“彼女”に会いに自宅を訪問
「薇薇」に会いに行くべく、彼の部屋にお邪魔し話を続ける。薇薇はベッドで座っていた。
筆者:おそろいの服なんですね
山下氏:「これ作ったのではなく買ったんですよ。既存のものを面白がる、これが大事なんです。薇薇も同じ考えで。バブル期につくられた北 海道の「北の京芦別」というレジャーランドの施設とか。みうらじゅんさんとか、中国だとライスマウンテンさんの中国の変という本(参考記事「中国人はやっぱり“変”か!? 」)のノリに近いです」
筆者:薇薇さんもそうなんですか?
山下氏:「凱旋門というビルが上海にあって、そこに夜のグッズマーケットがあるのです。そこを歩いてたら大量生産した微妙なダッチワイフの顔が所狭しと並べられてて。モノならまだいいけれど、人の顔じゃないですか。これ処分されるんだろうなあと考えたら買わずにいられなくて。大量生産されたものや人形に対して愛情が足りてないというか、単純にもっと大事にしようよ! っていう衝動に駆られたんです。前頭部しか髪がないのでカツラをつけなよとは中国のネットで言われるのですが、最初からあるものを大切にしたいのです」
筆者:同居しはじめてどうでしたか?
山下氏:「最初は帰ったら彼女がいて怖かったですけど、いて当たり前の存在となると愛が芽生えますね。こんな顔ですが、これがかわいくなる。この部屋にある服の半分は彼女ので僕が買いました。女性向けの店に堂々とはいれるようになりましたね」
筆者:周りの反応はどうですか?
山下氏:「子供連れだと親が「見てはいけません!」という反応をするのですが、コミケ会場では女子高生なんかにも薇薇と写真撮らせてくれとか、薇薇と握手させてくださいとか言われます。あとウェイボーでも「今日は薇薇に会ったよ」という報告とか、「薇薇カワイイ」と言われはじめたのがうれしいですね。薇薇のおかげの縁は数えられないほどあります。母も僕の活動を見ていて、彼女と一緒に帰国した際には彼女の着物を用意してくれました。この母あり、です。ただ……すみません」
筆者:どうしたんですか?
山下氏:「長く使っているとワキの可動部分とかから空気が漏れまして……空気が抜けていく病弱キャラなんです。すみませんが、空気を入れるので外に出てもらえますか? 神聖な行為なので……」
将来はファンに感動を与えて泣かせる展開も……
一旦中座し、再び部屋に入ると、なんとなく大きくなったようにみえる薇薇を横目に話を続ける。
筆者:中国人にウケた理由はなんでしょう?
山下氏:「中国人特有のメンツを超える自虐ネタなようで「すごい!」と賞賛されます。批判はまったくと言っていいほどないですね」
筆者:自虐ネタは去年今年あたりではテキストでよく見ますが、動画で自虐で振り切れた人は見ないですよね
山下氏:「本人のイメージを考えると、反日以外にオタクやhentaiという分かりやすいイメージがあるなと。だったら、そのイメージの中で自虐風に薇薇に対しての愛を謳っていこうと考えました。結果として中国のコミケにあの格好で行ったらコスプレがきっかけですんなりコミュニティーの輪に入れました。着ぐるみを作ってる会社から連絡が来てもてなされたり、微博で「成都に行くよ」というと、「迎えに行くよ」と声をかけてくれた人がいて、送り迎えだけでなくごちそうもしてくれました」
筆者:ビリビリ動画でコミケ会場での山下さんに近づく人は若いですよね。中学生や高校生ですか?
山下氏:「中高学生が多いですね。中国だと90後(ジョーリンホウ)と呼ばれる1990年代生まれの世代で。考え方が柔軟というか、概念が固まってないこともあって、ラブドールは知っているのでしょうけど、それを非とは思ってないようです」
筆者:今後は彼女とどうされるのですか?
山下氏:「世界初のラブドールのコスプレアイドルにしていきたいですね。「会いに行けるアイドル」ではなく、「勝手に会いに来やがるアイドル」に。パチモノが生まれたら、ある意味勝ちだなと。あと今、僕と薇薇の生活を元にしたショートドラマ制作を考えていて、この一見不可解な愛情を事実に基づきながら美しくシュールに描く感動傑作にできたらと思ってます」
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。当サイト内で、ブログ「中国リアルIT事情」も絶賛更新中。書籍では「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)を執筆。最新著作は「日本人が知らない中国インターネット市場[2011.11-2012.10] 現地発ITジャーナリストが報告する5億人市場の真実」(インプレスR&D)。
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