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石狩データセンターへの大規模導入が決まった新ラックはここが違う

さくらが共鳴したリタール「TS ITラック」のコンセプト

2013年10月02日 10時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 「さくらのVPS」「さくらのクラウド」など、法人/個人向けに、信頼性の高いインターネットサービスを提供してきたさくらインターネット。同社が北海道石狩市に構える郊外型大規模データセンター「石狩データセンター」では今年、リタールのデータセンターラック「TS IT」を採用した。同社代表取締役社長の田中邦裕氏は、「TS ITの製品コンセプトがさくらインターネットの求めるものと合致した」と語る。田中氏とリタール代表取締役社長の高村徳明氏に、今回の導入に至った背景を聞いた。

リタール代表取締役社長 高村徳明氏(左)とさくらインターネット代表取締役社長 田中邦裕氏(石狩データセンターにて)

“信頼性と低コストの両立”がコンセプトの石狩データセンター

 “堅牢性/信頼性と省エネルギーの両立”をコンセプトとして、2011年に竣工したさくらインターネット 石狩データセンター。「さくらのレンタルサーバ」「さくらのVPS」「さくらのクラウド」など、同社が法人/個人向けに提供するホスティングサービスの提供基盤として計画された同データセンターだが、近年の国内BCP需要も追い風となって、コロケーション/ハウジング拠点としても多くの企業に利用されている。

 さくらインターネット 代表取締役社長の田中邦裕氏は、石狩データセンターの現況について「当初は3年ごとに1棟ずつ増築していく計画だったが、予定よりもはるかに早く、開設から2年で1号棟が埋まった」と顧客需要の活発さを語る。2013年中には2号棟が完成し、現在の1号棟と合わせて1000ラック規模に拡大する予定だ。

 「どんな世界でも“うまい”と“安い”とを両立させるのは難しい。だが当社は、地価の高い東京ではなく、石狩の地を選ぶことでそれを両立させた。『都市型データセンターよりも信頼性が高く、なおかつ安い』というのがアピールポイントだ」(田中氏)

モジュール構造が最新テクノロジーの採用を可能にする

 もちろん、データセンター市場の激しい競争に勝ち抜くためにはたゆみない努力とチャレンジが必要だ。これまで石狩データセンターでは、たとえば外気空調の活用、直流給電(HVDC)システムの導入など、業界に先駆けた積極的なチャレンジで注目を集めてきた。

 こうしたチャレンジを支えるのが、石狩データセンターの「モジュール構造」という特徴である。建物1棟、サーバールーム1室、ラック1列といった、独立した小さな単位(区画)を積み上げてデータセンターを構築するという考え方だ。

 「最初から建物や設備を100%作り付けるのではなく、利用状況に応じて増設、スケールアウトしていく。大規模投資のリスクや過剰な設備投資の無駄を抑えられるとともに、モジュールごとに設計や設備を変更して、お客様にとって最適な信頼性とコストのバランスを実現できるというメリットもある」(田中氏)

 そして、拡張工事のたびに最新かつ最高のテクノロジーが導入できることも大きなメリットだ。現在使っている製品よりも新しい製品のほうが良いとわかれば、そのつど自由に、機動的に変更することができる。

 リタールのTS ITラックが採用に至ったのも、そうした背景があってのことである。リタールはドイツに本社を置く、国際的な総合システムエンクロージャーメーカーだ。

石狩データセンターでは今年、リタールの「TS ITラック」を設置し、さらに2号棟の新しいサーバールームへの導入も決定している

 「通常のデータセンターでは、建物の建築時に架台(ラックの基礎部)を設置してしまうため、それに合うラックしか設置できない。だが石狩データセンターの場合は、そのサーバールームを使い始めるタイミングで最新のラックを選定できる」(田中氏)

 石狩データセンターはすでに48本のTS ITラックを設置しており、さらに年内に工事が完了する2号棟の新しいサーバールームにも124本の導入が決定している。

“TCOという視点”からラックの価値を計る

 TS ITラックを採用した理由について、田中氏は「製品コンセプトが当社の重視するTCO(総所有コスト)的な考え方に合致した」ことを挙げている。さて、TCOの視点からラックを考えるとはどういうことだろうか。

 リタール代表取締役社長の高村徳明氏は、TCOの視点からラックを選定するには、ラック本体の価格もさることながら、エンジニアの作業性や生産性をどれだけ向上させるのかに着目すべきだと強調する。

 「ラックは購入後、10年、20年と長期間使われる製品。たとえ購入時の価格が1万円安くても、TCOへのインパクトとしては薄い。それよりも、そのラックを使うことでエンジニアが毎日繰り返す作業時間をどれだけ短縮できるか。人件費の高さを考えると、これがTCOに与えるインパクトは非常に大きい。現場の方よりも、経営者の方にこれを理解していただきたいと考えている」(高村氏)

 田中氏も同じ意見だ。実際、さくらインターネットでは従来から、ラック選定にあたってはラック内の配線の取り回し、サイドパネルの取り付け/取り外し、レールの動かしやすさなど「作業時間の短縮、使いやすさに強くこだわってきた」という。エンジニアの作業を効率化することで、TCO削減につなげたいという意識があったからだ。

作業工具不要、所要時間3分の1の「TS ITラック」

 TS ITラックの製品コンセプトは、まさにここにある。

 「TS ITラックは、1本あたり従来の3分の1程度の時間で、作業者が工具を持っていなくてもツールレスで組み立てられる。そのTCO削減効果は大きく、特にデータセンターのように大量のラックを保有する場合は、この効果が何倍、何十倍にもなる」(高村氏)

