顧客が本当に必要としているものは「ITユーティリティ」
大谷:もちろん、サーバーベンダー側の事情は理解できなくもありません。サーバーがどんどんコモディティ化、つまり安くて利益率の低い製品になっており、新たな収益源を探さなければならない。そこで、新たな提案として垂直統合型システムを持ってきたと。
ITベンダーが顧客にアピールしている一番のポイントは「運用コストの低減」です。これまでのオープンシステムは高性能/低コストを実現したが、その一方で大量のサーバーをつなげたITインフラの構築/運用には非常に手間がかかる。そこで、そうした手間が一気に省ける垂直統合型システムを提案します――という理屈です。
布谷:そのストーリーはちょっと出来すぎですね(笑)。少し長くなりますが、流れを追って説明させてください。
まず、ユーザーが最も望んでいるものは「ITのユーティリティ化」です。
ITシステムに対しては、ずっと昔からコストパフォーマンスや拡張性、可用性の向上といったものが追求されてきました。これは今後も変わりませんが、一方で新たに「ITをビジネスでもっと有効活用したい」「ユーティリティのように便利に使いたい」という需要が高まり、迅速性や柔軟性なども求められるようになったのです。
企業が持つIT資産でいちばん大事なものは、業務にまつわる「データ」と、データを扱う「アプリケーション」です。ここには企業のさまざまなビジネスノウハウが詰まっています。その一方で、アプリケーションの“器”であるITインフラは、あくまでユーティリティとして便利に使えればよいわけです。
「ソフトウェア中心の世界」への移行は必然である
布谷:ここでエポックメイキングな技術として、VMwareに代表されるサーバー仮想化が登場します。仮想化技術のハイパーバイザーが、サーバーのハードウェアとOSより上のレイヤーとを“引きはがした”。この功績は非常に大きいと思っています。
大谷:そうですね。それまではサーバーとOS、ソフトウェアが密にくっついていて、固着していましたから。ハードウェア中心の世界と言ってもいい。
布谷:仮想化技術はさらなる進化を遂げます。ハイパーバイザー上で仮想サーバーを作れるだけではなく、物理サーバー間を移動させたり、HA構成が組めたり、ダッシュボードから電源をON/OFFしたり、簡単にコピーをとったりすることもできるようになりました。……これって、ユーザーの求めてきたユーティリティコンピューティングの世界に近くないですか?
大谷:はいはい、近づいてますね。納品まで何週間も待たずに新しいサーバーが立てられるし、スケールも柔軟に変えられる。そうした便利なサービスを盛り込んでいけば、やがてクラウドインフラが完成します。
布谷:さて、仮想化によってハードウェアとソフトウェアが切り離されたおかげで、次のキーワードである「Software-Defined」にたどり着きます。今後のITアーキテクチャを考えるうえで、最も重要なキーワードですね。
サーバーと同じようにネットワークもストレージも仮想化、リソースプール化したうえで、ITインフラ全体をソフトウェアで定義できるようになれば、より便利なユーティリティコンピューティング環境になるのは自明です。それがSoftware-Definedという発想であり、システムのコンフィグレーションは完全にソフトウェアの中でできあがるようになります。
大谷:ITユーティリティを追求していくと、ハードウェア中心の世界からソフトウェア中心の世界に変わると。
布谷:はい。そしてそこは、IT業界にとっても大きなポイントなのです。ハードウェア中心で考えられてきた旧来の世界は、つまりはサーバーベンダーが主導できました。しかし、仮想化技術の出現によってそれがひっくり返った。ハードウェアとソフトウェアが切り離されたことで、サーバーがデル製だろうがどこ製だろうが関係ない世界になったのです。
大谷:布谷さん、デルの人なのにそんなこと言っていいんですか?(笑)
布谷:はい、ユーザーの立場を代弁させていただきました(笑)。もちろんスペックや多少の管理機能の差はありますが、基本的なところの差はほとんどなくなってきています。
仮想化、Software-Defined以後の世界では、1台1台の物理サーバーに「個性」は必要ありません。グーグルやフェイスブックが構える巨大インフラをご存じかと思いますが、個々のサーバーはいわば“流体”のようになって溶け合い、1つのリソースプールへと流し込まれるだけです。拡張性や可用性、セキュリティといった「個性」、つまり要件は、プールから切り出したリソースに対してソフトウェアで自由に定義できますから。
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