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本当にユーザーにメリットをもたらすITインフラのあり方とは?

「垂直統合型システム」に異論あり!デル×TECH ASCII白熱討論

2013年10月22日 11時00分更新

文● 構成:大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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「スタンダード化」と「ベンダー依存からの脱却」がIT予算を救う

大谷:なるほど。ユーザーがITのユーティリティ化を求めていること、そしてその実現を目指したことで、必然的にソフトウェア中心の世界へと移行しつつあることはわかりました。

 しかし、それと垂直統合型システムへの評価は関係あるのでしょうか。サーバーベンダーが「構築や運用の手間が省ける」とうたう垂直統合型システムのほうが、やはりいいという意見にはなりませんか。

布谷:それはどうでしょうね。ユーティリティコンピューティングの世界を本当に実現するためにはどうしたらよいかを考えると、結局は「スタンダードなテクノロジーを使って、シンプルに構築する」以外にはありません。しかし、“いわゆる”垂直統合型システムはそうではありませんよね。

 デル自身の話をしましょう。デルでは2000年を過ぎた頃から社内システムの大規模なリプレースに取り組みましたが、それまではIT予算の80%を既存システムの運用やメンテナンスに使っていました。なぜだろう?という話ですよね。

大谷:「IT予算の8割」というと平均的な企業と変わらない割合ですよね。なぜですか。

布谷:既存システムに大きなコストを奪われてしまう理由、それは「スタンダードが決まってないこと」によるメンテナンスコストの増大と柔軟性の欠如だと思います。

 デルの場合は、システム更改に合わせて徹底的に「スタンダード化」に取り組みました。新たに導入するサーバーは自社製の3機種、OSイメージは2種類に絞り込み、データフォーマットやアプリケーション、ミドルウェアも業界標準技術を採用し、国ごとに異なるものを開発せず全世界で統一することにしたのです。同様に、従業員が使うPCも皆が同じ機種、同じOSイメージを使うと。「垂直方向」ではなく「水平方向」に統一を図ったわけです。

 こうした取り組みを行うことで、運用やメンテナンスのコストが大幅に削減されます。現在では、既存システムにかかるコストはIT予算全体の51%にまで抑えられています。

大谷:なるほど。既存システムの運用コストを抑え、新しい取り組みに投資できる予算が増えれば、ビジネス上で求められる“次の一手”を迅速に打てますよね。

布谷:はい。たとえばBYODをやりたい、グローバル共通のプライベートクラウドを構築したいといった、新しいニーズにも対応できる予算を確保できるわけです。

 “いわゆる”垂直統合型システムが抱えるもう1つの大きな問題は「ベンダーに依存する部分が多いこと」、つまりベンダーロックインです。最近でもパブリッククラウドのロックインが懸念されていますが、ロックインの問題はずっと昔から変わらず存在します。

 これはあるセミナーのユーザー講演で伺ったご意見ですが、既存システムに8割ものIT予算を割かなければならないのは、結局「ベンダーに聞かなければわからない」ことがたくさんあるからだと。さらには「ベンダーの“この人”に聞かなければわからない」からだと。システムを運用していれば、すぐに修正したい、すぐに改善したいといったことは出てくるのですが、結局のところ自分たちIT部門だけではどうにもならず、ベンダーにメンテナンスを依頼しなければならないケースが多すぎるというのです。そしてその費用が高いのか安いのか妥当なのかもよく分からないのだと、そうおっしゃってました。

大谷:自社のシステムなのに、思い通りにできない……。

布谷:おかしな話ですよね。ユーザーが本来求めている、ITの柔軟性や迅速性とはまったく逆の世界です。

20年前、30年前の世界に逆戻りしてはいけない

布谷:さて、ここで本題の垂直統合型システムに目を移すと、「スタンダード化」「ベンダー依存からの脱却」のそれぞれで問題を抱えていることがわかります。

 まず、ハードウェアからミドルウェアまで垂直統合化されたシステムでは、ユーザー自らの意志で「スタンダード」を選ぶことができません。もちろん、中にはユーザーの考えるスタンダードとベンダーの提案とが一致するケースもあり、それであれば問題ないと思うのですが、しかしすべてのケースがそうであるわけがない。住宅で言えば、すべての人が建売住宅に住みたいわけではないのと同じです。

大谷:特にミドルウェアには問題を感じますね。業界標準の製品ならまだしも、そのベンダーの製品だからというだけでバンドルされているミドルウェアもあります。言葉は悪いですが、それは“バンドル商法”じゃないのかと。

布谷:さらに、垂直統合型システムでは「そのベンダーにしかわからないこと」が増えてしまう。たとえばソフトウェアのコードを、自社のハードウェアプラットフォームに合わせて最適化していることをアピールポイントにするものもありますが、結果としてそのベンダーへの依存度がますます高まるのです。もれなく導入前の綿密な事前検証を推奨していることもあり、導入期間やトータルコストで見ると、やはりスタンダードなテクノロジーとは異なる気がします。

大谷:20年前、30年前と変わらないハードウェア中心の世界に戻るわけですね。そのベンダーに所属するエンジニアしか保守メンテナンスできないのは、ベンダーとしては“おいしい”ビジネスかもしれませんが……。

布谷:メインフレームやUNIXの時代からずっとハードウェア中心の世界でビジネスをしてきたサーバーベンダーにとっては、そういう世界のほうが居心地がいいし、なじみのいいビジネスモデルなのだと思います。

(→次ページ、求められるのはソフトウェア中心のスタンダードなスタック)

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