四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第133回
誰もが音を、楽器を作れる「littleBits」「Synth Kit」
オープンソースの究極シンセは1本のメールから誕生した
2013年11月10日 12時00分更新
粘土や積み木の感覚で音を触ってほしい
―― 今回のSynth Kitは基本のセットであって、追加でいろんなモジュールが出るわけですよね?
坂巻 もちろん! 何作ろうか?
ポール これから相談しないと!
坂巻 なにか欲しいものあります?
―― とりあえず早くSynth Kitを売ってください。
ポール 僕らのウェブサイトにDreamBitsというページがあるんです。そこに欲しいBitsが書き込めるようになっていますよ。
―― littleBitsとしては、KORGと今回Synth Kitを作ったことで、どんな展開が可能になりますか?
ポール まず第一に考えているのは、フルサイズキーボードで演奏できたり、パソコンとつなげるようなUSBモジュールを作って、littleBits自体の可能性を広げることです。
―― Synth Kitは楽器を作る製品ですよね。楽器を演奏することに慣れた一般的な楽器のユーザーには、このことをどう説明したらいいですか?
坂巻 粘土や積み木で遊んでいた子供の頃の感覚を思い出して欲しいと思います。楽器ってある程度形式があるじゃないですか。こう構えてこう弾くべし、みたいな。でも、これには何にもない。変なことをやっても誰にも怒られない。僕なんかは下手に分かっているから、オシレーター、フィルター、エンベロープと並べるわけですけど、(Maker Fair Tokyo 2013のKORGブースで)子供たちが触っているのを見たら、最初にエンベロープを置いてあったりして、もうめちゃくちゃなんですよ。でもそれはそれで面白い音が鳴っていたりする。だから先入観じゃなくて、つないでみたらどうなるか、音に触るような遊び方を試して欲しいと思います。
―― KORGの皆さんは楽器を作るのが仕事ですが、そういう経験をしていない僕らは、楽器を作るという行為をどう捉えたらいいですか?
坂巻 僕らがいままで何をやってきたかというと、世間の人があまり知らなかった面白いものを公開しようということなんです。monotronなんかもそうですけど、アナログシンセは面白いし、凄くいいから、小さく安くしてみた。だから試してみてよ、っていうのが基本です。僕はMax/MSPを使って楽器のプロトタイピングをやりますし、高橋くんが普段やっているのもこういうことだもんね?
高橋 まあそうですね。もっと細かいけど。
坂巻 シンセをどうやったら面白いと思ってもらえるか。それを一般に開放していったらどうなるか。そういう挑戦をしてほしいなと。僕らが普段やっているのもそういうことなんです。Synth Kitもそのために使える面白いものと思って提案しているので、ぜひ試して欲しいと思います。
―― よし、上手くまとまりました。今日はありがとうございます!
ポール いまなんて言ったの?
坂巻 僕がいい話でまとめたんだよ!
電子楽器を製造しているメーカーにとって、littleBitsはリスキーな製品だ。それは製品設計を公開してパクられるという生易しいものではない。これで電子回路を学んだ子どもたちが、自分たちの製品より優れたもっと面白い何かを作り、彼らを打ち負かす可能性があるということだ。しかし、そうした循環が作れなければ、いずれ産業は衰退する。だからオープンであることは大事なのである。
かつての日本の電子ブロックは、単なる子供向けのオモチャではなかった。電子ブロックで電子回路の面白さを経験した世代が、いまの日本の電子産業や、それに関わる文化を支えているようなところもある。いずれlittleBitsやSynth Kitで遊んだ新しい世代が世の中を変えてゆくだろう。だが、そんな楽しいオモチャを子供に買い与えるより先に、まず自分が遊ぶためのlittleBitsやSynth Kitが欲しいという大人ばかりで、なんだか実に困ったものだなと思う。
著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター、武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。インターネットやデジタル・テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレ。
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