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ユーザー体験を重視、HTML5アプリ「Fiori」などで改善に注力する理由

ERPもインターフェイス刷新の波!SAPのデザイン責任者が語る

2013年11月29日 06時00分更新

文● 末岡洋子

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コンシューマライゼーションの潮流を受け、デザインチームを強化

 Fioriは、SAPが進めているUI刷新計画の一部にすぎない。SAPはUIへのフォーカスを戦略的に進めており、ハウザー氏は今年初頭に新設のデザイン&共同イノベーションチームのトップとなった。今年に入りすでに50人ものデザイナーを採用し、デザイン分野を強化している。

 SAPのUI戦略をロングテールモデルに当てはめると、既存アプリケーションで利用率/導入率の高い“ヘッド”部分(および新規アプリケーション)はFioriでカバーする。一方、“テール”部分やヘッドとテールの中間部分については、2012年に発表済みの「Screen Personas」がインタフェースの改善を担う。PersonasはSAPのGUIをカスタマイズできる技術だ。Microsoftの「Silverlight」がベースとなっているが、HTML5版の開発も進められており、2014年にはSilverlight版と遜色ないレベルになるはずだという。なお、Microsoftは現行のSilverlight 5を2021年までサポートするとしており、ハウザー氏は「ほとんどの顧客には問題ではないだろう」と語る。

SAPのUI戦略。新規アプリケーションや利用率/導入率の高いアプリケーションはFioriで、それ以外はScreen Personasでインタフェースの改善を図る

 SAPがUIやユーザー体験へのフォーカスを強めている背景について、ハウザー氏は「コンシューマライゼーションによってユーザー体験への期待値が高くなっているからだ」と説明する。現在のユーザーは、グーグル、フェイスブックなどがデスクトップ、モバイルのコンシューマーアプリで提供している操作性や使いやすさに慣れ親しんでおり、ビジネスのうえでも同等の操作性が欲しいというニーズがあるのだ。

 だが、コンシューマーアプリとは異なり、業務アプリケーションは一度導入されると長期にわたって使い続けられる。SAPユーザーの場合も、約20年前の技術であるSAP GUIを使っているユーザーが8割を占めるという。「われわれが新しいものを開発しても、顧客が実装するまでに時間がかかる。古い技術が“SAPの提供するユーザー体験”と認識されている。この認識を変えたい」(ハウザー氏)。

 その一環として、技術提供のほかにSAPは多数の顧客と概念実証などのプロジェクトを展開している。たとえばある顧客のケースでは、エンドユーザーへの調査とテストを行いながらUIを作成した。その結果、画面数は7画面から3画面に、また操作に要するクリック数も45クリックから26クリックまで簡素化できた。これを22日間で実現できたという。

インタフェース刷新の例(Screen Personas)。エンドユーザーへの調査とテストを通じて、7画面/45クリックが必要だったアプリケーションを3画面/26クリックに簡素化した

 また、別の顧客のケースでは、Web発注管理システムを導入したものの社内利用が進まないという課題があった。潜在ユーザーの0.1%程度しか利用がなかったのだ。SAPがエンドユーザーを調べたところ、多くのユーザーがMacクライアントを利用しており使いにくい、確認メールが届くまでに時間がかかるなどの不満があることが分かった。これらは操作性とは直接関係のない原因だ。

 ハウザー氏はこれらの話を紹介し、「多くの顧客がSAPのUIに不満というが……」とSAPのUIに対するユーザーの不満を認めながらも、「既存ツールの機能を知らないし、エンドユーザーのニーズを知らないことが多い」と続ける。

 ハウザー氏は、アプリケーションの設計トレンドはこれまで、「データ中心」から「プロセス中心」へと変化し、今後は「ユーザー中心」へと移動していくだろうと解説する。すぐれたユーザー体験は効率性の改善、満足度の改善などさまざまなメリットをもたらすが、これはIT部門にとっての新たな課題だ。

 「これまでIT部門は、ビジネス部門の要求を聞いてアプリケーションを開発、実装してきたが、エンドユーザーの声が聞こえていないことが多かった。エンドユーザーの環境、ニーズを知らずに開発しても、利用してもらえないことがある」(ハウザー氏)

 IT部門がユーザー体験の改善に取り組むためには、これまでとは違うスキルが必要となる。場合によってはエンドユーザーへの聞き取り調査や心理学の知識すら求められる。そのため、SAPに支援を求められることも増えているという。

 ハウザー氏は、これはIT部門にとって新たなチャレンジではあるが、「すぐれたユーザー体験を提供することは、ITが価値を示すチャンスだ」と述べた。どうやら、コンシューマライゼーションによって、IT部門もスキルや考え方を積極的に変化させていく必要があると言えそうだ。

ユーザー体験やUIの進化から「ERPは置き去りにされてきた」

 こうしたSAPのUIフォーカスについて、ガートナージャパンでエンタープライズアプリケーション担当リサーチディレクターを務める本好宏次氏は「予想されていた流れ」だとコメントする。

ガートナージャパン エンタープライズアプリケーション担当リサーチディレクターの本好宏次氏

 本好氏によると、ERPに対するユーザーの不満として「ユーザー操作性」は常に上位に挙がっているという。さらにエンドユーザーの裾野も広がっており、「コンシューマライゼーションの波の中で、ERP以外ではユーザー体験やUI技術、考え方が進化している。(ERPは)ある意味で置き去りにされている状況とも言えた」と語る。ERPベンダー各社にとってユーザー操作性は課題の1つとなっており、SAP以外のベンダーもこの分野に取り組み始めているという。

 本好氏は、SAPのUI戦略に一定の評価を示す一方で、「日本のベンダーやユーザー企業がどのくらいFioriを受け入れるのかは未知数」だと指摘した。日本市場では業務アプリケーションのカスタマイズ志向が強いため、FioriよりもPersonasの利用が広まるかもしれないとの見方も示している。

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