。やっぱりそういった感度の高いフランスのような国はそう思うんですね。そのとき僕は、「日本はハリウッドのようになりたいわけではない。世界から尊敬されているフランスのようにはなりたい」と言ったら、むこうはニコニコしていたんですけど。世界から評価は受けているので、ずっとそれが続けられればと考えています。
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コンテンツと国家戦略 ソフトパワーと日本再興 (角川EPUB選書) |
『コンテンツと国家戦略 〜ソフトパワーと日本再興〜』
(中村伊知哉著、角川EPUB選書)
著者は、ポップカルチャー政策の第一人者として、生でコンテンツに触れながら新しいテクノロジーやサービスにも目をむけながらやってきた。巻頭「資源も安価な労働力もない日本が、グローバルに連結した世界で自ら望む位置を占めるには、知財の生産と活用以外に道はない」と書かれている。知財計画をまとめるたびに総理大臣はじめ官僚たちに「議論は尽きました。あとは実行です。実行を、お願いします」と申してきた。それが、3年連続。総理が代わるので繰り返しになるというはがゆさ。政府の知的財産戦略本部の「コンテンツ強化専門調査会」での激論を共有しようというのが本書である。