必要なソフトを全てそろえたパッケージ
「BSP」
次がBSPである。BSPとはBoard Support Packageの略で、そのSoCの上で動作するOSやソフトウェア環境一式を指す。Alpha Customerは基本的に自社でOSの移植や基本的なアプリケーションの実装などができるが、すべての顧客がそうした作業をできるわけではない。
また、プロトタイプ用ハードウェアを渡されても困るとか、シミュレーションの環境がないというケースもある。こうした顧客向けには、サンプル出荷開始前後のタイミングで、リファレンスボードと呼ばれるものを用意する。
例えばSamsungのCortex-A15ベースの「Exynos 5」シリーズ向けには、SMDK(Samsung Mobile Devepment Kit)として「SMDKC520」がYIC Systemという会社経由で提供される。
このSMDK、一番上は写真のように10.1インチの液晶がついており、その下に基板が実装されている。このリファレンスボードは単にソフトウェアの実装だけでなく、最終製品を作るための参考にもなるもので、通常はリファレンスボードの回路図や基板の設計図なども一緒に提供される。
さて話をBSPに戻す。BSPとは、リファレンスボードの上でOSが動作するために必要なものを全部そろえたパッケージである。
例えばAndroid BSPであれば、Android OSそのものに加えて、リファレンスボード上に実装された周辺回路全部のデバイスドライバー、これらの周辺機器にアクセスするためのサンプルアプリケーション、場合によっては正常に動作させるためのカーネルパッチまで含んだソフトウェアの塊である。
このBSPは、OS毎に異なるものが用意される。「SMDKC520」であれば、Android ICS 4.04と、Android JellyBean 4.2の2種類のBSPが提供されるとパンフレットには示されているが、今ではKitKat対応のBSPもあるかもしれない。他にもWindows用BSPや、WindRiver向けBSPなど、要するに対応するOSの種類/バージョン毎にBSPは用意されることになる。
顧客はこのリファレンスボードとBSPを元に、自社の製品を作りこんでいくわけで、BSPの品質次第で最終製品の出来栄えが変わるという結構重要なものである。
最初にできあがった製造ロット
「Alpha silicon」
最後がAlpha siliconだが、これは会社によって呼び方が違い、1st siliconと呼ぶ会社もある。要するにα、β、...という順番を示しているだけである。Alpha siliconは本当に最初の製造ロットを意味しており、非常に少量が生産される。
このAlpha silicon、なにしろ最初のモノだけに動かないことも珍しくはない。そこで、主要なファウンダリーは必ず「半導体修正」というサービスを提供するか、そうしたサービスを提供している会社と提携している。
これは集束イオンビームという技法を使い、一番微細だと数nm単位での加工あるいは観測を行なうものだ。これで、動かないAlpha siliconの問題点を特定するとともに、とりあえず加工して動くようにする。なお、この情報はそのままフィードバックされてβ版で修正される。
その上で、そもそも目標とする動作速度が出るか、消費電力が想定範囲かなどを確認をするとともに、場合によってはAlpha Customerにも修正済みAlpha siliconが提供され、最終製品に近いレベルでの動作確認が行なわれる。
ちなみにAlpha一発で修正が終わるかどうかは、ケースバイケースで次のBetaでもまだ修正が必要という場合もある。ただ1回試作するのに数ヵ月を要するのは変わらないため、なるべく試作の回数を減らさないと、製品発表時期がどんどん遅れることになる。
遅れはともかく、試作で出た問題点を反映させて作り直したものがサンプル品となる。PC向けに時々出てくるES(Engineering Sample)というのはこのサンプル品で、内部の構成そのものは基本的に量産品と変わらないが、生産する数量がかなり少ないのが量産品との違いである。
これはAlpha Customer以外の顧客にも広く使ってもらい、フィードバックを集めるのが主要な目的であるが、このサンプル品を使ってそのまま最終製品を製造・出荷してしまうベンダーもあったりする。
よくメディア向けなどに、ベンダーがスマートフォンの試作機を評価用に貸し出したりすることがあるが、そうしたケースでは大体がサンプル品を使っていると考えればいい。
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