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World of Tanksの世界へパンツァー・フォー 第5回

私と戦車とWoT――ウォーゲーミングジャパン 宮永忠将氏

WoTを支える謎の役職、ミリタリーアドバイザーとは?

2013年12月13日 18時00分更新

文● 有馬桓次郎

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考証役を専従で雇うゲーム会社は珍しい
すべては“兵器とその背景をできる限り正確に把握・再現”するため

―― 作業内容を察するに、本社と密に連絡を取り合っているのですね。

宮永 「ちょうど明日からサンクトペテルブルクにあるWorld of Warshipsの開発スタジオに出向いて、アートディレクションをすべてチェックさせてもらうことになっています。

 欧米の艦船はスタイルが素直なんですけど、日本海軍の艦船は開発経緯が非常に複雑で、スタイルも年度ごとにコロコロと変化しますし、果てはカテゴリー(艦種)すら変わりますからね。金剛型戦艦でいうなら、途中で練習戦艦になっていたりとか」

―― 比叡(※3)ですね(笑)。

※3:日本海軍の金剛型戦艦の2番艦。戦前にワシントン海軍軍縮条約の影響を受け、一時的に装甲や兵装の一部を撤去して練習戦艦となっていた時期があった。

宮永 「そうです。他にも空母に関して『あきつ丸(※4)は正規空母として使えるのか?』とか真顔で聞かれたりするんですよ。

 ウォーゲーミング社のスタンスとして、できるかぎり正確に当時の兵器を表現したいと考えています。ですから技術ツリーに関してもバラエティーに富んだものにして、日本の魅力を出していきたい。そこで明日からの出張では、複雑な日本艦船の系統樹をどう表現するかについて本社スタッフと打ち合わせしてこようと思っています。大きな期待を感じているので、資料はどっさり持って行きますよ!」

※4:日本陸軍が建造した揚陸艦。上部に飛行甲板を設けた空母型の艦形をしており、軽飛行機やオートジャイロなどを運用できた。当然ながら正規空母として運用することはできない。

―― そのあたりは『World of ~』シリーズを支える重要な要素ですから、まさになくてはならない仕事ですね。

宮永 「ここがウォーゲーミング社の面白いところでして、こういった役職を専従で置いているゲーム会社ってほとんどないと思うんですよ。品質を向上させるために考証役の人間が専従で働くスタイルというのは、ゲーム会社として前向きで誠実だと思います」

お邪魔した大会議室は、落とし気味の照明と、ラフに塗られた壁材が相まって、まるで戦車の格納庫のような雰囲気。壁には大きく「WARGAMING.NET」の刻印も

―― ミリタリーアドバイザーは各支社に1人ずついらっしゃるのですか?

宮永 「ウォーゲーミング社はブランチ(支社)が16ありまして、それらはロシア、EU、アメリカ、そしてアジアの4つのエリアに所属しているのですが、アジアエリアでは私1人ですね。

 アメリカには『チーフテン』、EUには『チャレンジャー』というコードネームのミリタリースペシャリストがそれぞれ活動しています。ロシアはちょっと変わっていて、ミリタリー周りのコンサルタント以外に、相当数のヒストリカル(歴史)コンサルタントが活動しており、ゲームの背景となる歴史をしっかりと調べています。

 ウォーゲーミング社はWorld of Tanks以前からウォーシミュレーションゲームを多く出している会社なので、本社には歴史を専門に扱うコンサルタントが多数在籍しているのです」

―― 今回、日本支社を新たに設立したうえ、数少ないミリタリーアドバイザーを置いたということは、ウォーゲーミング社はそれだけ日本という国を重視していると考えてよいのでしょうか。

宮永 「日本はゲーム事情の特殊性があるとはいえ、市場としてかなり大きいですし、それにゲーマーの魅力となるポイントを増やしていくうえにおいては、日本の兵器群を落とすわけにはいきません。World of Tanks、World of Warplanes、World of Warshipsと進むに従って日本兵器の比重が大きくなるわけで、その調査のためだけでも日本に専従のミリタリーアドバイザーを置くメリットがあるわけです」

―― 東京ゲームショウ2013で初公開された日本技術ツリーに登場する戦車も宮永さんが選定されたのですか?

宮永 「いえ、私が就任したときにはすでに選定は終わっていました。ただ、その後細かい仕様などの情報を求められましたよ。たとえば、軽戦車のツリー上に配置されている五式軽戦車『ケホ』は計画しか存在せず、誰も実物を見たことがないのですが、それでも『資料は無いのか?』と散々聞かれて大変でした(笑)」

日本戦車は資料が少なく、ミリタリーアドバイザー泣かせだとか

―― World of Tanksの場合、『実車はこの部分にトランスミッションが配置されているから、ここに命中させれば機動性が落ちるはずだ』という攻略法が成り立つレベルで作り込まれていますから、ケホのような資料が残っていない車両の実装は大変ですね……!

宮永 「私もまだ見たことがないのですが、ゲームに登場する兵器はゲーム用に3Dモデリングする前に、“ペーパークラフト”と呼ばれる、ゲームとは無関係の3Dデータを制作しているそうです。

 実物の存在しない計画車両でも、最初に3Dデータを作成することで可能なかぎり性能を再現できるようにしているわけですね。

―― 恐ろしく手間がかかっているのですね……ディテールの細かさもうなづけます。

宮永 「さらに驚くのは、ウォーゲーミング社はそれら1つ1つに関する膨大な資料を持っていることです。ある戦車のことでアメリカのスペシャリストに尋ねたところ、その戦車に関する2GBもの資料が送られてきたのには驚きました。これから日本兵器の展開が大きくなっていくわけですから、こちらも尋ねられたときに2GB以上の資料を提供できるようにならなければと」

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