大谷イビサのIT業界物見遊山 第8回
The Microsoft Conference 2013の裏ナンバーワンはこれ!
Excelからビッグデータ!来年のヒット商品はPower BIに決定?
2013年12月17日 06時00分更新
先月、2日間に渡って大々的に行なわれた「The Microsoft Conference 2013」。表面的には、最新のWindows Server 2012 R2のラウンチやWindows Azureの国内データセンターへのコミットが大きかったが、個人的には「Power BI for Office 365」が注目商品の裏ナンバーワンだと思っている。
Excel帝国の日本に落とされる強力なアプリ
「Power BI、本当すごいわ~」という感嘆のコメントを聞いたのは、マイクロソフト関係者や報道陣が集まるイベントではなく、AWS上でビジネスを展開しているベンチャーとの飲み会でのこと。The Microsoft Conferenceの取材を終えた後だったオオタニも、Webで公開されている国内のダムの放水データをPower BIで取り込んで、地図に落とし込んでグラフ化した西脇氏のデモの話をした。また、AWSに唯一対抗できるクラウドとして、Windows Azureはもっと評価すべきという話に。結果、AWSのヘビーユーザーである彼らと記者としてクラウド界隈を歩くオオタニで、「MSはじまたな!」と盛り上がったのは言うまでもない。
Power BIこと「Power BI for Office 365」が披露されたのは、2013年7月の「Microsoft Partner Conference」の会場でのこと。ASCII.jpでは、イベントに参加した大河原克之氏によって、「現場社員をデータサイエンティストに!Office 365にBI機能」いち早く記事にしてもらい、その先進性をお伝えした。そして、先日はThe Microsoft Conference 2013の基調講演やセッションでもデモが行なわれ、SQL Serverとの連携やWebクローリングにおける実力をまざまざと見せつけたのだった。
データ解析に取り組むベンチャー曰く、現状ビッグデータのインターフェイス部分にあたるBIは、まだまだ高額なツールが多いという。また、いくら簡単とはいえ、ユーザーに新たなBIツールを覚えてもらうのは骨が折れる。その点、Office 365から簡単にデータモデリングと可視化を実現できるPower BIはビッグデータにおいて強力なツールになる可能性がある。
Excel支持者を支える「成功体験」
ご存じの通り、業務におけるExcelの利用率は高い。PowerPointとともに、マイクロソフトのキラーアプリケーションであり、おそらくその座はこの四半世紀明け渡していない。そして、いまだにExcelをリプレースするアプリケーションは登場していない。
クライアントDBであるAccessより、Excelの方がはるかに知名度が高いため、データベースとして使われていることも多い。しかし、Excelは表計算ソフトであり、データベースではない。また、コミュニケーション機能も欠けている。過去のOfficeでは、イントラネットとの連携を想定した「Office Server Extention」や、P2P機能を取り込んだ「Office Groove」のような取り組みもしてきたが、基本的にはいまだに表計算ソフトとして使われている。しかし、さまざまな課題がありながらも、今もExcelが絶大な支持を得ているのは事実だ。
Excelが大きく支持される理由は数多くあるが、個人的にはユーザーの「成功体験」があるのではないかと思っている。かくいう私も、その1人。アルバイトで入ったアスキーで最初にやった仕事は、PCのベンチマークだったので、とにかくExcelにはお世話になった。なにしろ、プログラムの結果をExcelに書き込んで行くと、マクロで美しいグラフが現れるのだ。単なる数字の羅列から、比較に最適なグラフとして可視化される様は、やはりPCに慣れていない学生上がりの私には衝撃的だった。
その後も、体験版ソフトのCD収録の許諾を得るためのリストを作ったり、雑誌の台割りや担当表を作ったり、編集長になってからはマクロだらけのExcelシートで予算を作成したり。PC/IT雑誌の担当者として、Microsoft Office自体の特集や連載も担当した。このように、いろいろな自分の過去の仕事がExcelとリンクしている。表計算ソフトとしてはほとんど使っていないくせに、Excelとはずっと縁が切れなかった気がするのだ。こういう経験を持った日本のビジネスマンは意外と多いのではないだろうか?
冒頭、Power BIのインパクトについて考えてみたが、やはり絶対的なExcel支持者にとってみれば、長らくの“戦友”であるExcelで、“ビッグデータという新しい敵”に立ち向かえるのは、なんともたくましいと感じるだろう。クラウドサービスとセットで業界ごとの解析ソリューションが提供されるとか、ビッグデータ解析と連携した可視化・ビジュアル化がPowerPointと連携できるとか、強力な商材提案はいくつも考えられる。オオタニが「来年のヒット商品」といち早くアピールする理由はこれだ。
一方、Excelからの乗り換えというと、表形式でありながら、データベース、コミュニケーションまで盛り込んだサイボウズのkintoneが挙げられる。また、ビッグデータのUI部分としても利用できるBIも、「Yellowfin」や「Tableau」など低価格で使いやすい新世代型のツールが増えてきた。どれも優れたソフトだと思うが、Excelのリプレース需要を短期間で吸収できるとは思えない。使い勝手や価格、機能の勝負ではなく、Excelが四半世紀培ってきた成功体験が個人のイメージとして強烈に残っているからだ。今後の導入の鍵は、Excelを上回る成功体験をどれだけ作れるか、どれだけアピールできるかにかかっているだろう。
PS:こんな記事を先週からつらつらと書いていたら、日経コンピュータの今月の特集1がなんと「超「Excel」--ビッグデータ活用を加速する新世代帳票」とのこと。褒め殺しでもなんでもなく、さすがですね。
筆者紹介:大谷イビサ
ASCII.jpのTECH・ビジネス担当。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンタテインメント」をキーワードに、日々新しい技術や製品の情報を追う。読んで楽しい記事、それなりの広告収入、クライアント満足度の3つを満たすIT媒体の在り方について、頭を悩ませている。
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