リタールのTS ITラックは“ツールレス”での作業、スリムなフレームによる広い内部空間、豊富なオプションなど、数々の特長を持つ最新のデータセンターラックだ

 TS ITラックでは“ツールレス化”が徹底されており、ラック本体の組み立てだけでなく、19インチレールの移動、各種アクセサリーの取り付けといった作業も工具なしで行えるように設計されている。

 これらの特徴に加えて田中氏は、TS ITラックの内部スペースの広さも「日常業務を効率化するもの」と高く評価している。かつてはラック内にケーブルの取り回しスペースが確保できず、ラックドアが閉まらなくなった苦い経験もあるという。

 TS ITラックではスリムで軽量な「TS8フレーム」を採用し、広い間口と内部スペースを確保している。TS8フレームの断面積は従来品の約7分の1しかないが、鋼板を多重折り曲げ加工することで高い剛性を確保し、一般的なラックよりもはるかに大きいラック耐荷重1500kgを実現している。

リタールのTS ITラックと従来型ラックの比較図(上から見た図)。TS ITラックは断面積が従来品の約7分の1というスリムなフレームを採用し、作業のしやすい広い間口と内部スペースを確保している

 またメッシュドアには、高い通気性を確保する=空調コストを抑えるために業界最大クラスとなる「開口率85%」のハニカムパネルを採用している。開口率を高めるとドアの強度が下がるため、鋼板を通常よりも厚くするなどの工夫が取られている。

 こうしたTS ITラックの数々の特徴は、リタールが産業用ラックで培ってきた特許技術だけでなく、世界中のサーバーメーカー、ネットワーク機器メーカーからもたらされたさまざまなノウハウや要望から生まれたと高村氏は説明する。

 「実はリタールの製造するラックのシェアは、全世界では40%程度に当たる。これまでDellやHP、IBM、NetApp、Cisco SystemsといったさまざまなメーカーにラックをOEM供給してきたからだ。こうしたOEM先からのさまざまな要望、ノウハウを集大成して、昨年発表したのがTS ITラックである」(高村氏)

 高村氏は、IT市場におけるリタールブランドの認知度はまだ低いものの、TS ITラックには他社が真似のできないハイエンドのノウハウが詰まっていると胸を張る。アセット管理のための19インチレール取り付け型RFIDリーダー、1Uサイズのラックマウント型消火器など、そうしたノウハウから生まれた“オンリーワン”のオプションも数多くそろえている。

さくらが「コモディティ」にこだわる理由

 さくらの田中氏は、TCOの視点からは「コモディティ(標準品)」というキーワードも重要だと指摘する。石狩データセンターでは、たとえば230ボルト仕様の電源など、グローバルに大量生産される標準品を積極的に採用し、オペレーションをそれに合わせていくというスタンスをとっている。

 「お客様に提供するサービスの品質が落ちたり、エンジニアの労力が大幅に増えたりしてしまうならば話は別だ。だが、そうでなければ絶対に標準品を使うべき」(田中氏)

 大量生産の標準品を選ぶことで調達コストが下がり、製品の品質、信頼性は安定する。自社独自のカスタマイズではその逆を行くことになる、と田中氏は説明する。

 そしてこの点でも、リタールのTS ITラックはさくらインターネットの考えるコンセプトに合致した。リタールではIT用、産業用を含め1日に約6000本のラックを製造しており、圧倒的な大量生産による価格と品質のメリットを顧客に提供できる。

 「たとえば『このラックのこの部分を切り取ってくれ』といったオーダーは難しい。だが、豊富なオプションが用意されているので自由度があり、十分に要求をカバーできる。生産性もとくに下がらない」(田中氏)

ラックの“ガラパゴス化”を乗り越えるチャレンジ

 マスプロダクションのメリットという話に関連して、高村氏は日本のデータセンターラック仕様の“ガラパゴス化”に言及した。

 「日本のラック市場では、何十年も前に定められた『700mm幅』という仕様が業界標準。しかしグローバルでは『600mm幅』か『800mm幅』が標準であり、世界中のメーカーはその2種類のラックを大量生産している。700mm幅のラックよりも圧倒的に生産量が多いため、コストパフォーマンスが違ってくる」(高村氏)

 さらにデータセンターにとっては、限られたスペースにより多くのラックを設置できるという大きなメリットがある。リタールの代理店である篠原電機からの勧めもあり、石狩データセンターでは次に設置する124本のラックのうち、104本を600mm幅とする選択をした。

 「600mm幅ラックを採用したことで、1つのサーバールームに設置できるラック本数が増え、データセンターの使用効率はおよそ25%も改善できる」(田中氏)

 ラック自体の幅は狭くなっても、内部スペースが広いTS ITラックならば従来と同じ機能性が得られると田中氏は太鼓判を押す。つまり700mm幅にこだわる必要はないということだ。

 「700mm幅という日本独自の仕様には特に意味はない。それならばなぜグローバルスタンダードの600mm、800mmという標準品を使わないのか。それをこれから日本のお客様に訴えていきたい」(高村氏)

 固定観念にとらわれないチャレンジを続け、データセンター市場に新しい風を起こしてきたさくらインターネット。そのさくらが選択したリタールのTS ITラックもまた、日本のデータセンターラック市場に新風を吹き込んでいくだろう。

(提供:リタール)

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