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社会インフラを支えるネットワークをインテリジェンス化

SDNやビッグデータ、M2Mまで盛り込んだ日立の「TMS」とは?

2013年10月17日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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10月16日、日立製作所 情報・通信システム社はネットワークインフラ事業を強化し、「TMS:Traffic Management Solutions」に基づいた新しいソリューションを発表した。SDNやNFVといった仮想化技術やM2Mなどの新しい通信技術を盛り込み、社会インフラに役立つビジネスを展開する。

スマートフォン&ビッグデータ時代に対応するネットワーク

 今回、日立製作所が打ち出すTMSは、「ビッグデータ利活用の技術により、ネットワークの高付加価値化を実現する」と説明される。ITを使って社会インフラを高度化する社会イノベーション事業の基盤となるネットワーク技術として展開され、おもに通信事業者に対して、既存のネットワークでは実現できないインテリジェンスを提供する。

日立製作所 情報・通信システム社 プラットフォーム部門 COO兼 通信ネットワーク事業部長 和田宏行氏

 TMS登場の背景には、スマートデバイスの普及による、急激なデータトラフィックの増加がある。TMSについて説明した日立製作所 情報・通信システム社 プラットフォーム部門 COO兼 通信ネットワーク事業部長の和田宏行氏は、「スマートフォンにより、トラフィックの発生が“端末ドリブン”となり、ピークがコントロールできなくなる。また、ピークのために設備を打つと、大きなコストがかかるのも課題」と語る。通信の主体も人同士ではなく、モノとモノをつなぐM2Mに拡大し、トラフィックの種類自体も多様化しつつある。こうしたトラフィックの状態を把握し、目的に応じて制御するソリューションが日立の定義するTMSだ。

TMSを組み合わせた多彩なソリューション

 今回日立が発表したのは、通信事業者向けのTMS本体のほか、TMSを軸としたネットワーク仮想化ソリューション、広域SDN連携ソリューション、M2Mトラフィックソリューションの4つになる。

TMSとTMSをベースにした3つのソリューション

 本体のTMSでは、モバイルトラフィックのようなリアルタイム型データのほか、ストレージに蓄積される顧客データやログデータまで対象となる。これらのデータの移動を「計測」することで見える化し、本質を「分析」。そしてあるべき姿に「制御」を行なうのがTMSの役割だという。具体的には、計測装置がDPIと呼ばれるパケット計測を行ない、日立のストリームデータ処理基盤でリアルタイムに分析。この結果を基に、トラフィック制御装置がポリシーに従ってリアルタイムに帯域制御や圧縮を行なう。これにより、最適な設備投資とユーザーのQoE(Quality of Experience)向上を実現する。

トラフィックの状態を把握し、目的に応じて制御するTMS

通信事業者向けのTMS

 過去にもこうしたトラフィック管理は存在していたが、「今まではそれぞれが分断しており、時間がかかっていた。しかし、TMSでは秒単位でサイクル回せるのが特徴」(和田氏)といった違いがあるという。

 また、通信事業者向けのネットワーク機能仮想化ソリューションでは、ネットワークのコントロールプレーン部分をIAサーバー上で仮想化して動かすNFV(Network Function Virtualizetion)の概念を取り入れ、LTEネットワークのスケーラビリティを確保する。実際には、従来ハードウェアで提供されていたLTEのモバイル制御機能を実現するEPC(Evolved Packet Core)を仮想化し、ブレードサーバーに搭載。管理システムがトラフィック量に応じてEPCリソースを自動配備する。「設備投資のリードタイムを、数ヶ月から数週間まで大幅に短縮できる。キャッシュフローも改善できる」(和田氏)とのことで、大きなメリットがあるという。

通信事業者向けにEPCを仮想化

 広域SDN連携ソリューションは、データセンター内のSDNコントローラーが、広域SDNコントローラーと連携し、トラフィックを包括的に制御できるというもの。データセンター間の帯域の変更や制御などが動的に行なえるという。なお、この広域SDNに関しては、総務省の「ネットワーク仮想化技術の研究開発」として委託された「O3(Open Inovation over Network Platform)プロジェクト」(9月17日発表)で研究開発される内容でもあり、日立はパケットトランスポートシステムのSDN化を取り組むという。

 そして、もっとも日立らしいともいえるのが、TMSを導入したM2Mソリューションだ。日立は道路、工場、建物、鉄道、農業、電力・インフラ、データセンターなどさまざまな分野で、M2Mソリューションを展開している。「他社と違うのは、社会インフラの部分を実業でやっていること」(和田氏)。こうしたM2Mの技術とトラフィック管理を統合することで、より高度な社会インフラソリューションを実現できる。

 和田氏が挙げたのは、トンネルや橋の監視といった用途の例だ。同社では、AirSenseというワイヤレス環境モニタリングシステムを提供しており、滑りやひずみ、雨・風量などのデータを定期的に送信し、収集・蓄積・可視化まで行なえる。センサーデータの収集技術を用いることで、危険を予測し、保守員が現地に向かうというところまではできていたわけだ。しかし、高画質な監視カメラがあれば、保守員が行く前に正確な状況把握が行なえる。ここでTMSを活用することで、小容量のモニタリング用のネットワークから、大容量のビデオ伝送用の広帯域なネットワークに、回線を切り替えることが動的に行なえることになる。将来的には、危険を自動車などに緊急通知し、事故の発生を防止することにつながる。

トンネルや橋の監視におけるTMSの活用

 日立では、特にこうした障害予兆をリアルタイムに計測・分析する分野において、TMSが有効と考えており、災害時の可用性確保、システムの安定性向上、無線通信でのエンドツーエンドでの品質保証などを目的としたTMS技術を「重要インフラ保護」のために積極的に開発していくという。

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